蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「蛇イチゴ」



日本映画専門チャンネルで 「蛇イチゴ」 を見た。
私が最近好きになった是枝監督の門下生、西川美和監督の作品。
これが初監督、初脚本らしい。

映画は朝の風景から始まる。
痴呆症の祖父がトーストをがつがつと食べている。
コーヒーか紅茶か、何か飲み物に浸しながら、絶えず口いっぱいにほおばる。
横に座る父は、新聞を読んでいる。
あわただしく立ち働く母。
娘の倫子も急いでマグカップを口に運ぶとあわてて出て行った。
父も倫子に続いて会社に出勤する。
後に残されたのは、相変わらず食べ続ける祖父と、疲れたように立ちすくむ母。

小学校の教師である倫子は、平凡ながらも幸せな毎日を送っていた。
同僚の鎌田とは、結婚を誓い合った仲。
倫子の家族にも紹介し、結婚まで秒読みの段階だった。

そんな時、祖父が亡くなる。
悲しみに沈む間もなく、慌ただしく葬式が行われる。
葬式会場で、倫子は10年前に父に勘当された兄の周治に会う。
てっきり祖父の葬式に帰ってきたと思う倫子。
周治は倫子に話をあわせながら、祖父の葬式に遅れて参加する。
そのとき、父を罵倒する男が現れた。
騒然とする会場。
それを見た周治がとった行動とは・・・。

いや~、面白かった。
さすが是枝監督の門下生。
淡々としながらも、それぞれの登場人物の心情を的確に表現する手腕はさすが。
苦悩の父、ストレスの母、生真面目な娘、そして・・・ちゃらんぽらんな兄。
それぞれのキャラクターはアクが強いのだが、とても魅力的に感じる。
それは、彼らの強い部分だけでなく、弱い部分や愛すべきところを余すところなく見せていたからではないだろうか。
私は特に不真面目な兄、周治に人間的な魅力を感じた。

倫子の恋人鎌田が、倫子の家にやって来た夜のシーンで、モノクロ、スローモーションのところがあったのだが、そこは唐突な感じがして、違和感があった。

特に気に入ったのは、夫の借金が判明して、今までの貞淑な妻から夫を毒づく妻に変身した母に対して、倫子が言うセリフ。
「どうしてそんなにイキイキしているの?」

てっきり「もうやめて」とか「そんなこと聞きたくない」とか否定的なことを言うのかと思っていたら、このセリフ。
かなり効いていた。

魅力的な周治というキャラを、映画初出演の宮迫博之が見事に演じている。
映画の後、西川監督と軽部真一のトークがあったのだが、これもとても興味深い内容だった。
母がストレスで円形脱毛症になるシーンは、母役の大谷直子が快諾したので、本当にハゲに剃ったとか、この脚本は監督自身が見た夢から出来上がったものだとか、面白い話がザクザク。
印象的なラストシーンは、あるものがアップで映されるのだが、それは時期はずれだったため、美術さんが作ったものらしい。
その上を歩くアリだけは本物で、まるでしぶとい周治を表現しているようだった。

見終わった後、ちょっぴりビターな感情とほのあたたかい気持ちが混ざり合う、そんな感じ。

日本映画専門チャンネルで、再放送されるらしい。
興味をもたれた方は、どうぞ。





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