『月のフェイズ』(ニュー・ムーン


貴方と出会ったのは月が隠れた新月の夜でした。


『月のフェイズ』


アタシは魅月。何処にでも居るような高校生。
毎日毎日同じような退屈な生活を送っている。
学校が終わり、その足でバイトへ向かう。セクハラまがいの店長、気持ち悪い男の店員、性格の悪いオバさん店員。
しかし背に腹は変えられない。毎日それなりにこなして、それなりにお金を貰っている。
家に着くのはいつも10時過ぎ。家に帰ってもやる事は無い。
PCの電源を入れ、来ているはずの無いメールをチェックする。そんな退屈な毎日をすごして居た。

今日もいつもと同じように学校が終わったその足でバイトへ急ぐ。
いつものようにバイト先への道を走っていたその時、目の前を見た事の無い丸々と太った猫が通りすぎた。
何故かアタシの目についたその猫は、まわりの人間達などそっちのけで堂々と歩いていた。

何処の猫だろう…野良猫かなぁ、ここらへんが縄張りなのかもしれない。

何故かアタシはバイトの事も忘れて、その猫の跡を追っていた。
その猫は今までアタシの目にもつかなかった細い路地へと入っていった。
その細道を入って行くと、また見た事の無い住宅街へつながっていた。アタシは普段無いドキドキ感にもう夢中だった。

太った猫は、たまにこっちを気にかけながら何処かへ向かって居た。
何処へ向かっているんだろう、アタシを何処へつれていこうとしてるんだろう。

ふっとした拍子に住宅街を抜け少し開けた道に出た。あたりは薄暗くなって街灯がちらほらつき始めていた。
あまり人が居なく、少し淋しい感じの道だった。
そこで一人ギターを弾きながら唄っている青年が居た。猫は彼の方に近寄っていって彼の足に体を摺り付けた。

「ムーン、今日も来てくれたんだね」

彼はそう言うと重そうに猫を抱き上げた。その途端、アタシは彼と目が合ってしまった。

「あれ?ムーンのお友達?」

彼は珍しそうな顔をしてアタシを見た後、にっこりと笑った。
その笑顔がとても綺麗で思わず目を奪われてしまった。
彼の瞳はとても綺麗で、澄んでいて、すいこまれそうだった。

「もしも~し?聴いてる?」

彼のその声でふと我に返った。

「あ、ゴメンナサイ、アタシ魅月って言います、えっと…その猫についてきていたらココに来てしまいましたっ」

あたふたといい終わると彼は、あははっと大声を上げて笑った。

「面白い奴だな、魅月は。俺の名前は刹那。ムーンの友達だ!」

そう言って彼は微笑み、手を差し伸べた。

「出会った記念握手♪」

アタシは彼の手を握り、微笑んだ。


月は光を失い、隠れながらもアタシ達を見守っていた。

貴方と出会ったのは月が隠れた新月の夜でした。

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