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ごんげん松
ごんげん松
むかしむかし、人里はなれた山おくのそのまた山のてっぺんに、ひとつのちいさな松の木の若葉が芽吹きました。みわたすかぎり木々でおおわれた山でのその出来事は、遠くで聞こえる小鳥のさえずりよりも、しらないうちにふみつけそうになるアリンコよりも、もっともっとちいさな出来事だったのです。しかしその若葉は、かすかな木漏れ日をあびて、すくすくとそして力強く成長して行きました。
それから、何十年何百年という月日がすぎて行きました。そして、その山のふもとに人間たちが暮らし始めました。その人たちは自分たちの生活の為にと、原野を開こんし、動物や鳥が木々とともに静かに暮らしていた山をも切り開きはじめました。やがてその勢いは、山のてっぺんへてっぺんへと向かって行ったのです。
※
ふたつのちいさな川がまじわるこの村に、それはそれは古ぼけた小学校がありました。校舎の木枠の窓からすきま風がピューピュー入り、体育館はボールがころころ転がっていくほど傾いていたのです。
その校庭にいつものように子供たちが集まり、遊んでいた時のことでした。ワルガキたちが、一人の男の子の帽子を取って、からかって遊びはじめたのです。その子の名前はしょう吉といい三人兄弟のまん中で、働き者のおかあさんと、やさしいおじいさんとおばあさんにかこまれてすくすくと育った、元気のいい男の子でしたが、髪の毛がみんなとはちがっていたのです。ワルガキたちは、しょう吉のあたまのてっぺんの髪の毛がうすくなっていたのを見つけて “ハゲ、ハゲ”と言い始めました。そして、大笑いしながら ”ハゲがうつる。ハゲがうつる”と言って、おもしろがっていたのです。
しかし、しょう吉は何も言い返しませんでした。そして、まわりにいた友達がその言葉に反応してクスクス笑っているすがたを見て、すぐに帽子を拾いかぶり直して、ひとりぼっちで帰って行きました。
山のちゅうふくにある学校からの帰り道は、リヤカーがぎりぎり通れるくらいのひろさで、両脇が崖になっていました。しょう吉は、その道をとぼとぼ下っておりてから、いつもの帰り道とは反対の方に向かって行ったのです。
山々の緑がだんだんとこくなって、ぽっかり浮かぶ雲がオレンジ色に染まって来ました。そしてしょう吉は、畑仕事をする人もいなくなった、寂しげな田んぼ道に長くのびた自分のかげを、わざと踏みつけるようにして歩いていました。そして、そのかげが消えかけたとき、ふと顔をあげると、赤とんぼの羽がキラキラと輝いていました。しばらく、その赤とんぼを目で追っかけていると、ずっと向こうからいっぴきの犬が、体をゆらゆらさせながら歩いているのが見えたのです。
しょう吉はその犬があの足の悪い犬だとわかったので、そっと近づいて行こうとしたのですが、その犬はしょう吉に気づいたかのように、さっと向きを変えてあぜ道を慌てるように走って逃げて行きました。
しょう吉が家につくと、畑仕事から帰って来たばかりのおかあさんがいましたが、いつもと様子の違うしょう吉に気づく事無く、晩ご飯のしたくをし始めました。
しばらくしてしょう吉がおかあさんに声をかけましたが、忙しくしているおかあさんには聞こえなかったようで返事が返ってきませんでした。するとこんどは「おかあさん」と呼びかけたのですが、おかあさんは「今忙しいからあとにして」と言って振り向いてもくれませんでした。
そしてしょう吉は、今日の出来事をだれにも言えないまま、寝付きの悪い夜を迎えていたのです。
翌日からしょう吉は、帽子をもっと深くかぶって遊ぶようになったのですが、友達が「クスクス」笑うたびに、自分の事を笑っているんじゃないかと、日に日に思うようになって、だんだんみんなと遊ぶのがいやになっていったのです。そしていつのまにか、ひとりぼっちでぼんやり過ごす事が増えていきました。
そんなある日、縁側でぼんやりしていると、しょう吉のおじいさんがやって来て、「どうしたんじゃ みんなとあそばんのか?」と声をかけて来ました。
すると、元気のないしょう吉の声がかえって来たのです。
「ぼくのあたまのハゲをみんなが笑うんだ、だから・・・」
「あたまのハゲを・・・友だちはおまえのハゲを見て笑うんか?」
「ううん。ぼくがいなくなって、見えなくなると笑ってるんだ」
「しょう吉、それはおまえの思い込みじゃ。だれもおまえの事を笑ったりしておらんとわしは思うぞ。わしも昔まちがった思い込みをしておって、ずっと悩み苦しんでおった事がある」
「でも、ぼくの事を“ハゲ、ハゲ”って呼ぶ子もいるんだよ」
「そんな子もおるんか。こまったもんじゃのう。そういえば、わしも昔よくいじめられとったのう」
おじいさんはそう言うと、子供の頃の話をし始めたのです。
「わしは、生まれた時からひざがまがっておったからのう、一度こんなこともあった。
いじめっ子たちに『早う走らんかい』ちゅうて棒を持っておっかけられて、あぜ道を走って逃げとった時じゃ、石かなにかにつまずいて、まだ水がたまっておった田んぼの中へ“ばっしゃーん”ちゅうて、落ちた事がある。いじめっ子たちは、どろだらけになったわしを見て、大喜びしとった。わしは、くやしゅうて、くやしゅうて、しばらくその場から動けんかったんじゃ。そしたら田んぼの持ち主のおやじに見つかって『こらっ、田んぼの中であそぶんじゃない』ちゅうて、どなられた。思わずわしはまだまだちいさかった苗
をけっとばしてしもうたんじゃ。苗には何の罪も無かったんじゃが、そうせずにはおられんかった。それからまたとぼとぼ歩いて家に帰ったんじゃ。
そして、かあさんが家に着いたわしを見付けてこう言うたんじゃ『となりのおじさんがやって来ておこっとったぞ。おまえが田んぼであそんどったちゅうて』わしは『田んぼになんか入って遊んどらん』ちゅうて言うたんじゃが、かあさんは信じてくれんかった。それどころか『おじさんは“おまえが苗をふんずけとった“ちゅうて言うとったぞ』って言うんじゃ、わしの言い訳すら聞こうともしてくれんかった。わしはくやしゅうてのう、さみしゅうなって納屋に走って行ってかくれたんじゃ。
それからしばらくして、かあさんがわしをさがしとる声が聞こえたんじゃが、出て行く事ができんかった。ほんとはすぐにでもかあさんのとこへ行って、だきしめてもらいたかったんじゃが、どうしても行けんかった。かあさんがわしを見つけてくれるまで、ずっとずっと、ひざをかかえてまっとったんじゃ。
あのころのわしは、素直になる事ができんかった。ほんとは、ひとりになるのが怖かったんじゃがのう」
しょう吉は突然重い口を開いて、やっとという思いで話始めました。
「おじいちゃん、ぼくね、足の悪いのら犬をいつも追っかけて遊んでいたんだ。それでこの前、その犬を見かけたから、いじめたことをあやまろうと近寄って行ったんだけど、ぼくの顔をみて走って逃げて行ったんだ。ぼく、ほんとにいけない事をしてきたと思ってる。どうしたらいいんだろう」
すると、おじいさんは言いました。
「そうか、そんな事もあったんか。犬にはかわいそうな思いをさせたのう。しかしな、しょう吉、自分のやった事に気づく、それがいちばん大切な事なんじゃ。もう気にせんでええ、きっと、その思いはあの犬に届いとるぞ」
そう言うとおじいさんはまゆげをよせ、しわしわのおでこに刻まれた思い出をひとつひとつ思い出すようにまた話しをつづけました。
「そんな時じゃった、じっさまがごんげん松の話をしてくれたんは。
じっさまがまだ子供の頃、ごんげん松の幹の一部がくさった穴っぽこに入って遊んでおった時の事、とっても気持ちようなって、そのまま木の中でねむったそうなんじゃ。そしたら、水の流れる音が“ゴボゴボ ジュルジュル”って聞こえてきて“はっ”と目がさめると真っ暗でのう、何にも見えんかったそうなんじゃ。じっさまは寝ぼけとるんかと思うて、目をこすろうと思うたら、体の感覚が無うてのう、えらいことじゃって慌てたそうなんじゃが、気がつくと、じっさまの体がごんげん松そのものになっておって、からだの中を水がてっぺんへてっぺんへと流れておったそうなんじゃ。それはそれはびっくりしたそうなんじゃが、その時突風がザワザワって小枝をゆらしたそのしゅんかん、目の前が開けて来て、村のずっとずっと向こうまで見渡す事ができたんじゃと。それから、村の隅から隅まで見ているうちに、なんだかこの村がとってもいとしゅうなって、この村を守ってやらにゃあいけんって思たんじゃそうな。
じっさまは、その出来事が夢だったような現実だったような、わからんかったんじゃが、この村とごんげん松にひときわ愛情をいだいて大きゅうなっていったんじゃそうな。
それから何年かたって、じっさまが大工のかけ出しのころのある日、棟梁に連れられて裏山にはいった時の事じゃ、棟梁がごんげん松の前で立ち止まって、じっさまにこんな事を聞いてきたそうなんじゃ。
『このごんげん松はまれにみる大木じゃ。なんで切られんでこんな大木になれたかわかるか』
するとじっさまは“この村をまもるためじゃなかろうか”って答えたんじゃが、棟梁はこんな話をしたそうじゃ。
『むかしこの村にやっと人が住みはじめた頃、家を建てる為に山に木を切りに行って、たくさんの木を切り出したんじゃが、このごんげん松は切られんかった。節だらけでまがっとったから、家の柱なんぞに向いておらんかったからじゃ、そんで昔の人はこのごんげん松の事を『やくたたずの木』って言うとったそうじゃ』
そう言うと棟梁はまた、山の奥の方へと歩いて行ったんじゃ。
そのあとをついて行くじっさまの頭の中は『やくたたず』という言葉がうずまいておったんじゃが、ふと後ろに振り返り、木々の間からさっそうとそびえ立つごんげん松を見た時こう思ったそうじゃ。『人間と言う者は時として、いいかげんなもんなんじゃのう。見た目だけでいろんな事をわかったふうにいいよる事が有る。今も昔もかわらんのう。しかし、こんな大木になれたんは、運命のいたずらなんじゃろうか、それともただの偶然なんじゃろうか。もしかして、ごんげん松自身の意志なんじゃなかろうか』ってな。
それから何年かたち、わしが子供の頃、この地方に大飢饉があってのう、くうもんも何も無くなってきたんじゃ。
わしらはのう、草でもなんでもよう食べた。生きるためにな。
しかしカエルだけはつらかったのう。みんなで沼に行ってウシガエルをぎょうさん捕まえて、やいて食べるんじゃが、そりゃもう目えつぶって、おいしい焼き鳥じゃと思うて飲み込むようにして食べたもんじゃ。今にもそのカエルが足をもがきながら飛び出してきそうで、はんぶんはきだしたこともあるんじゃが、そん時じっさまに言われた事がある。
『カエルやいろんな生き物のちいさな命のぎせいの上に、わしたちは生きる事が出来ておるんじゃ。だから食べ物を大切にせにゃいけん』って。
その時しょう吉は“はっ”としました。それは、校庭の片隅にある池のカエルを、草の茎で作った仕掛けでつかまえて遊んでいたからです。しかも、そのカエルを何の目的も無く日干しにしていたからです。
おじいさんは“はっ”としたしょう吉の心の中を見抜いたかのように“とんとん“と肩をたたきながら、また話のつづきを始めたのでした。
「しかしのう、そんなカエルさえもだんだんとおらんようになってきた。
そして倒れる者がたくさんでたんじゃ。それで、村の長老が集まって話しおうたそうじゃ
『あのごんげん松を売って、何とか飢饉をのりこえようじゃないか』って。
その頃、この地方有数の大木ごんげん松は、この地方のあちこちの長者にとどろいておって、屋敷の大黒柱にうってつけだちゅう事で、いろいろ引き合いがあったらしいんじゃ。
しかし、がんこ者のじっさまは『あのごんげん松はこの村の守神だ』ちゅうて、ごんげん松を切る事に反対したんじゃ。
それから何回目かの会合の帰り、月明かりの田んぼ道を歩いておったじっさまに、また不思議出来事がおきたんじゃ。
それは、ごんげん松のてっぺんがキラキラと光りだして、女の人のような声が『おじいさん』って話かけて来たんじゃそうじゃ。そんで、じっさまはびっくりして、腰をぬかして、その光に目をうばわれとったら、またその光の中からこんな声が聞こえてきたそうなんじゃ。
『おじいさん、私はこの村と共に育ち、そして何百年もの間この村を見守って来ました。
それは、この日が来るのをしっていたからです。この村の為に、私を役立てて下さい。おねがいしますね。おじいさん』
その声が聞こえんようになって、光も消えたとたん、きつねにつままれたような感じだったそうなんじゃが、じっさまはなんか、やっと心の中のもやもやみたいなものが消えて、すっきりしたんじゃと。
それはのう、あのごんげん松が、あんな大木になれたのは、運命でもなく、偶然でもなく、ごんげん松自身の意志の強さが奇跡を起こしたんだちゅう事を、じっさまは確信したからだそうなんじゃ。
“意志の強さ”とはのう『自信を持つ事じゃ。そしたら、目の前にどんな大変な問題がおこっても、その問題を乗りこえられるんじゃ。しかしのう、乗りこえられん理由をだれかのせいにしようとしとる時は、意志が弱まっとる時じゃ。その時はゆっくり考えて、自分を見つめ直せばええ』って、じっさまがおしえてくれたんじゃが、まだその頃はようわからんかった。
それからしばらくして、あのごんげん松は切りたおされ、この村は救われたんじゃ。そして、村の人々はそのことを忘れんようにと、感謝の気持ちをこめて、その切り株のそばに石碑をたてたんじゃ」
しょう吉は、その話が終わると、ぼそぼそっておじいさんに話しかけました。
「ずっと前ね、ごんげん松の近くで遊んでいた時、ハチにさされて腕がぱんぱんにはれ上がった事があるんだ。その時、友だちが「石碑のてっぺんに溜まっている水を、傷口に付けるとはれがおさまるって、ばっちゃんが言ってたよ」って教えてくれたんだ。でもその話を聞いていたワルガキの大将が「そんな迷信より、そういう時は、しょんべんひっかけたら、すぐになおる」って、むりやりおしっこかけられたんだ。くやしかったけど、何も言い返せなかった」
おじいさんはしょう吉の顔をのぞき込みながら、「そうかそうか、そんな事もあったんか。よう話してくれたのう」って言いながら、背中をさすってあげていました。するとまたしょう吉が話し始めたのです。
「あのね、ぼくあの時ハチの巣を見つけたんだ。それでみんなでだれが一番勇気があるかって、ハチの巣に近づいていたら、ひとりの子が枝がかおに当たってびっくりして “わっ”って言って持ってた棒をほん投げて走って逃げていったんだ。そしたらその棒がハチの巣の近くに当たって、怒ったハチが一番近くにいたぼくめがけてやって来たんだ。ぼくあわてて逃げたんだけど、ハチの勢いにはかてなかったんだ」
「しょう吉、勇気とはのうそう言う事じゃのうて、そういう悪い遊びを止めさせる事が本当の勇気なんじゃぞ」
おじいさんはそう言うとまた、何か思い出したように話し始めました。
「そんで、なんじゃったかのう。そうじゃそうじゃ。わしのこの曲がっとる足の事じゃったのう。じっさまが わしに言うたんじゃ
『今はその曲がっとる足の事でいじめられたり苦しむ事が多いかもしれんが、心まで曲がるなよ。
それから、おまえのかあさんは おまえがその足の事で苦しんどるちゅう事を、誰よりもようわかっとるぞ。しかし “同情ばかりしとったら、強い子に育たん”って、おまえのかあさんは言うとった。だからきつい事も言うたんじゃ。それからのう“かわれるもんならかわってやりたい”ちゅうてな、おまえのかあさんは一人でないとる事もあるんじゃぞ』って。
しかし、じっさまの話しはその時、わしの心に届かんかった。わしは自分の辛さしか考えられんで、そんなかあさんの気持ちなんぞ、分かろうとせん
かった。かあさんがわしのことで苦しんどるなんぞ信じられんかったんじゃ」そう言うとおじいさんは腰にぶらさげていた手ぬぐいをもちだし、おでこのあせと目尻を何度も何度もふいていました。
そして、えんがわの何処と言う訳でもなく、見つめる先をさがしながら、すこし寂しげな瞳で話をつづけていったのです。
「それから何年かたち、わしが大きゅうなるにつれて、戦争の足音が“ザックザック ザックザック”近付いて来た。そしてそれが、どんどんどんどん現実のものになってのう、ほんとに戦争が目の前にせまって来たんじゃ。
尋常小学校に行っとった子供たちは、みんな勉強もせんで、校庭を耕していもを育てとった。戦争がひどうなって、くうもんもだんだんすくのうなっておったからじゃ。
それから、みるみるうちに戦争がひどうなって来て、村の若い人たちに赤紙が来たんじゃ。みんなお国の為にちゅうて勇んで戦争にいっとった。しかしわしはのう、足がわるかったから赤紙がくる事がなかったんじゃ。そんなお国のやくにたたんわしの事を非国民みたいな目で見る人たちもおった。
その頃かあさんは、遠くまで塩やら砂糖やら買う為に、重い荷物を抱えて行き来しとったんじゃが、その時もわしは、何のやくにもたたんかった。かあさんはただ家族のしあわせの為に、一生懸命はたらいとっただけなんじゃが、わしはだれからも必要とされとらんと、ずっと思い込んでおったんじゃ。
しかし、その赤紙ちゅうのは、戦争にむりやり送り込まれる、地獄からの手紙ちゅうとこじゃのう。その戦地はそりゃもうひどいもんで、何人もの若い兵隊さんが命を落としていたそうじゃ。
そんな時代だったからこそ、兵隊さんのために、千人針ちゅうものが出来たんじゃ。それはのう、兵隊さんが無事に帰ってくる事を祈って、たくさんの女の人の手で、白い布に赤い糸でひと針づつ結び目を作っていった物じゃ。兵隊さんはその布を腰に巻いて戦地へ出向いて行ったんじゃ。悲しい時代じゃったが、誰にもどうしようもできん時代だったんじゃ。
それから、その戦争が終わって若い衆が戦地から帰って来るちゅうて、みんなでその日を待ちのぞんでおったんじゃ。しかし、ぶじに帰って来るものは多くはなかった。あのワルガキだったあいつらも包帯を巻いとったり、松葉づえを使わんと歩けんようになっとった。
ある日その中の一人が「おれは戦争に行って、ほんとうに大切な事がわかったような気がする」ちゅうて、わしに話しかけて来たんじゃ。それから、こう言うとった
「俺は、子供の頃から“自分以外はみんな敵だと思うて、自分を守る為に、敵である相手をやっつけなければいけん”とずっと思うて生きておった。しかしのう、状況が極限に達した時に気づいたんじゃ。“敵は外にもおるけど、、自分の心の中にもおる“ちゅう事に」ってな。
その時わしは“はっ”としたんじゃ。そんで、急にあのごんげん松の所に行きとうなった。そりゃもう、いきがきれるほど走って、裏山にのぼって行ったんじゃ。
わしは、かあさんのきびしさにいつの間にか心を閉ざすようになっておった。大好きだったかあさんからどんどんはなれていったんじゃ。そんでひとりぼっちの寂しさをむりして隠して、大切なものから目をそむけて生きておった。しかし、やっとじっさまの言うとった事が、わしの心に届いた。そしたら、 子供の頃の辛かった事や、あの頃のかあさんの思いが心にしみて来て、とめどもなく涙があふれてきたんじゃ。なんじゃかのう、心の中のゴミがぜんぶあふれ出て来て、生まれ変わったみたいじゃった。そんで、かあさんのとこへとんでいって、言うたんじゃ。
『かあさん、わしは子供の頃からずっと、かあさんから大切にされとらんと思い込んでおった。それで、大人になったらこの寂しさも無くなるんじゃないかって思うて、大人になることばかり考えとった。でもほんとは、もっと優しゅうしてほしかった。そんなおいらの気持ちをわかったほしかったんじゃ』って。
そしたらかあさんが『そうか、そうじゃったんか。かあさんは家の事や仕事の事でせえいっぱいでのう、おまえの将来の事を考えるだけで苦しかったんじゃ。そのうえ、おまえが何か問題を起こすたんびに“もうこれ以上かあさんを苦しませんでくれ”ちゅう思いで、おまえを責めるように、しかっとったのかもしれん。わるかったのう。』って言うて、うっすらとなみだを浮かべとった。そのなみだがわしを救ってくれたんじゃ。
それからわしは “おいらもかあさんの気持ちを考えようとせんかった”ちゅう事をかあさんにあやまったんじゃ。
するとなっ、かあさんがこんな事を言うとった『かあさんも子供の頃、とうさんによく叱られて辛い思いをしとった。しかしのう叱られる事が辛いんじゃのうて、とうさんがかあさんの言い分を聞き入れようとしてくれん事が辛かったんじゃ。今思えばおまえにも同じ思いをさせとったんじゃのう。』って。
ええかしょう吉、人の言葉に振り回されるんじゃのうて、その奥にあるそ
の人の気持ちを感じてやる事が大切なんじゃ。
それからのう、どんな時でも“じいちゃんはおまえのそばにおる”ちゅう事を忘れるんじゃないぞ」
そう言うと、つるっぱげのおじいさんは、しょう吉のハゲあたまをまじまじと見て、「しかしりっぱなハゲじゃのう」って言って大笑いし始めたのです。「わっはっはっはあ、わっはっはあ」
そしたらしょう吉も、おじいさんのつるつるあたまを見て、おもわず “プッ”って、ふきだしてしまいました。
「は・は・は・は・はっはっはっはあわっはっはっはあ」
そして、ふたりの笑い声は、空の彼方へとすいこまれて行ったのです。
その時、しょう吉は思いました。
(おじいちゃんの足は今でもまがっていて、ずっとずっと辛い思いをしてきたんだ。だけど、先生が言ってた。ぼくのこのあたまの病気はあと少しでよくなるって。ぼくのつらさなんか、おじいちゃんの体験した事にくらべたら、風のいたずらみたいなものかもしれない)
そしてしょう吉は、空を見上げながら心の中で叫びました。
(おとうさん、ごめんなさい。ぼくお父さんとの約束忘れていたよ。おとうさんが亡くなる前に約束した事。“お母さんを大切にしてくれよ”て言ってたよね。もう大丈夫だから、心配しないでね)
今までちぢこまっていたしょう吉の体が、あの頃のりっぱなごんげん松のように、どうどうと天に向かって胸をはっていました。
そして、心にちかったのです。
(おかあさんが帰って来たら、素直に何でも話そう)って。
その時ちょうど、空に浮かんでいる大きな雲の隙間から、おひさまの日ざしが、しょう吉に降り注いできました。
しょう吉を優しいつぶらな瞳でみていたおじいさんは、そのまぶしさに、しわしわの顔が、もっとしわしわになって、目がしょぼしょぼになって、微笑んでいたのでした。
そして、しょう吉はおじいちゃんの方に振り返って、思いっきりの笑顔で言いました。
「おじいちゃん、ぼく明日から帽子なんかかぶらないで、みんなのとこへ遊びに行くよ」
するとおじいさんは、大きくひとつうなずきました。
自信を取り戻したしょう吉の瞳は、夕暮れ時の、あのあかとんぼの羽のように、キラキラとかがやいていたのでした。
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