オキナワの中年

オキナワの中年

干刈あがたの文学世界



[読書]/コスモス会編/干刈あがたの文学世界/(鼎書房・2940円)/多様な角度から作家に光
 干刈あがたは、バブルに浮かれる一九八〇年代、家族の危機、結婚、離婚、子育てといった課題を描き、女性読者を中心に絶大な支持を得た女流作家である。しかし九二年に四十九歳で急逝。本書は故人を偲ぶ友人、編集者、読者らによって結成された「コスモス会」が、十三回忌を機会に編んだものである。

 写真アルバム、友人知人らの思い出、同時代を生きた作家たちの作品分析に加え、本格的な作品論、年譜や書誌など詳細な資料が加えられており、多様な角度から、干刈あがたという作家に光を当てている。「コスモス会」とは最後の短編集『名残のコスモス』にちなみ、七十人を超える会員によって支えられている。


 八〇年代の文化が急速に色あせていく中、今なお干刈が熱烈な支持者を持つ所以は、経済的な繁栄の影で、人間・家族というものを鋭く見据えていたからであろう。長編小説「黄色い髪」に描かれた、孤立する母子の困難と「少年」たちがかかえる問題などは、世紀を隔てた今日、より切実にわれわれをとらえている。


 このような現代的なモチーフと同時に、干刈は、両親の出身地として、沖永良部島にルーツを持ち、奄美・沖縄文化に深いかかわりを持っていた。本名の浅井和枝は奄美の郷土史研究家でもあり、処女出版は自作の短編と詩に、採集した沖永良部の島唄をまとめた『ふりむんコレクション』である。同書の中の「私は遅れてきた祝女なのではないだろうか」という干刈自身の言葉を受け、与那覇恵子氏は「作家として現在のおなり神でありたい、とする渇望」を読みとっている。


 没後干刈の書斎からは、数多くの奄美関連資料が発見されている。


 残された他の作品では、都市生活が前面に出、南の問題は必ずしも明確ではないが、仮に今なお存命であったとするなら、と想像はつきない。他に県関係者としては、友人の一人として、作家田場美津子氏のエッセーが掲載されている。(大野隆之・沖縄国際大学教授)


 コスモス会編集委員は岩崎悦子、大槻慎二、長田洋一、鈴木貞史、深田睦美、毛利悦子、与那覇恵子






(写図説明)コスモス会編 干刈あがたの文学世界(鼎書房・2940円)


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: