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ティエンの趣味に全力疾走
異界への墜落 Act.1
Act.1
さわさわと、茂った草が頬を撫でる。むっとするような草いきれが鼻を突いた。
「!?」
仰向けに倒れていた彼・・・・木正木ズンイチは、勢い良く体を起こした。
「たった今まで、俺は瘴魔と戦っていたはず・・・・」
何処までも広がる草原。周囲には動く物は無く、ただ、風が吹き抜けるばかり。
頭上には抜けるような青空が広がり、萌え始めたばかりの柔らかな草が風にそよぐ。
「ジーナ!? ブイリュウ!?」
共に戦い続けてきた仲間たちの名を、順番に呼ぶ。
しかし、何処からも応えが返ってこない。ズンイチは、改めて周囲に眼をやった。
爽やかな初夏の風、何処までも広がり地平線を見せる草原。。
「・・・・地平線?」
日本には、地平線が見えるような場所など殆ど存在しない。第一、今は晩秋だったはず。
そんな事を考えているズンイチの頭に、今までの事が少しずつ甦ってきた。
瘴魔との戦闘の最中、突如起こった爆発に煽られ、何かに叩きつけられた。
叩きつけられたショックで、武装は全て解けてしまっていたらしい。
「ひょっとして、オーストラリアまで吹っ飛ばされたか?」
そんな訳もあるまいと、乾いた笑みが漏れる。季節の逆転、広大な景色。
考えれば考えるほど、自分の居場所がわからなくなる。
「・・・・ここは、一体何処なんだ?」
辺りを見回し、誰に言うとも無く呟いたズンイチ。応えが返ってくることを期待していたわけではないが。
「おや、珍しいね。こんな所にニンゲンが居る」
すぐ傍の虚空から、少し高めの、性の判別が付きにくい声が響いた。
ズンイチに理解できる言語ではなかったが、その意味だけが脳裏に響く。
驚いて振り向いたズンイチの眼に、虚空から腕が突き出している光景が飛び込んできた。
濃紺の、不思議な光沢を持った布地に包まれている、細い腕。
すぐに続いて、か細い肩、中性的な顔が現れる。
「な、なんだ?」
あっけに取られて呟くズンイチの前に、やけに小柄な、褐色の肌の生き物が現れた。
人に良く似た体つきだが、細かい所が微妙に異なる。
ピシッと襟首の詰まった、奇妙な光沢を持った裾の長い上衣を纏い、腰の辺りを白い布で押さえている。
雪を置いたような白銀の髪に、金属のような光沢をした暗緑色に塗りつぶされた目。
額の部分には、瞳とまったく同じ色と質感をした、アーモンド形の器官が有る。
162cmという、格闘家としては小柄な体躯しか持たないズンイチだが、現れた生き物はその彼よりもさらに小さい。
並んで立てば、生き物の頭頂部がようやくズンイチの顎の所に来るくらいだろう。
年の頃はズンイチと同じか、多少下と言った所か。もし、相手が人間であるならば、だが。
「お前、ちょっと邪魔。どいて?」
現れた生き物は、邪険な調子でそう言うと、ズンイチの体を押しのけようとする。
伸ばしてきた生き物の手を取り、思わず投げ飛ばしてしまうズンイチ。
生き物は、空中で何か呟いたかと思うと、まるで体重を持たないかのようにふわりと着地した。
そのまま生き物は、全くためなどの間をおかずに、フッとズンイチの目の前まで移動する。
次の瞬間、ズンイチの視界が大きく回転した。
「お返し」
ぱんぱんと、やけに人間臭い動作で、手に付いた埃を払い落とす生き物。
そのまま、たった今までズンイチが立っていた場所・・・・、生き物自身が現れた地点まで移動する。
そして生き物は虚空に手を差し入れ・・・・、空間を引き裂いた。
引き裂かれた空間の隙間から、転がるように一人の青年が降ってくる。
傷だらけの、黒い金属鎧を纏った青年。
生き物は、意識を失っているらしい青年の体を、よいしょ、掛け声をかけて担ぎ上げた。
そのまま歩き出そうとして、ふと気付いたようにズンイチの方を振り向く。
「お前が誰だか知らないけど、あまり此処に長居しない方が良い。一応、言っとく」
言いたい事だけ言い放つと、さっさと歩き出す生き物。
完全武装の人一人担いでいるのに、その足取りは軽い。
「おい! ちょっと待ちやがれ!」
ズンイチを無視して立ち去ろうとした生き物を、呆然と眺めていたズンイチが呼び止める。
同時に駆け寄り、生き物の肩を掴んで振り向かせた。
「気安く、触るな」
眉を顰めた生き物が、肩に置かれたズンイチの手を払いのける。
もう片方の肩の上には、きっちりと武装した青年を担ぎ上げたままである。
どう見ても人間業ではない。
「お前は何なんだ! ここは一体・・・・」
矢継ぎ早に問いかけるズンイチの言葉をさえぎる様に、生き物は手を上げた。
そのまま、空を見上げて動きを止める。
何を聞き取ろうとでもいうのか、人の耳と同じ場所に生えた透き通った魚のヒレに良く似た器官が動く。
「来た」
生き物は、それだけ言い放つと、ズンイチの方へ駆け寄ってきた。
「な、なんだ?!」
慌てふためくズンイチを無視して、素早く背後を取る。
「寝てて」
生き物のその言葉を最後に、ズンイチの意識は途切れた。
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