第12話 夜の森で


「ン・・・ここは・・・・・」
 くんこの手にふかふかしたものがさわった。くんこは力任せにそれを引き抜いた。目の前に持ってきてよく見ると、それは、白い羽毛であった。
「グワアァァァァ!アホォォォォ!!」
 つんざくような奇声がしたかとおもうと、くんこの身体はガクン、と下にむいた。そして、いっきに落下しはじめた。
「キャァァァ!!」
 くんこは激突寸前で地面に放りだされた。腰をしたたかに打ったくんこは、そのまま意識を失った。
 くんことともに落ちた白いモノは、ゆっくりと頭をおこした。それは、よくみると頭の部分が少しはげているが、まぎれもないアホードリであった。自慢の白い毛を抜かれたアホードリは、怒りに燃えた目でくんこをにらみつけた。
 とつぜん空から降ってきて、さらに自分の毛を抜き、その痛みのせいでこんなところに落下してしまった。
 さぁ、どうしてくれようか。
 アホードリの憎悪に満ちた目が、ぐったりとして動かないくんこを頭の先から足の先までじっくりながめまわした。アホードリの顔に、いっしゅん残酷な笑みがうかんだ。
 こいつの毛をぜんぶ抜いて、ハゲにしてやる!!
 アホードリはくんこの背中のジャマなパラシュートをその大きなくちばしで喰いちぎり、近くのしげみに投げ捨てた。くちばしがくんこの髪をひとすくいすくう。くんこの髪、一世一代の危機!!
 と、そのとき、アホードリがパラシュートを投げ捨てた地点から低いうなり声が聞こえた。アホードリの頭のどこかで警報が鳴った。おそるおそるふりむく。
「グゥゥゥゥ・・・・・!!」
 アホードリはパラシュートを頭からかぶり、するどい眼光で自分をにらみつけている熊と、まともに目があった。アホードリの動きが止まった。
 熊のうなり声だけが支配する、沈黙が広がった。
「アホ―――――!!」
 沈黙を破ったアホードリは、その場にくんこを残し、いそいで飛び立った。しかししっかり復讐のことは覚えていたわけで、去り際、アホードリはくんこの服に糞を落としていった。
 熊はゆっくりとくんこに近づいていった。
 とつぜん、熊の動きが止まった。かと思うと、熊はくるりときびすを返し、しげみの奥へ消えていった。
 いったいなにが起こったのであろうか。
 きわめて簡単である。読者の皆さんはすでにお気づきだと思うが、くんこの服に付着した糞から放たれた悪臭が、熊よけの役目を果たしたのだ。報復のつもりが結果的にくんこを助けることになってしまうとは、まったく皮肉なことである・・・・・・・・・。(ここは白土三平ふうに読んでください)

 そのころの組織は、満腹で大満足中。くんこのことなどすっかり忘れていた。(酷)

 くんこが目覚めたのは、それから1時間後のことであった。
「うぅ~ん・・・・・頭、いったぁ~い」
 くんこは立ち上がり、ショートパンツについた草をはらった。ゆっくり周りを見回す。
「・・・・・・・・・・・・どうしよう・・・・私、こんなところで・・・・・・」
 くんこはここでやっと自分のおかれた状況がわかったらしい。ちなみに、くんこは服に残っている悪臭を放つ糞には気づいていないのであった。
 くんこはとりあえず、森の中を散策することにした。ここでじっとしていてもはじまらないのだ。
「もうっ!!あのカエルのせいでこんなことになったんだから!!」
 くんこはわざと大声で怒鳴った。というか、元を糺せばくんこがすべての元凶なのだが。スリッピーもいい迷惑である。その後もくんこは不安をかき消すように大声でスリッピーや組織の悪口を言ったり、リンクに対しての愛の言葉を吐きまくったり、静寂漂う森の雰囲気を、見事にぶち壊しまくっていた。
「リンクがないと、くんこは生きられないーvv・・・・・?・・・・・・」
 リンクへの愛の詩を熱読していたくんこは、ふと背後に何者かの気配を感じて立ち止まった。気のせいだとは思いつつも、くんこはそっとふりむいてみた。
「なーんだ。なにもいないよ」
 ほっとしたくんこは、前を向いた。

 目が合った。

「キャァア――――――!!お化け――――!!!」
 くんこは驚いて、腰を抜かしてしまった。そのまま木の幹にもたれかかる。
「キャァー!イヤー!リンクくーん!こないでー!助けてー!」
「ケケケケケ♪」
 叫びながら震えるくんこを見て、小さなテレサの子は楽しそうに笑った。
「イヤー!怖いー!リンクくーん!」
 その笑い声を聞いて、くんこはますます大きな声を出した。さすがにうるさかったのか、それともつまらなくなったのか。テレサの子はくんこをおいて森の奥へ消えていった。

 しばらくして、くんこはおそるおそる顔を上げた。もう目の前には何もいない。一応周りも見まわす。夜目がきかないとはいえ、月明かりである程度なら見渡すことができた。
「・・・・はぁ・・・・・・・」
 くんこの口から大きな溜め息が漏れた。冷や汗で、身体がびっしょりだった。
 くんこは一息つくと、また出口を求め、さまよい歩きはじめた。
 それから10分ぐらい歩いただろうか。くんこはまた背後にイヤーな感覚をうけた。怖い。そう思いながらも、身体が自然と後ろへむく。
 そこには、長い髪をたらした、一人の白装束の女性が立っていた。
「あ、人だ・・・」
 くんこはふとそう思った。助けを求め、駆け寄ろうとする。しかし、身体が動かない。
 くんこの頭のどこかで警報が鳴った。逃げなければ。そう思った。
 女性は、立ち尽くすくんこに一歩一歩近づいてきた。手に何かを持っている。女性はそれをくんこに差し出すようにした。
「それ、何・・・・・?」
 くんこは震える声を絞り出し、女性に聞いた。女性は、黙ってくんこに近づいてきた。
「・・・・・・・・・・・・・!!・・・・」
 くんこは、声を失った。そして、そのままその場に音もなく倒れこんだ。
 くんこは見たのだ。女性の長髪の下にのぞく素顔を・・・・・・!!

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