熊野古道と那智の大滝



中国蘇州で、ユネスコの第28回世界遺産委員会の会議が開かれ、
紀伊山地の霊場と参詣道を世界遺産に登録することが決まった(7月1日各紙)。
巡礼地を含む歴史的遺産は、スペインに次ぎ、2番目。

かってない広域な地域の指定は、
一方では、地域住民も一体の今後の自然環境の管理と保護活動が義務付けられ、
試されることを意味している。

NHKのテレビで、関連のドキュメンタリー等、紀伊地方の特集番組を2つ観た。
関係自治体の担当者の期待と抱負と緊張がさらりと流された。
紀伊は古都奈良や京都に近く、
古来から皇室をはじめ、大和民族の精神と伝統の故郷であり、文化芸術、宗教施設の宝庫。

また、天与の自然に恵まれた深い森林に覆われた生物多様性を誇る山岳地域は、
熊野水軍や戦国武将の栄枯盛衰が神社仏閣のそこかしこに、往時を偲ばせ静かな時を刻む。

蟻の熊野詣と呼ばれ、紀伊はもとより、畿内を越えて、
多くの時代の庶民が、その地を訪れることを無上の励みとし、生活のはりや支えにしてきた。
熊野古道の山川水木の一つ一つに、精霊が宿り、人皆敬虔な気持ちになる。
善人、悪党、蟄居左遷を命じられた幾多の英傑の無念の情念が、高温多湿な万物に苔むす。

和歌山の傑物、博物学者南方熊楠が、貴重な菌類を昭和天皇に御座船で奉呈された逸話の神島。ことほどさほど、この地は植物・菌類の玉手箱。

今やバイオが新産業を興すとされ、大学発ベンチャー企業が覇を競い、
短期間で一気に上場まで果たす。業界は、今夏の猛暑の中でも熱い気炎が燃え立つ。
農林水産業にも曙光。
少子高齢化の現代日本の未来は、伝統食の研究による新しい安全安心な健康食品の開発。

世界遺産に登録された今、終わりなき民族の繁栄の為にも、
神々に育まれた自然の産物を、英知を結集して事業化する時。

漁船員の頃、遥か熊野灘から見かけた那智の大滝は、航海安全の指標であり、
霞の彼方に浮かび後光が差した。
数多の船乗りの無言の魂の流れ。
大滝を下り落ちる真っ白で冷たき飛沫は、船乗りの守護神であり、作物豊穣の印。

この大滝を、決して枯らしてはならない。

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