濫読屋雑記

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2006年02月15日
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カテゴリ: 手に取った本
今日は、昨日「 本に埋もれて・・・ 」の中で紹介した、 横井勝彦 著『 アジアの海の大英帝国 19世紀海洋支配の構図 』(講談社、2004年)を使って、 私の好きな海軍話を展開してみたいと思います

海軍が大好きって、どの国のどの時代が好きなの? 」と尋ねられれば、私は国は当然、 日本 と答えます。そして時代は 幕末の幕府海軍、つまり長崎海軍練習所 (高校の歴史の参考書に載っているかな?) 時代から第一次世界大戦後、ワシントン海軍軍縮条約時代まで )。戦前の帝国海軍は日清・日露戦役、そして第一次世界大戦中ぐらいまでは、まともな思考を維持していたのですが、欧州戦線での「総力戦」「国家総動員体制」という悪夢を見てしまい、陸軍共々「資源確保」「工業力の底上げ」という「総力戦」を戦い抜くための命題を実現する国力が無い事を悟り(作り上げようとして挫折した、と言った方が良いかもしれません)「短期決戦」という絵に描いた餅を夢見て、太平洋戦争へと坂道を転がり落ちていくのです。

話が横道に逸れましたが、日本海海戦や東郷平八郎、秋山真之が活躍した 日露戦争 や大多数の人が関心のある 太平洋戦争 と共に、なぜ 幕末、日本海軍の黎明期に関心があるかと言いますと あの時代の軍艦、汽走軍艦が好きなのです 。そのため 元綱数道 著『 幕末の蒸気船物語 』(成山堂出版、2004年)という、教科書でも有名な咸臨丸や、新撰組の土方歳三が最後に戦った函館戦争で戦うことなく沈んだ悲劇の軍艦、開陽丸や、宮古湾海戦で活躍した回天、五稜郭を砲撃した甲鉄などの軍艦の解説(その他、蒸気船の歴史や船自体の構造や機関、兵器等の解説も有ります。)が載っている本を衝動買いしています。

そんな 帆柱が立って船の両側に外輪が付いていてひょろ長い煙突から煙を吐き出す汽走軍艦 (この時期は、スクリュー艦が実用化された時期で、段々と外輪船を駆逐していく時期です。幕府がオランダから買った咸臨丸はスクリュー艦です。)を一般の人々に思い浮かべて、と言われてもピンッとこないと思いますので、誰でも簡単に思い出せる具体例を挙げましょう。それは 歴史の教科書や資料集に載っている、幕末に日本開国を求めてはるばる地球の裏側からやって来たペリー率いるアメリカ東インド艦隊所属の蒸気フリゲート、ポーハタン号やサスケハナ号が汽走軍艦なのです

アヘン戦争の場面で必ず出てくる旧態依然な中国独特の帆船、ジャンクが彼方に見えるイギリスの帆を畳んで煙を吐き出して進む外輪の蒸気軍艦の砲撃の直撃を受けて吹き飛ばされる絵が資料集に出てくると思いますが、これも汽走軍艦です 。この、軍艦の名前は 鉄製汽走砲艦ネメシス号 (ネメシスとは、ギリシャ神話の復讐の女神の名です。まさしく、大英帝国臣民の財産であるアヘンを没収・処分した清国に対する懲罰的軍事行動にピッタリな艦名です。)と言います。インペリアル・グレート・ブリテン(大英帝国)の王室海軍(ロイヤル・ネービー)所属で、660トンの小さな軍艦で、機関の出力は120馬力で32ポンドの旋回砲を2門搭載していました。

そこで、フッと疑問が浮かびます。それは、 当時、ヨーロッパ列強の中で最も強大な海軍力を保持する英国海軍が、なぜアヘン戦争でこんな小さな軍艦を積極的に使用したのか 、ナポレオン戦争時代のような強力な戦列艦やフリゲート艦をなぜ、動員しなかったのか?ということです。この疑問に答えてくれたのがこの『 アジアの海の大英帝国 19世紀海洋支配の構図 』なのです。さらに、 この本ではなぜペリーが日本開国の勧告に訪れた時、極東に大規模な軍事力を展開していた英国が日本開国のための艦隊を編成できなかったのか、という謎にも回答してくれています

さて、ここで下にあります『 アジアの海の大英帝国 19世紀海洋支配の構図 』の表紙画像に注目してください。小さくて解かり難いかも知れませんが、この絵には 帆を畳んだ外輪式汽走軍艦 (砲艦・ガンボート) がひょろ長い煙突からモウモウたる黒煙を上げている姿と、帆をいっぱいに張って前を進む汽走軍艦に引綱で曳航されている帆船 (砲を20~30門程度搭載したスクーナーと思うのですが。) が描かれています 帆船は、両舷の砲を使って清国側の兵船を砲撃していて、真っ白な砲煙の向こうには燃え盛る清国の兵船が描かれています 。この絵は、 ヴィクトリア朝英国の大衆が喜んだ、愛する海軍が野蛮な非キリスト教国に懲罰を与えた「文明の勝利」を端的に表現しているものです 。また、 それと同時に自分たちの文明の象徴、汽走軍艦を絵の中心に据えて、文明・科学の力と栄光あるロイヤル・ネービーへの賞賛を表現している興味深い絵でもあります (深読みしすぎかな~)。

そして、この絵から 世界に冠たるロイヤル・ネービーが汽走軍艦をアヘン戦争、そしてその後の中国沿岸部での軍事行動に多用した理由の一端がわかるのです 。この絵では、汽走軍艦が帆船を曳航しています。実は、 ここは海では無く、川の河口なのです 。当時、中国の港は川の河口から少し上流に入った所、三角州や支流の分岐した場所にありました。これは、広州(珠江)や上海(揚子江)、天津の外港、太古(タークー、本当は「古」にさんずいが付きます。川は白河)等がその代表になります。 そのような潮の流れが複雑で、浅瀬の多い場所 (潮の干満の差もありますし、第一、正確な海図がありませんし、敵地なので正確な測量も出来ません) では帆船は自由に操舵出来ません 。そこで、 海流や風の影響を受けず、ちょっとした座礁でも自力で脱出する事が出来る水深が浅いところでも活躍できる小型の汽走軍艦が活躍することとなったのです

でも、 このような蒸気機関を積んだ汽走軍艦が活躍するためには、英国内で色々と問題があったのですが その面白い (私にとっては、ですが) お話は次回にとって置きます

アジアの海の大英帝国 幕末の蒸気船物語





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最終更新日  2006年02月16日 01時50分13秒コメント(0) | コメントを書く


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