ぷるぷるぷりん

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「混血」 by 零



生きる意味とはなんですか?

私は生きてて良いのでしょうか?


月が出ていた。
満月ではないが…疼く。
血が…
体が…。
「今日は危ないな…」
そう判断した私は地下室へ降りて、鍵をかける。
そして、壁に空いた小さな穴へ鍵を入れる。
念のために。
ここに来るのも今月に入って何度目だろうか?
もう慣れた…と言うには三年という年月はあまりにも短すぎる…
「月は嫌いじゃなかったのにな…」

今から6年前。
ある日私は、友達とともに森へ遊びに行った。
両親には入ってはいけないと言われている森へ…
それまではその約束を守っていた。
でもそのときは、ちょっとなら大丈夫…と思っていたんだろう。
そして…私達は狼に襲われた。
悲鳴を聞き、駆け付けた猟師によって狼は射殺されたが…
私はひどい怪我を負い、私の友達は息絶えた。

それがまず最初の悲劇…
そして、今へ至る引き金。
トリガー。
友人を亡くした私は悲しみにくれた。
私は…背中に大きな傷は残るがこうして生きている。
あの時、私が止めていたら…
両親との約束を思い出して、森へ行くのをやめていたら…

そしてそれから三年後…
つまり今から三年前…
背中の傷は癒え、心のほうも普通の生活をおくれるほどには回復していた。
時間とはあらゆる傷の特効薬だ。
どんな喜びも、どんな悲しみも、人の想いは時間とともに風化し、そして慣れる。
しかし、ふとしたときにあの時の事を思い出し、溢れ出してしまうこともあった。
そんなある日の晩だった。
その日は満月。雲もなく、綺麗な月夜。
久しぶりにあの日の事を思い出していた。
友達のことを…
この傷のことを…

と、不意に背中の傷痕が痛みだした。
刺すような痛み。
すると同時に体中が熱くなる。
熱い。
頭が痛い。
背中が痛い。
傷が熱を持っているよう。
熱い。
熱い。
熱い。
尋常でない声を発しながら階下へ急ぐ。
両親の元へ。
悲鳴。
悲鳴。
悲鳴。
自分で発しているのかどうかもわからない。
悲鳴。
悲鳴。
また悲鳴。
うるさいな。
静かにしてよ。
こっちは大変なんだ。
悲鳴。
悲鳴。
腕を振る。
腕を振る。
悲鳴が一つ消える。
悲鳴。
銃声。
銃声。
銃声。
めちゃくちゃに体を動かす。
何も見えていない。
ただ刺すような痛みと狂ったような音の中で動く。
動く。
動く。
音。
音。
音。
そして赤。
赤。
赤。
音が止み…
視界が、世界が、反転する。
フェードアウト。



こうして私は人狼になっていた。
三年前のあの日、気がつくと私は血の海に一人佇んでいた。
両親は二人とも死んでいた。
父の手元には猟銃があった。
6年前は私を助けてくれた猟銃で撃たれるなんてまるで傑作だ。
家の中はめちゃくちゃ。
家具も何も原型を残しているものは少ない。
これら全てが自分のせいだと気付くのには時間がかかった。
とはいえ、血の海の中に私一人血まみれ。
自分は傷はほとんどない。(どうやら父は、自分を襲っている化け物が自分の
子だと気づいたらしく寸前で狙いを外したようだ。最初の2発はかすったが…)
そんな状況で自分以外の誰がこんな事をするもんかということはわかっていた。
が考えたくもなかった。
だがしかし現実とは残酷なもので、混乱し、あやふやだった記憶も徐々に戻り、
ついには事実を知る。
私は、そして家を焼き、遠く離れた山へと消える。



そして今。
今まで実際いろいろな事を調べてきた。
人狼のこと、家族のこと、狼のこと…
そしてわかったことは、私の体には元々人狼の血が流れていたということ。
そして6年前の出来事がその血を呼び覚ましてしまったということだった。
私の先祖には…何代前かは知らないが、人狼がいたらしい。
だがしかし子へ、孫へ、といくにつれて徐々にその血も薄まる。
だから両親は普通の人間、普通の人だった。
私は、偶然人狼の血を色濃くついでいたらしく(後で知ったことだが隔世遺伝
というらしい。)そして6年前狼に襲われた事がきっかけでその血が目覚めだし
て、とうとう3年前、満月のあの晩に覚醒したということだ。
この山小屋へきて以来、二度とあのような惨事を招かぬよう、月の明るい夜には、
血が疼き出す日には、こうして地下の石室にこもり、鍵をかけ、人狼に変わった
とき手が届かぬように小さな穴へ鍵をしまう。


何故だろう。
何故私はこうなのだろう。
私の体には狼の血が流れている。
人の血と狼の血が濃く混ざり合う存在。
私は今日もまた、地下で孤独をすごす。

『願わくば次こそは両親と、友達と、普通に暮らせる人生を』
忌々しい月へ願いを込めて…

end.

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