家庭保育室太陽

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うちの子自閉症とその家族5


自閉症児とその家族/5止 優しい目で見守って
 ◇パート勤め、母子の生活/「私が死んだら…」将来は/家族に寄り添う支援を

 その夜のメニューは、豚のブロック肉と大根、ニンジンを煮込んだ沖縄風料理だった。スーパーで食材を買い、レシピも見ずに料理した。「少し酸っぱいが、十分食べられるよ」と言うと、翔君(17)は「ありがとうございます!」と大きな声を出した。

 翔君はシャワーを浴びるため、必ず午後6時に買い物から帰る。その後の予定があるわけではないが、遅れそうになると慌てる。料理は1回50円、米とぎ30円、アイロンがけは20円。小遣い帳に鉛筆で書き込み、たまるとゲームソフトを買う。独り言をつぶやきながら、洗濯物をたたんで丁寧にアイロンがけする。「こんな日が来るとは夢にも思いませんでした」と母親の目崎順子さん(43)は言う。

 2歳のころは自閉症特有のパニックをよく起こした。「あの子、変」「親のしつけが悪い」。厳しい視線を避け、目崎さんは夜の公園で遊ばせた。子育ての何が楽しいんだろう。翔君を抱いて大通りの車に飛び込もうとし、直前で思いとどまったことが2度あった。

 10年前に離婚してからパニックは減った。親の不安定さが子に影響していたことを知った。パート収入や実父からの援助で生活してきたが、将来を考えると不安になる。翔君を就職させたくて、パソコン教室に通わせ始めた。

 「私が死んだら……」。目崎さんが取材中に漏らした言葉を、食器を洗っていた翔君が聞きつけた。「お母さん、死ぬの? 嫌だよ。だめ。絶対」。顔が引きつっている。「まだ死なないから大丈夫」。何度もなだめられた翔君は「協力してよ!」と大声を出し、洗い物に戻った。

 よく似た境遇の女性(41)から投書が届いた。高校生の娘2人が軽度の自閉症。離婚後の生計はアルバイト収入のみ。「娘が社会に出られるか。自立できなかったら、そこで私たちは……」。何の支援もなく瀬戸際で踏みとどまっている家族があちこちにいる。

 取材後、目崎さんからメールが届いた。「あれから翔が『疲れたでしょ』と肩をもんでくれました。ずっと3歳のままでいてくれたら……と考えてた自分を、今はばかだったと感じます」

    ×    ×   

 「レインマン」「光とともに…」など自閉症をテーマにした映画やドラマは多いが、現実の自閉症児は意外に知られていない。専門性の高い療育が求められる一方で、科学的根拠の薄い治療法や薬や教育が喧伝(けんでん)され、ブームになったものもある。わらにもすがりたい親の気持ちにつけ込んできた一部の「専門家」への批判は根強いが、マスコミが宣伝に一役買った例も少なくない。

 その陰で悲劇が繰り返されていることを、私たちはかみしめなければなるまい。どんな障害があっても自己実現や社会参加のための支援が必要だが、まず幼い子どもを守らなければ何もならない。乳幼児期の医療や福祉を充実し、本人や家族に寄り添った支援が必要だ。そして何より、あなたの隣で暮らしている自閉症児とその家族を優しい目で見てほしい。【神戸金史】=おわり

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