蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「ワンダフルライフ」



映画「誰も知らない」を見てから、すっかり是枝監督作品に魅せられている。
彼のほかの作品も見てみたくて、さっそくレンタルした。
残念ながら、劇場映画第1作目の「幻の光」は、いきつけのビデオレンタル店にはなかった。
「ワンダフルライフ」と「ディスタンス」を借りてくる。

「ワンダフルライフ」 を見た。
ああ、是枝監督の作品だ、そう感じる。
ドラマティックな展開がたたみかけるようにあるでもなく、ただ淡々と物語が進んでいく。
その時間の進み具合は、決して「退屈」ではない。
心地良い、かすかな温もりを感じることができる時の流れ。

人は死ぬと、この世とあの世の間にある、この場所にやってくる。
あの世に行くまでの7日間、自分の人生の中で一番印象に残った思い出を選ぶため、ここに来るのだ。
今週も、さまざまな人生をおくった老若男女がやってきた。
自分の人生で一番印象に残った思い出を決めるため、自らの人生を振り返る。
それは生きた時間が長かろうと短かろうと、自分の生き様を吟味する作業なのだ。
「選べない」のではなく、「選ばない」という選択によって、自分の人生の責任をとろうとする若者。
平凡だが幸せだったはずの人生が、振り返ってみると、味気なく感じ始める老人。
兄とのささやかな幸せを語る老女。
さまざまな人生が、彼らの記憶とともにリアルに観客の前に再現される。

もともとはドキュメンタリー畑にいた監督らしく、この映画もドキュメンタリーのような手法で作られている。
俳優も、「いかにも演技をしています」というような口調でセリフを言わず、むしろたどたどしさが残る印象。
映像も、淡い。
この世でもあの世でもない、死者が訪れる場所という設定だからか、色彩が淡く、うすい霧が立ち込めているような映像。

こんなに切なく、生きていることをいとおしむ感覚を思い出させてくれた映画がほかにあっただろうか。

是枝監督の作品、これからも見続けていこうと決めた。




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