陽炎日和

陽炎日和



   「―――なに、してるんですか」

   陰鬱な一つの声は、男の背に落ちた。






   【羽根も無いのに、空を飛ぶ練習をしようとしている】






   「あぁ、お前かぁ」

   赤に紫、黄色に朱色の色たちが作り出す、夕日の色。

   その色に染まりながら、男は笑って振り返った。

   屈託の無い、子供のような笑顔だった。

   「………なにをしていたんですか」

   暗い声。太陽のような笑みを浮かべる男とは正反対の陰鬱な月

   といった印象を受ける。

   太陽の男はへへっと少年のように得意げに笑っていった――。


   「飛ぶ練習、してたんだよ!」

   「………は」

   男は立ち上がり、腰に手を当てて少年を見下ろす。

   「俺のガキの頃からの夢でさ、飛びたいの。俺」

   「………羽根も無いのに、飛べるわけないじゃないですか…」

   呆れたような、小ばかにしたような少年。

   だが、男はそれに機嫌を悪くすることも無く、満面の笑みを

   浮かべている。




   「飛ぶよ?俺は」


   赤一色になりかけていた夕日をバックに男が微笑む。


   不覚にも、少年は男の笑みを優しいと思ってしまった。




   だけど、あまりにも不自然なタイミング。




   男は夕日を背負って、泣きそうに笑った。





    ふわりっ と 全てがスローモーション




    男がゆっくり ゆっくり あまりにも自然な動作で







             落ちていく










      随分下で、耳を塞ぎたくなる音がした。



      少年は放心したまま。




      だけど、やがて。






     光が去って、闇の幕が世界を包む。




      その最後の瞬間、少年は呟いた。





























    『羽根も無いのに、空を飛ぶ練習をしようとしているからだ』




























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