○●絵空事●○

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LAST SUMMER


 それはサッカークラブの合宿での出来事だった。
一日目の夜、俺はクラブ仲間の隼人に呼び出され浜辺へと出向いた。
足腰を鍛えるための合宿は海で行われ、午前中のランニングによって俺の疲れはピークに達していた。それは隼人とて同じ事だっただろう。
「あはは、お前何寝呆けてんの?確かに午前中のランニングはきつかったけどさぁ…」
「ちゃかすなよ!俺は真剣なんだ」
初めて見る隼人の表情は俺を黙らせるのには十分だった。
「俺…ずっとアキが好きだったんだよ…。そりゃあさ、お前って…男勝りだし、ケンカも学校で一番強いし…でも、やっぱお前って女の子なんだよ。俺にとっては」
そう言って隼人は走って浜辺を後にして、合宿所へと戻った。
 残された俺は、ただ呆然としていた。
―お前は女の子―
一番向き合いたくなかった事を、無理やり突きつけられた気がした。
俺は、そっと胸に手を当てた。小さいが、最近になって膨らみ始めてきた胸。
悔しかった。
今でこそケンカにも勝ってはいるが、そのうちに力でも負けてしまうということ。
サッカー部も、中学に入ったら女子は入れないということ。
叶うことなら男になりたかった。
同世代の女の子達がオシャレに興じていても、自分だけは違ったのに。
それでも俺は女だった。
悔しいよ…、どうして、どうして男に生まれなかったの…?
俺は徐々に視界がぼやけてくるのが分かった。

 どれくらいの時間が経ったのかは分からない。
ただ分かったのは、少しだけ気分がスッキリしたということ。
「男に敵わないなら、女の世界で一番になってやる!!」
俺は海に向かって、そう叫んだ。
ぐい、っと袖で涙を拭い隼人と同じように走って合宿所へと戻った。

 次の日の早朝ランニングで、隼人が俺の横に並んできた。
「あの…さ、ゴメンな。昨日…」
「ありがと」
「え?」
「隼人の気持ちは嬉しいよ。でも、俺やっぱお前とは友達がいいな」
俺の言葉に隼人は一瞬驚いた顔をした。
「ま、友達から…ってのもあるしな」
「何ふざけた事言ってんだよ!ほら、遅れるぞ!!」
隼人の肩を軽くパンチして、俺は走る速度を上げた。
 流れる汗が心地よかった。
 それは、小学校最後の夏の出来事。



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