ベルギー(四歳)の雑記部屋

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シキと妹の場合

月姫 S ide S tory

『白昼夢』





ケース2 シキと妹の場合




ああ、願わくば・・







I wish….





周囲は見渡す限りの白。
だがそれは雪などではなく純然たる色としての白。


「・・・ここはどこです」



そしてその空間は白く果てがなかった。



まるで自分を残して世界が丸ごと消失してしまったかのような空間。



ふと気づけばそんな見知らぬ場所にいた。




「お前か・・」



問うたのは誰だろう。
和服を着流した男。



――――わずかに記憶の琴線に触れる



しばらく目を凝らしてみるがだが、やはりわからない。


・・と言うよりも


「何故でしょう?私は貴方のことを知っているはずなのに貴方が誰なのか上手く認識することが出来ません」


そんな感じだ。


「まぁ気にするな。ここはそう言う場所らしいからな。しかしお前がここに来るとはな、と言うかまたお前に会えるとは思ってなかったな正直。あの馬鹿を通じてあいつと繋がりが強いやつにチャンネルが開いたとかそんな感じか?・・・それともあの使い魔の仕業か・・」


男は微苦笑を漏らしながら、説明にならない説明らしき物をする。



「・・気に入りませんね。貴方一人だけが状況を把握しているようで」


「まー、いいじゃねぇか。どーせこれはお前にとって、夢みたいなもんなんだからよ。つーか正直な所、俺にだってこの現象を説明してみろって言われたら無理だしな」


と言うより元から説明する気もなさそうだ。


「・・夢ですか」


確かにこんな空間が現実の世界にあるとも思えない。


ならば夢なのだろう。


酷く現実的な仕様にできてしまった脳とその思考回路はそれゆえにこの非現実
的な空間を認めてしまう。


「そ、ゆ・め。どうだ?何か悩み事やらグチやらがあったら聞いてやるぞ。ここでの俺の役割はまさにそれだからな・・ってかそれ以外、出来ることもやることもないんだが」


何故か男の口調が変わったような気がする。
口調と言うかその言葉の中にある微妙な調子と言うか。


・・・こちらの事を気遣っている?


「そうですね、他にやる事がないのでしたら。・・では愚痴らせて頂きます」


どこの誰とも判らぬ人間に他にやる事がないからと言う理由だけで愚痴る。


普段ならばありえないこと。


だが今、ここにこうしている事自体ありえないことなのだ。


ならば別に普段ならありえないことを自分がしても何もおかしくあるまい。


「そうこなくっちゃよ」




男は楽しそうに笑った。



ままならない事。
全く持ってどこをどうすればあそこまでの朴念仁が生まれるのか解らない思い人の話。
学校の事。
お世辞にも平和だとか平穏だとかいえない仲間や後輩との関係の話。
知人の事。
隙あらば兄を夜な夜な攫っていく不埒な吸血鬼とそれに便乗し必ず騒動を起すカレーの話。
屋敷での事。
隙あらば何かと悪巧みを企てる腹黒メイドの話。
日常の事。
そんな毎日がずっと続けばいいのにと思う自分の話。





















そして・・





















「実の兄が生理的にうけつけません」







ここに来て男の顔色がイヤになるくらい曇る










「・・・・・・・・」


「もう亡くなってしまったのですが思い出すだけでも全身が総毛だつ程の嫌悪感が・・」


「・・・・・・・・・・・・・・」



どうしたのだろう、男は無言で妙にこちらと視線を合わせようとしない。


「しかし客観的に見て死者に対して…しかも肉親にそんな悪感情を抱くのは人としてあまり褒められたことではありませんし、さらに言えばそれは遠野家当主としての器量すら問われてしまいます。と言うわけで最近、何とかそれを矯正しようと思っているのですが・・・何分その実の兄というのが実の妹に欲情し手を出そうとした上、あまつさえその妹の思い人を傷つけるという、もう人間として最悪の行為と言うレベルをダントツでぶっちぎって成層圏まで突破しついに最近では虫以下、獣以下に成り下がったというほどのカテゴリーに分類されるような人間でして・・・と言うか最早それは人間とは言えませんね、あら困ったわ、そしたら何と呼べばいいのでしょう?困りましたわ、私の語彙ではとてもではないけど表せません」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「おや、どうかなされましたか?顔色がすぐれませんが」


「うわぁぁーーーー!!」


「・・・どうしたのでしょうか突然、脱兎のように逃げ出して・・」


うわーーーー!ロアが悪いんだー!あの腹黒メイドがしくんだんだー!俺は悪くないんだー!秋葉ぁぁぁあ・・・・おーいおいおいおい・・



遠くから男のそんないい訳じみた声が聞こえてくる。


そして男がいなくなったせいだろう。


どうやら夢から覚める時間のようだ。



「ふふ・・・」



私はとっておきの笑顔で笑ってやる。










・・ああ願わくば





・・・ああ願わくば、また貴方とこの場所で会えますように


END



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しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる


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