蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「青い自転車」



ストーリー

もうすぐ廃園になる予定の動物園で、象の飼育係として働くドンギュ(ヤン・ジヌ)は、幼いころから右手が不自由だった。子ども達を連れて動物園に遠足に来たピアノ教師のハギョン(キム・ジョンファ)にカメラのシャッターを頼まれた時も、義手である右手に視線が注がれているような気がして、そっとポケットに右手を隠すのだった。

彼のそのような態度は、恋人のユリの両親に会ったときにも顔を出す。
ユリの父親の刺すような視線に耐えられず、食事の途中で何も言わずに席を立つドンギュ。
ユリからの電話にも出ず、幼なじみと一緒に酒を飲む。

職を求めて面接を受けたときも、ドンギュは面接官たちの視線が自分の右手に注がれたことを感じ、苦しむ。
面接が終わり会場から出ると、ユリが田舎に帰ると告げにきた。両親が心配してお見合いの話を持ってきたらしい。
「お前の愛には資格が必要なんだな」と声を荒げるドンギュ。ユリを引き止める術もなく、自暴自棄になるしかなかった。

自分に自信が持てず、ますます世間と乖離しようとするドンギュに、小学校の時の同窓会への誘いがかかる。しぶしぶ参加する彼の耳に、当時心を通わせた女の子の死が知らされた。ソウルで警官をしている友人が、事故現場で彼女を見たというのだ。言葉が話せない彼女と、右手が不自由な自分。お互いいたわりあい、庇いあっていた2人だったのだが、すでに彼女はこの世にいなかった。衝撃を受けるドンギュ。

そんなドンギュをいつも温かく見守ってくれていたのは父だった。その父が病に倒れ、息を引き取った。
父の葬式の夜、幼い頃100コ作ってくれると約束した象のおもちゃが父の仕事場から降って来た。それを見て、ドンギュは父の愛を感じたのだった。




え~、ざっと説明すればこんな風でしょうか。
大きな出来事もなく(もちろん父親が死んだのは大事件ですが)淡々とストーリーが展開していきます。このような作品は嫌いではなく、いえむしろ好きなタイプなのですが、最後まで主人公のドンギュに感情移入ができませんでした。
なぜかというと、彼があまりにも周りに甘えているというか、卑屈になりすぎというか、共感できなかったんです。
私は彼のような障がいを持っていません。だから彼の苦しみを理解できないのかもしれません。しかし、人間は誰しも心に苦しみを抱えているもの。たとえ健康な体だとしても、他に人には言えない苦労があるかもしれないじゃないですか。
だからドンギュの、自分だけが不幸ですというような態度に、イライラしっぱなしでした。
彼は自分に対する世の中の偏見が辛かったのでしょうが、彼の周りにいる人たちは、とても温かい人ばかりなんです。彼の家族、飼育係の先輩、友人。ドンギュを振ったユリでさえ、彼の義手を知りながら、彼を愛していたんです。ユリは両親を説得することができず、ドンギュと別れてしまうのですが、私は、彼女の辛さがわかるような気がします。
むしろ故障している車をぶっとばして、すでに去ってしまっているユリに会いに行くドンギュに、「どうしてもっと早く決断しなかったの!どうしてもっと彼女を理解してあげなかったの!?」と責めたい気持ちになりました。彼は自分を理解して欲しいともがくばかりで、相手の気持ちを考えていなかったのではないでしょうか。

結婚を控えた妹が、ドンギュに辛らつな言葉を浴びせかけます。もちろん彼女の言ったことを肯定はしませんが、他の家族があまりにもドンギュに対して、腫れ物を触るような態度なので、妹の気持ちもわからないでもないなぁと思ってしまいました。
父親があれほどまでにドンギュを可愛がっていたのは、不自由な手を不憫だと思っていたのでしょうが、それ以上にもしかしたら、ドンギュがあのような手になったのは、もしかしたら父親が原因なのではないかな?とも思ったりしました。そのエピソードもあれば、もっと納得できたのですが。

こうして主人公にイライラし、彼の家族のドンギュに対する態度にも少々苛立ちながら見ていたのですが、全部見終わった後に、「あぁ、そうなのかもしれないな」と思ったことは・・・。

小学校の時に心を通わせた少女にしても、亡くなった父親にしても、彼らはただ生きて、ただ死んだわけではないんですよね。どこかで誰かに影響を与え、そして影響を受けて生きていたんです。

学歴が低く、収入も多くはなかったけれど、子どもに対しての愛情は深く、人としての生き方を教えてくれた父。
短い間しか一緒にいることはできなかったけれど、臆病な自分に自転車の乗り方を教えてくれた少女。
ラストでラジオから流れてくる曲のタイトルは「elephant on the blue bike」(でしたよね?)作曲をしたのは・・・もしかして、あの少女だったのでしょうか。

たとえ私が死んでしまっても、きっと誰かに何かを遺している。
そんな希望が持てるラストでした。

ただ残念だったのは、一番いいシーンである、象のおもちゃが降ってくる場面。
あれはなぜ降ってきたのでしょう?まず1つ、ぽつんと落ちていて、ドンギュが不思議に思って上を見上げた途端、ぼろぼろと落ちてきます。ファンタジックな印象を受けますが、やはりここは、ドンギュとの約束を守るために、病の身をおしておもちゃ作りをしていた父親が、100コになるまでドンギュに内緒にしておこうと、今は使っていない仕事場の天井にこっそり隠してるという設定だったらよかったのに・・・と思いましたよ。それであと1コのところで亡くなっちゃったので、とうとうドンギュに手渡すことが出来なかったと。先に落ちているおもちゃが作りかけでもよかったですね。それでドンギュが天井からはみ出している象のおもちゃを見つけて、「なんだろう?」と思いながら手を伸ばすと、そのはずみで99コの象のおもちゃが振ってくる・・・という方が、感動的だったのに・・・と思ってしまいました。(あんな簡単なおもちゃを100コ作るのに、何年かかっているんだ?と言われちゃいそうですケド。笑)

全体的に話が短くて、あらすじをたどっただけのような印象を受けました。
内容としては、いろいろと考えさせられるものだっただけに、ちょっともったいないかな。
もう少しハギョンとのふれあいを描いてもよかったと思うし、父親が亡くなって、急に吹っ切れてハギョンに対しても積極的になるところが、ちょっと違和感ありました。
彼女の優しさに触れていくうち、だんだん心を開き、また亡き父の愛を理解できたために、ハギョンとの距離を縮めていくドンギュであって欲しいなと思いました。



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