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2022.09.20
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カテゴリ: 読書
『同志少女よ,敵を撃て』は本屋大賞にノミネートされたり,直木賞の候補になったりと,ずいぶんと評判がいいです。
表紙もかわいい女の子が描かれているので,ラノベのようにジャケ買いした人も多いかもしれない。
だが,内容はラノベとは全然違って凄惨なもんだわ。感想など書いていこう。

​
同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂 冬馬 ] ​

ざっくりしたあらすじだが,舞台は第二次世界大戦中のヨーロッパ。いわゆる独ソ戦という,ソ連とドイツの戦闘を描いている。
主人公の少女,セラフィマはドイツ兵に故郷の村を焼かれ,親を殺されてしまったのだ。
セラフィマはもともと半猟半農で生計を立てていたため,銃がわりと得意だった。
セラフィマは訓練期間中に同じく女狙撃兵たちと絆を深めた後,狙撃兵となってスターリングラードやら要塞都市ケーニスベルクで戦っていく,という内容になっている。


僕自身は戦争を経験したことがないから,あくまで「リアルっぽいと感じられる描写」というのが正しいのだろうけれど。
戦争を扱っているという性質上,情け容赦なく主人公の戦友になった少女狙撃兵は死んでいく。また,主人公になにくれと優しくしてくれた軍人は逃亡したということで処刑されたりする。何の罪もない子どもが撃たれてしまったりもする。

人が傷つくのは読んでいてつらいが,恐ろしいのは女性に対する戦時性暴力というの,つまり性 被害もしっかりと書き込んでいるところだ。
セラフィマにも貞操の危機は何度もあったし,負けた国の女性というのはとにかく悲惨である。
作中,ドイツ占領下のスターリングラードでセラフィマが出会ったサンドラという未亡人がいたんだけど,彼女はドイツ軍人と情を交わし,食料をもらったりしてる。作中言われたが,「売春とも,恋愛ともつかない関係」というのだ。それでいて,スターリングラードがソ連に解放されると,今度は裏切り者として迫害される。
こういうことは,歴史上いくらでもあったんだろうし,嫌な話だけれども,今後もあるんだろう。

そんなセラフィマは戦う理由として「女性を守る」というのをかかげていた。
それはもちろん,故郷の村で射殺された母や,性的 暴行のすえに殺された幼馴染たちのような被害を出さないためである。
だが,戦時性暴力というのは別にドイツに限ったわけではなくて,ソ連もやっているのだ。
この辺に葛藤があり,単純な善悪二元論で世界ができていないところがある。結局セラフィマは,ドイツ女性に暴行をふるおうとしていたソ連兵士を射殺するなんてこともしていて,なんとも難しい。

なお,陰惨なシーンばかりをピックアップしたが,もちろん心の温まる場面というのも多い。

そして,最終的にセラフィマは実在の英雄,309人を射殺したという女軍人,リュドミラ・パブリチェンコから「戦後は趣味を作って,愛する人を持て。」と言われるのだが,紆余曲折の末にその2つともを手に入れた。
こう書くと,普通のハッピーエンドのように思えるのだが,セラフィマの愛する人というのは女性だったりする。
もともと,訓練学校時代から「ロシア人女性は友達同士でキスする」くらいの感覚でやっていたのだが,最後はこうなりましたか,と…。
そういえば,序盤からセラフィマには「将来の結婚相手」みたいな男の子がいたというのに,全然興味なさそうだったもんね…。
また,セラフィマの戦友の狙撃兵の女の子も,「お互いの家族はみんな死んでしまったし,戦後は,同期の女性と2人で暮らしたい。女戦友といっしょにパン工場で普通に働きたい」とか言ってた。この辺にも片鱗はある。


ネタバレだけど,結果的にセラフィマの訓練学校の女狙撃兵は,どうやら誰1人として男とは結婚しておらず,女2人で暮らすというのが2組いるという感じ。この点については,「戦後は男の軍人は英雄とされたが,セラフィマのように100近い敵兵を殺した女狙撃兵は恐れられ,社会になじめなかった」というのようなことが地の分で語られていた。

なんというか,この小説というのは色々な楽しみができると思うよ。
リアリティあふれる戦争シーンを読みたい,という人も,少女たちの青春ものを楽しみたいという人も,いわゆる百合好きな人も満足させられるようになっている。
これらの要素を1冊に詰め込んで,その全てで高いクオリティを維持しているというのは驚愕すべきことだし,著者の構成力には舌を巻く。

ただ,時期が良くなかったかなぁ…。
本書の発売日は2021年11月なのだが,2022年2月からはロシアのウクライナ侵攻が始まってしまった。
前述のように,本書ではナチスドイツばかりを悪玉に描くのではなく,ソ連赤軍が行っている蛮行も描いているので,ただちに本書の価値が下がるわけではないが,ソ連・ロシアを主役サイドにした小説はマーケティング的に今の時期はやりづらかろう。


​
同志少女よ、敵を撃て【電子書籍】[ 逢坂 冬





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最終更新日  2022.09.20 16:46:07
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