サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2011.03.01
XML
カテゴリ: 映画
 そして、そうした自身と他者(異物)の拘わり合いを、気張らずにサラリと等価で扱うというスタンスは(これは私の勝手な希望的観測ですが)、ひょっとすると前の戦争二部作「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」で、アメリカ側と日本側の兵士の目線で、戦争をそれぞれ等価で描いたことが、少なからず起点になっているのではないか、と思っているのです。彼が「硫黄島からの手紙」を日本映画だ、と言っているのは、たんなる外交的言辞ではなく、彼自身の内心に潜む、ある明晰な真情から出たものでしょう。
 これは「インビクタス」に現れた人種(異種、異物)間融和のテーマにもつながっていますね。

 さて、そうした彼の映画もまた何がなし、「コトバ」に裏付けられた想像力の喚起性があるように思える。例の「ミリオンダラー・ベイビー」では、めずらしく表に出て来ましたが「モ・クシュラ(Mo Cuishle ― 私の愛する者、私の血)」という古代ゲール語の呪文は、主人公がいつも事務所の机においていた詩集(アイルランドの詩人イェーツ)が、この古代ケルト語の魔術的力に惹かれたように、イーストウッドも古代語の放つ呪力に魅力を感じていたことを示しています。
 彼が華やかな映像表現ではなく、想像力の源泉に「コトバ」を媒介にしているらしいのが、私には好ましいのです。

 ところでイーストウッドの映画についていろいろ話して来たのは、このブログのテーマに絡めて上の二つの戦争映画をどう捉えるか?ということをあれこれ考えているからです。この映画については、前のブログで観ようかどうかためらっている、というようなことを書きました。一言でいえば、日本兵が吹き飛ばされ、焼き殺されるシーンをハリウッド式の映像で見せられてはたまらない、というところがあったからです。
 スピルバーグが撮影に協力しているというところも大いに気になっていたところでした。日本兵が「プライベート・ライアン」で克明に描かれたオマハビーチのシーンのように、臓腑をえぐられ血飛沫を飛ばすようなかたちで見せつけられては耐えられない、と思うのは私だけでしょうか?
 それにしてもアメリカ人というのは、なにもスピルバーグに限らず、同胞が殺られるシーンでも驚くほど平静ですね。ここには何か英米人に通有の、我々日本人には量れないマインドがあるような気もする。例えばR・スコットの「ブラックホーク・ダウン」など負け戦の話なのに、兵士が陵辱される場面も平然と撮る。これが日本映画だと阿鼻叫喚、反戦のプロパガンダの気分が、力みかえって必ず表に出てしまいますが、彼らの場合どうもそうしたスタンスとは明らかに違う。まあしかし、これも話し出すとキリがないので、ここではしません。

 ある時(三年ほど前)に意を決して、というほどではないのですが、上の二つの戦争映画を続けて観て、ちょっとホッとしたところがありました。このホッとした要因は、明らかにイーストウッドの映画に対するスタンスに因るところが大きいと思っているのです。終わりまで妙な感情の昂ぶりを起こさずに、観終えることが出来たのはなぜなのか?
 日本では硫黄島の戦いの惨烈さを、改めて(しかも相手国側から)描いたものとして評価が高いのですが、私はそんな生半な理解で済ませたくはないのです。ハッキリ言えば、映画としての出来は「父親たちの星条旗」のほうが数段上というか、「硫黄島からの手紙」の造りかたには、どうみても前者のスピンアウトな感じが否めない。それはたんに前者の映像を数多く後者に取り込んでいる、といったことだけではなくて、映画的な面白みという点において、この両者には出来具合にだいぶ差があると、私は思っているのです。


 しかし「パットン」は、生まれつきの戦争フリークであるパットン将軍の、はなはだ特異な肖像を描くのが主で(確か脚本に「地獄」のコッポラが入っていましたね)、それはそれで見事な造形なのですが、戦争の全体像を観るという点では充分とは言えない。「地獄」と「シンレッドライン」は、戦争そのものであるよりは、戦争を題材にした人間の狂気を描くのが主体になっているように思える。イーストウッドは、そうしたことさらな狂気性や演出を、むしろ遠ざけて例によって平静を装っているように見えます。

― つづく ―






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2011.03.01 14:34:10
コメント(0) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: