『月のフェイズ』(フル・ムーン


満月の夜、アタシは過ちを犯しました。


『月のフェイズ』


いくら想っても、刹那にアタシの想いは届かない。
刹那の中は昔の彼女でいっぱいなんだ。
あの澄んだ瞳にアタシは映らない。
でも、好きで好きで堪らないんだ。

アタシはそう何度も何度も云いながらただ走っていた。
刹那の前から、逃げてしまった。頭の後ろで刹那の呼び止める声が聞こえたけど無視して走りつづけた。
アタシには…耐えられなかった。初恋は実らないって本当なんだね。
行くあてもなく、ひたすら夜の街を走って行った。

いつしかアタシは繁華街まで来ていた。
周りは幸せそうなカップルが多い。今まではそんなの気になった事は無かったのに今日は無償に腹が立つ。
一人ぼっちの自分がとても惨めになり、涙が頬を伝った。
涙で滲む視界にネオンの光がキラキラと眩しかった。
いっそ此の侭消えてしまえたら、そう想っていた、そんな時、不意に肩を掴まれた。

「っはぁ、はぁ、魅月ちゃんっ!!どうしてっ?どうしてっ泣いてる…の?」

息を切らしながらアタシに聞いてきたのは、藤原君だった。

「藤原君!!どうして?!」

訳が解らなくて、兎に角泣いてる所を見られて恥ずかしかった。

「今っ、暇だから、散歩してたら、泣いてる女の子居て…っ魅月チャンで…っ」

肩で息をしながら藤原君は説明してくれた。

藤原君が一通り喋り終わるとアタシ達は広場の方へ向かった。

「魅月ちゃん!こっちこっち!」

藤原君ははしゃいでアタシをベンチに誘った。
ひび割れた街頭の灯りがアタシ達の座るベンチを照らす。

「何があったのか、俺にはわかんないけど、俺、魅月ちゃん好きだよ!コレだけは誰にも負けないって想う!」

拳を握り締め、藤原君は、一生懸命アタシに伝えてくれた。

「俺、俺、魅月ちゃんの役に立ちたいんだ!俺じゃ、役不足かな?」

藤原君は真っ赤な顔をしながら、しかし真剣に聞いてきた。
アタシはその時正直に嬉しかったし、自分をこんなに想ってくれる人が身近に居るんだって思った。

無意識のうちに、藤原君の胸へ自分の顔を埋めていた。
藤原君の胸は暖かく、心臓がドクドク波打っていた。腕は力強く、優しく、アタシを包み込んでくれた。
アタシは藤原君に抱かれたまま口を開いた。

「藤原君…有難う」

「健吾でいいよ、魅月チャン」

「うん、有難う…健吾」

アタシは自分で何て都合の良い女だろうと思った、好きな人に脈が無いと解ったらもう乗り換え?
汚い、きたない、キタナイ…。でも、こんな汚いアタシを愛してくれる健吾に安心した。
健吾の優しさに甘えて仕舞ったんだ。

綺麗な満月が見守る中、アタシと健吾は抱き合ったままキスをした。

満月の夜、アタシは過ちを犯しました。



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