タコ社長,オーストラリア・メルボルンのスローライフな日々

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テーマ: たわごと(27734)
カテゴリ: 忘れられない人々
「イボ痔?」
カウンター越しに体格のいい色黒の金城さんがそう言った。

「イボ痔じゃないわよ、『異邦人』よ。今、池袋の文芸座でやってるのよ。」早苗は、私との会話を遮って金城さんにそう答えた。大学一年の5月の初め、喫茶店でバイトをしていたジーンズの良く似合う切れ長の目の早苗と付き合っていた。少なくとも、私はそう思っていた。

「タコね、もうすぐ沖縄返還されるの。パスポートなしに沖縄に行けるのよ。本当に嬉しくなっちゃう。」金城さんは私が濃いコーヒーを飲んでいる席まで来て笑顔を見せた。1972年5月の事だった。

今、練馬に住んでいる兄の家のTVの横にリロケーションの装置を置いて、メルボルンでリアルタイムに日本のTVを見ることができるようになっている。日本の連続ドラマなんかが見られる。しかし、こちらが夏時間のときは2時間早いでの夜更かしをしてしまうことになる。

昨年、城山三郎作の「官僚たちの夏」を何回か見た。録画はできないので、見られない日が結構あった。先日、チャイニーズのDVD屋で2枚組を27ドルで売っていたので買って一気に見た。通産省の官僚たちがどれだけ体を張って国のためにやってきたか、という内容だった。それぞれが、国のため、と思っているが考え方は大きく違い衝突が絶えない。

そんななか、沖縄返還の話が進む。この返還による沖縄県民の喜びが計り知れないものがあった。大学時代の金城さんの掛け値なしの笑顔が目に焼き付いている。

しかし、その交換条件として密約があり日本の繊維産業が壊滅的な打撃を受けた。戦争に負けた代償はとてつもなく大きい。そして、それは今も厳然と続いている。

金城さんとのこの会話の翌月の6月に、早苗は突然蒸発してしまって私の世界から消えた。それ以来、あの喫茶店には入ったことがない。その数年後には別の店になっていた。しかし、今でも毎回の帰国の際、必ずその前を通ることが年中行事のようになっている。




毎回、嫌でもこの緑の箱をクリックよろしくお願いいたします。
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Last updated  2010年01月22日 12時59分51秒
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