蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「春の日は過ぎゆく」

いや~、古傷に塩をなすりつけられるような感覚の映画だったなぁ。
録音技師のサンウ(ユ・ジテ)は、ある日DJ兼ディレクターのウンス(イ・ヨンエ)と一緒に仕事をする。
ウンスはサンウより年上で、しかも離婚歴があった。
恋の始まりはささいなこと。
音質にこだわると思えば、ロケ先で日を浴びて眠る無邪気なサンウが、ウンスには魅力的に見えたのかもしれない。
仕事帰りに車で送ってくれたサンウを、ウンスが誘う。
「ラーメン食べない?」(日本なら、コーヒー飲んでいく?なんだろうけど)
翌朝、なぜか別々の場所で眠っていた二人だが、先に目覚めたサンウがウンスのところへ行き、寝顔をいとおしそうに見つめる。
目覚めたウンスが笑い、二人はキスをする。
とまどいながら、それでも彼女をいとおしそうに抱こうとするサンウ。
それをおしとどめるウンス。
それから彼らがお互いの肌を感じあうのに、時間はかからなかった。
柔らかい抱擁と、甘い言葉。
恋の始まりの楽しい甘さを、余す所なく感じることができる。
『あ~、そういえば恋の始まりって、こういう感覚だったな~』としばし甘い気分に浸る私。
しかし物語が進むにつれ、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
すれ違いも些細なことから始まる。
ウンスの心変わりと、傷ついたサンウのストーカー行為。
恋を失ったサンウの、苦しくて苦しくてたまらない気持ちが、そのまま自分が昔失恋した時の気持ちと重なる。
サンウが大声で恋の歌を歌ったり、友人?のタクシー運転手に苦しい胸の内を吐露したり、寝床で泣いたり、失恋した時に誰もがするであろう行動を、そっくりそのままするサンウに、遠い記憶の扉が開き、見ている自分自身も失恋の心の痛みに悶え苦しむ。
「別れましょう」と言い出したウンスの方も、些細なことでサンウを思い出し、心の隙間を彼と会うことで埋めようとする。
微妙な男女の心の動き。
痴呆症だった祖母の死のあと、サンウは失恋の痛みを乗り越えた。
再度のウンスからの誘いを断り、柔らかな笑顔を取り戻すのだ。
在り来たりな設定とはいえ、一人の青年の心の成長を丁寧にたどっている作品。
柔らかな痛みとともに、私の記憶に残るだろう。



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