第7話 病院ゲロ事件(後編)


 夜。うとうととうたた寝をするくんこ。
 その時テレビは・・。
“今、リンク容疑者が10分裁判(3500円コース)を終え、裁判所から出てきました。有罪です!有罪です!リンク容疑者有罪になりました!!”
 なんという事態であろう。よりによってリンクが犯罪者とは。くんこ物語はリンクの投獄で終わってしまうのか!?
 しかし肝心のくんこはいつの間にか眠りこけており、ぐうぐうといびきまでかく始末であった。
 リンクは控訴したので明日は高等裁判所へ行くらしい。いったいどうなるのであろう。
 やはり肝心のくんこは、のんきに花畑でリンクと戯れる夢を見てよだれを垂れ流していたのであった。

 次の朝。くんこはテレビの音で目が覚めた。どうやら一晩中つけっぱなしにしていたらしい。くんこはもう一眠りしようとテレビのスイッチに手を伸ばした。
「ふあ~ぁ~あ~・・・・・・・・・・?!!リンクくん!!!?」
 なんと、テレビでは有罪になったリンクの話題で持ちきりではないか。くんこは漫画のように眼球が飛び出るくらい驚いた。
「ゆ・・有罪・・・!?どうしよう!リンクくんが私のせいで犯罪者になっちゃう!!」
 慌てふためくくんこであったが、ここで取り乱してもどうしようもない。どうにかしてリンクを助け出さねばならない。必死で考えるくんこ。と、そのとき、誰かが病室のドアをノックした。
「くんこちゃん、大丈夫?」
 はいってきたのはゼルダだった。ゼルダは病室に組織がいないのを確認すると、ふうっと息をはいて、イスに腰を下ろした。
「くんこちゃん、聞いた?」
「うん、リンクくんのことでしょ。私も今ニュースで見たの・・・・」
「そう。くんこちゃん、リンクって本当にアホよね!本物のバカだわ!くんこちゃんをこんな目にあわせて」
 ゼルダはリンクを侮辱しまくる。この間のケンカをまだ根にもっているらしかった。くんこはそれは自分のせいだと言おうとしたが、ゼルダばかりが怒涛のごとくしゃべりまくっているので、言うチャンスを逃してしまった。
『ごめんねリンクくん・・・・・・』
 そう思いながらも、ゼルダの話に相づちをうつくんこであった。

 それから約1時間30分後、リンクへの不満をすっかり吐き出したのか、ゼルダは機嫌よく帰って行った。
 ひとり、病室にたたずむくんこ。
「イヤ、イヤよ。ぜ―――ったいにイヤ!!リンクくんは犯人じゃないもん!!リンクくんが捕まったらもうず―――っと会えなくなっちゃう!!そんなのぜったいにイヤ!!」
 言うが早く、くんこは病室を飛び出した。
「まっててリンクくん!リンクくんを犯罪者なんかにはしないから!!」
 くんこはそう叫びながら高等裁判所にむかって走りだした。病院のすぐ目の前は、かなりの交通量のある二車線の道路である。くんこはそこへ周りも見ずに、普通にとびだしていった。
 キキィ~ドン!ドン!ドン!!
 車が次々ぶつかっていく。一台の車から火の手が上がった。しかしくんこはそんなことにはおかまいなしに、次々道路を横切っていく。
 くんこはそのまま、奇跡的に事故に巻き込まれなかった車を見つけ、勝手に補助席に乗り込んだ。
「な・・なんだね君は!!」
「リンクくんがいる高等裁判所へ行って!!リンクくんは私を助けようとしただけなの!!ぜったいリンクくんを有罪になんかさせないから!・・・・とにかく、急いで行って!!」
「はぁ?いったい君はなんなんだいきなり!!ふざけるんじゃない!!」
 そりゃ、いきなり自分の車に乗り込んでどこかへつれてけと言われれば、だれでもこのような反応をするだろう。運転手(一般市民)はくんこをどなりつけた。
 くんこはそれを聞いて、あきらめると思いきや、なんと、逆ギレをはじめてしまった。
「あ―――!!じゃあいいわよ!運転してくれなくても!!あんたは降りろ!私が運転していくわ!!」
「え・・ちょっと・・・」
「早く降りろ!!」
 くんこは本気であった。しかし、くんこはまだ13歳。とうぜん自動車免許など持っているはずがない。しかも、この車はちょっとした『高級車』であった。運転手はもう一度くんこを見た。
『このガキ、本気だ・・・・;』
 運転手の脳裏に浮かぶのは、初めてこの車に乗ったときのこと。ローンを組んで、働いて、やっと買えたマイカー。ふかふかの座席に真新しいハンドル。新車特有の心地よい匂い・・・。
「わ・わかった!!ったく!裁判所までだぞ!!」
 運転手は、とうとう観念した。

 10分後、車は裁判所へ到着。くんこは車の外へ飛び出した。
「サンキューおっさん!後でおれいに育毛剤でも買ってあげるから!!」
「な・なんだとぉ!!生意気なガキめ!!・・・・でもたしかに最近薄くなってるような・・・・・・・・・・ってコラ―――!!!」
 くんこは運転手の怒声を背中で聞き流し、裁判所の中へ駆け込んだ。
 法廷では、もう20分裁判が始まっているらしい。くんこは法廷に入ろうと思ったが、3人見張りがいて、忍び込むことができない。
『チッ・・どうしようか・・・そうだ!!』
 ひらめいたくんこは、見張りの前に飛び出し、わざと息切れ切れにこういった。
「た・・助けてください!すぐそこでストーカーに刺されそうになって・・・!!」
 くんこはさも本当に襲われたかのように言った。
「まだそこら辺にいるかもしれない!!捕まえてください!!おねがいします!!」
「わかりました!あなたはここで待っていてください!」
 まんまとくんこの策にのせられた見張りの一人は、裁判所の外へといってしまった。これで、残った見張りは2人。
「君は、重要参考人として、こちらへ・・」
「リンクくんは、犯人じゃありません!!」
 くんこは2人の見張りにむかって叫んだ。
「リンクくんは私を助けようとして、でも、きもち悪くなっちゃって・・・吐いたのは私です!!」
「君、それって・・・!」
 くんこはさらに続けた。
「私が吐いたのにも理由があるんです。私、まっちゃポッキーを食べて・・・あ、これは売店から買ってきました。それで、食べた瞬間吐き気がして・・・・・・・それで・・・・」
 くんこは最後のほうで涙ぐんだ。もちろんまっちゃポッキーは組織からもらったとはいわなかった。命の危険があったからだ。
 見張りもこれはただごとではないと悟った。
「君、それは本当かい!?・・・・ちょっときてくれ!」
 見張りはくんこを法廷の前まで連れてきた。そして、自分は中に入っていった。扉が閉められていたので中で何が話されているのかくんこにはわからなかったが、とりあえず事態がいい方向に傾いているのを喜んだ。
『これで・・・リンクくんを助けられる・・・・』
「裁判長から許可が出た。君は法廷に立って証言してもらうから・・いいね?」
「はい」
 くんこは法廷に足を踏み入れた。
 法廷はシーンと静まり返り(このときはさすがにちょっとざわついていたが)、なんともいえない重々しい空気が流れていた。くんこは緊張で倒れそうになった。
『リンクくんは、こんななかで戦っていたのね・・・私のせいで・・・。でも、もう大丈夫!私がリンクくんを助けてあげるから・・・・!!』
 くんこは被告人の席に座っているリンクを発見した。
 リンクは驚いてくんこの顔を見ていた。くんこはリンクに微笑みかけると、証言台に立った。

 くんこはまっちゃポッキーを食べたことから便所の中でのことまで、すべてを事細かに話した。
 くんこは最後に証言をこうしめくくった。
「・・・でも、ゲロを吐いただけで罪を犯したというのはおかしいと思います!ゲロを吐くということは生理現象で、その本人にはどうしようもないことです。私はリンクくんの無罪を要求します」
 めずらしくくんこにしては筋のとおったこの意見が法廷内を確実に動かしていた。
 裁判長は、リンクの方へ向きなおった。
「リンク容疑者。この証言は正しいのですね?」
「はい。あ、でも・・・」
 リンクは言葉を切った。
「・・・・・ひとつ抜けてるところがあります。・・・・・・僕がくんこちゃんに人工呼吸したことが・・・・・・・・」
 法廷内は前にも増して静まり返った。
 ・・・・・・バタン・・!!!!
 何かが倒れる音がした。くんこである。
『リ・・リンクくんが・・私に・・・人工呼吸・・・・KISSぅ~!!!!?vvv』
 なんとくんこはこのはじめて知った事実に舞い上がり、興奮しすぎて倒れてしまったのだ。
「お・・おい、しっかりしろ!!お~い!!」
 裁判は一時中断された。

 くんこは医務室と思われる部屋で目をさました。くんこが上体をおこすと、ベッドの側に座っているリンクと目が合ってしまった。
 そのとたん、見る見るベッドが赤く染まっていった。
「く、くんこちゃん!?」
 リンクがあわててティッシュを差し出す。受け取ったティッシュを鼻に詰めているくんこに、リンクは笑顔で
「くんこちゃんありがとう!おかげで僕無罪だって!この事件は事故ってことでかたづけられたよ!!」
と報告した。くんこは飛び上がってリンクの手をとった。
「本当!?やったねリンクくん!!」
 言ってからくんこは思い出した。リンクとKISSvしてしまったことを・・・・・・・・。
 ドフ―――――――――――!!!!!
 くんこの鼻から大量の血が飛び出した。鼻血はもろにリンクの顔にかかってしまった。
「ああっ!リンクくんごめん!!雑巾雑巾・・・」
 雑巾でリンクの顔をふきながらも、リンクとの恋(?)が発展していることを喜び、ひとりムフフとなるくんこであった。
 しかし、このムフフ気分は次の瞬間ぶっ壊されることになるのである。
「リンク~大丈夫だったぁ?」
 気がつけば、リンクの周りをひらひらと謎の生物が飛び回っている。リンクはその生物を優しく手に乗せ、
「紹介するよ。僕の友達のナビィ。妖精なんだ」
と、くんこに見せた。
 くんこは嫉妬の炎が燃え上がるのが分かった。
『たかが妖精の分際で私のリンクくんの御手に・・・・・・・・!!』
 くんこは湧き上がる怒りを理性で抑え、なんとか平静を装った。
「へぇ・・・私はくんこ。よろしくね、ナビィ・・・・」
 しかし、声はどこかうわずっていた。くんこの眼のなかにはまるで漫画のように炎が燃え上がっていた。
 ナビィもナビィでくんこの耳元まで飛んでくると、
「あんたリンクの何?リンクは私のものなんだから、まさか手ぇ出そうなんて考えてるんじゃないでしょうね」
と小声で言い、フンと鼻を鳴らして再びリンクの元へ。
「リ・・リンクくん・・・・私、そろそろ帰るから・・・」
 こめかみに青筋が浮き立っているくんこ。ナビィをにらみつけるが、ナビィはリンクの頭の後ろに隠れてこのくんこの攻撃を見事にかわした。
「?どうしたのくんこちゃん。恐いかおして」
 張本人のリンクはというと、この女の戦いに気付くはずもなく、のん気にこんなことをほざいているのであった。
 裁判所を出たくんこは、腹立ち紛れにそばの電信柱を蹴った。
 バキッッッ!!ドシ―――ン!!!!
 電信柱は音をたてて崩れていった。くんこはこの崩れた電信柱も目に入らないほど怒り狂っていた。くんこの潜在能力が垣間見えた瞬間であった。


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