第11話 アーウィンに乗って


 空っぽのUFOキャッチャー、BOSSとガッちゃんが抱えている大量のぬいぐるみ、コインが空になった競馬ゲーム、カバンからあふれるキーホルダー、半壊し、スパークするゲーム機の数々・・・・・。そばには呆然と立ちつくす店員がいた。
「どーなってんのこれ・・・・・」
 くんこは開いた口がふさがらなかった。
「アハハ、ちょっとはりきりすぎちゃったー」
 ガッちゃんがこともなげに言う。くんこはあきれるばかりであった。
「ねぇ、おなかすいたねー」
「うんうん」
「どっか食いに行くかー」
 この悲惨な状況と店員の懇願するような視線を完全に無視して、一同は食事の相談なぞをしている。くんこはすばやく財布の中身を確認した。あと700円ぐらいしか残っていない。これでは牛丼が関の山である。どれもこれも、もとをただせばゆいこのせいである。くんこは今ここでゆいこを消せたらどんなにいいだろうと思っていたのであった。
「ねえねえくんこ。聞いてる?」
 くんこはガッちゃんの声で残酷形妄想から現実に引き戻された。(小学生相手に何考えてるんだこいつ)
「な、なぁに?」
「今からBOSSおすすめの『えびす』って店行くから」
「えびす?・・・・そこって安い?」
「えびすは超高級レストランだよ。知らないの?あそこのステーキすっごくおいしいんだからぁvv」
 BOSSがにやけながら言った。くんこは血の気が引いた。
 えびすはBOSS行きつけのレストランで、料理はすべて超一品。その代わり値段も超一品の、夜景のきれいなレストランである。もちろん、くんこのような『庶民』には一生縁のないような場所であることはいうまでもない。もちろん一品700円の料理があるわけもない。
「でも、そこってここから遠いんでしょ・・もっと近いところに行こうよー」
 くんこは無駄だとは知りながらも、いちおう進言してみた。
「なに言ってんの!アーウィンに乗っていけば20分だよ!20分!!」
「だってお金ないもん・・・・」
 くんこが最後の望みとばかりにつぶやく。
「そんなの貸してあげるから!」
 BOSSはあくまで行く気だった。くんこはしぶしぶうなずくしかなかったのであった。
「電話しといたぜー。30分後に来るってよ」
 カナエはアーウィンの手配まで済ませたらしい。もうくんこに逃げ道はない。くんこは腹をくくった。

「おまたせしましたー!アーウィン屋より、アーウィン3機到着でっす!!」
 ファルコンが声高々に叫んだ。
 さっそく組織はそれぞれアーウィンに乗り込んだ。ファルコンのところには幹部、BOSS、ゆいこが、ファルコのところにはカナエ、ガッちゃんが、そしてスリッピーのところにはくんこ一人だけが乗った。
「お客さん、どちらまで?」
「えびすまでね」
「了解!ところで、君たち可愛いねぇ、歳いくつ?」
「はぁ?」
「君たちぐらいかわいいと、彼氏いるんだろーなー。ねぇ、どうなの?」
 ファルコンは上空に上がり、逃げられないのをいいことに、3人にいきなりこんなことを言い出した。ファルコの方でも同じようなことを言っているのであろう。かすかだが、カナエの暴れる声が風の中に聞こえる。実はこのふたり、かなりエロだった・・・・・・・・・。フォックス(26)は、とまることなくセクハラ発言を繰り返す。ファルコは、フォックスの方に一人女の子が多いことがきにくわないようだ。ぜったい乗りたくないモノに乗ってしまった・・。組織の皆はいまさらながら激しく後悔していた。
 しかし一方のくんこはというと。
「キミ、とっても可愛いねぇv声とかもアニメ声って言うかぁ~、男の子だけど可愛いってところに魅力を感じるなぁ~vv」
 なんと、スリッピーが他の二人とは違い、超純粋で可愛らしいのをいいことに、くんこがスリッピーを逆ナンしているではないか。なんたる不届き者であろう。スリッピーは今すぐこいつを窓から突き落とすべきだったのである。そう、あんなことが起こる前に・・・・。
『なんなの、この人!?』
 スリッピーは相棒たちとよく類似したこの女の子を、不信感に満ち溢れたまなざしで見つめた。それに気づいたくんこは、違うふうに解釈し、笑い返した。スリッピー(超純粋)は、ますますわけがわからなくなった。
「あのぉ・・・あんまり話しかけないでくれます?ボク、まだ新人で操縦へただから・・・」
 スリッピーは困りながら言った。するとくんこが
「ねぇ、私も操縦してみたーい♪」
 などとほざきだしたではないか。・・・・・・ってお前なにを言い出すのだ!!いっぺん死んで来い!!くんこは言うが早く、スリッピーに身体を密着させ、操縦桿を勝手ににぎった。
「わ!ちょっとなにを・・・」
 スリッピーが叫んだその時であった。
 突如吹いた強風が、3機のアーウィンの機体をあおった。フォックスとファルコは、なれたようすで体勢を立て直した。さすが、エロといってもベテランはベテランである。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 スリッピーのアーウィンは、体勢を立て直すことができず、きりもみ状態に入ってしまった。スリッピーの操縦が下手なせいもあるが、なによりジャマなくんこの存在である。スリッピーの必死の努力むなしく、2人はアーウィンを捨てて脱出せざるを得なくなった。
「フ・・フォックス・・・たすけ・・・・・・」
 スリッピーが最後に入れたこの通信も、頭の鈍いフォックスには届かなかった。
「おいフォックス。スリッピーがいないぞ」
 ファルコから連絡が入った。その連絡を受けてようやくはじめてフォックスは辺りを見回した。しかしスリッピー機はただいま雲の下を落下中なので、肉眼では捕らえることができない。
「あいつなら大丈夫だろ。俺たちの、仲間だからな」
 フォックスはあきらかにBOSSたちを意識しながらそう言った。
「お前、マジでアホだな!あいつのヘタかげんお前も知ってるだろ!」
 ファルコは少しキレ気味であった。しかし、その言動はスリッピーを心配していると見せかけて、あきらかにカナエたちにいいところを見せようとして発したものと思われた。救いようのないエロ2匹である。
 そんなことを言っているうちに、2機はえびすに到着した。
「あれ、くんこは?」
「それなら大丈夫!スリッピーのやつ、まだなれないからちょっと遅れてるだけだから、安心しなっ!」
 フォックスが人差し指と中指を立てて軽く敬礼した。どこからどう見てもかっこつけているだけである。組織はそんなエロどもを無視し、さっさと金を支払いえびすへ入っていった。

「キャァ――――!!助けて――――!!」
「お客さん!これを使って!!」
 落下するアーウィンの中でパニック状態のくんこ。スリッピーはさすがにまじめなだけあって、何とか冷静に対処しようとしている。本当にほかのエロ2匹とは大違いである。
「お客さん!!パラシュートとりましたか!!脱出しますよ!!」
 そういうが早く、スリッピーは操縦席横の小さなレバーを倒した。次の瞬間、くんこの身体は機外にあった。
「どうすれば・・・・!?」
「そこのレバーを引くんです!早く!!」
 スリッピーのパラシュートはすでに開いていた。くんこもスリッピーの言葉を信じ、レバーを引いた。
 バスっっっ!!
 巨大な音とともにくんこのパラシュートが開いた。しかし、くんこはその音のショックで気を失ってしまっていた。もう地上の様子がほぼ視認できるところまで迫っている。くんこはパラシュートが開いてはいるものの意識がない。
 くんこの身体は、ゆっくりと暗い夜の森の中に吸い込まれていった。

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