家庭保育室太陽

家庭保育室太陽

障害児の就学問題


T君はこの両者の間に挟まれて、落ち着かない日々が続いた。担任は?と問われると辛いものがあったが、どちらの結論を出すにしても両者を納得させる論拠が必要とされる。とにかく、結論を出す為に私のできる限りの研鑚をしなければならない。
地域の学校も養護学校も「独自の見学」。「保護者同伴の見学」。T君を伴った「体験入学」を繰り返し行った。私見は両校共に是非があり、結局結論なんて出ない。
 養護学校でのT君は正直ありのままの姿で居られる。しかし、通学にバスで1時間も掛かるというデメリット。
 地域の学校は徒歩通学であり、保育園時代ともに過ごした友達も居る。そして、T君には双子の妹がおり、別々の学校に通わす事の不条理さもあった。(養護学級)とはいえ、体験入学の中で見せる「緊張感」は相当なものである。
拘り、固執性、特に強いT君は 2度目の、体験入学で激しいパニックを見せた。1度目の時には認められた行為が2度目の日には阻止されるという事が起きた。T君は前にも述べたようにロゴマークに強い執着をもっている。小学校といえば、何処の学校でも教室にベルマーク集めが行われていると思うが、まず、そのマーク表に目を奪われつぎに、箱の中に表と同じ物が入っているかを確かめたくなり、全部ひっくり返して私たちを慌てさせたのだが、当時の担当教師は其れを許したのだった。そのため、T君はその日の緊張(不安な世界)からベルマークに(安心できる世界)を求めて、満たされて終った体験が、2度目には阻止されたのだから堪らない。
「ベルマーク!ベルマーク!」と浮ついた声で教室中を探し回り辺りにある教材を漁りまわった。
3度目 この日は「お母さんは来ないで下さい!」と言うことで私とT君の2人で指定された時間に学校に行った。体育の授業を体験した。体育の授業は普通学級と障害児学級の合同で行われるのが原則で体育館に入ると、跳び箱がメイン授業みたかったが、バルーンやマット トランポリンも置かれていて、障害児は各自興味のあるもので好きに遊んでいるという印象を受けた。これが、交流授業といえるのだろうか?と思った。まあ、それでもT君にはいいかなあ!授業を受けるというよりは保育園には無い大きな体育道具で遊んだ。との思いが強かった。そして帰り際、「次はT君一人で午前中の授業を受けてもらいますので、先生は○時に送ってきて、保育園に戻ってください。そして、○時の迎えに来てください。」と言われた。
「当日」学校への道を歩きながら「今日は先生T君を学校に送っていくだけだよ!すぐに、迎えに行くからね!」と話すが、T君は事態が飲み込めず学校に行く事だけにしか、意識はなく頓着なく歩いていた。学校に送り届け「先生帰るよ!後で迎えに来るからね!」と言うと「来る?来る?」「うん来るよ!待ててね!バイバイ!」と後ろを向いたが振り返る勇気は無かった。
指定された時刻に学校に行く。教室にT君の姿が無い!!私の頭は真っ白だった。何度か通学する中で、T君は「学校での安心できる場所」を見つけていたので、そちらを向いて走った。途中で先生に出会い「T君は今職員室の掃除をしています。もう、終りますから」と教えられ、職員室に行くと、T君は虚ろな眼差しで雑巾を左右に動かしていた。「T君!来たよ!」と声をかけると「$%#””来る!来る!」と叫びながら雑巾を放り出して駆け寄ってきた。私は思わず抱きしめ「うんうん!!!来たよ!迎えに来たよ!保育園に帰ろうか?」「$%$#”保育園来る!来る!」を繰り返し叫んでいる。(待ってたんだね!よく頑張ったね!)
こんなに頑張ってるのに「適就委員会」は尚結論を出さなかった。
この間にもT君の成長は顕著であった。「運動会」もいくつかの波乱は有ったが無事終った。造形活動や描画活動にも意欲的に取り組めるようになっていた。長い間あったクレーン現象も薄らぎ、他者からの「要求」に応えらる姿も見られるようになり、T君自身の自信すら感じられた。       


© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: