.



「ふぁ~~~わぁ」
「やだ、雫目が腫れてるわよ、昨夜は随分なこと泣きはらしたみたいね~」
「おはよ、京子おばさん、そうよ、泣いて泣いて泣きまくりました」
「あは・・・っ、さ、朝ごはん。学校今日から新学期なんだから早く行きなさ・・・」
「母さんーーーーーーーっ!!」
世界の驚愕の声が玄関から聞こえてくると同時に――・・・
「おはようございまぁ~ふぁ・・・す」
「あら、菜由多ちゃん、お早う」
「ぬ。あの女まだ泊まってたの?」
京子にヒソヒソ声で雫がささやく。
「えぇ、ちょっとの間置いてあげる事にしたの。」

「あ・・・あの雫さん」
「え!?は・・・はいいぃっ!?うわっ・・・!!」
ガターン!!
「ちょっと、雫!何やってんの~、もぅ」
椅子のバランスが崩れてお尻から雫は落ちたのだ。
「って・・・・ぇ」
「あの、雫さん、昨日はごめんなさい。私、雫さんのキモチ考えないで――・・・!」
「あ~、うん。そのことは気にしないで。あたしも悪かったし。」
「『喧嘩両成敗』ってやつだな」
手紙を抱えながら戻ってきた世界が口出しした。
「あっ!うるさいぞぅ、世界!」
「ほら、お前宛。」
ポイッ、と捨てられた手紙を「よっ」と雫が取った。
「ちょっとぉ、人宛の手紙軽々しく投げないでよ、大事なものだったらどうすん・・・?」
「お早うございます、世界さん」
「おぉ、はよ・・・ふぁ~~」
大きな欠伸を世界がかます。
「 ぎょえーーーっ!!!? 」
雫が大声を出す。
「なーに?雫大声出して~」
京子が唇を尖らせながら言った。
「みみみみ・・・・格闘競技会の会長さんから・・・っ!」
「え!?」
世界が手紙を取り上げ読み始める。



拝啓 月影 雫様。少しずつ冬の足音が聞こえてくる季節になりました。
いかがお過ごしでしょう、第79回「格闘競技会」に出場を認められたことをここにお知らせします。名誉ある券です。
あなたの名を汚さぬよう、悔いの残らぬように。精一杯の力で挑んでくれる事を願います。
大会の開始日は11月31日からです。それぞれ男子、女子に分かれています。
女子を先に行う予定ですので、日時場を間違えぬよう出場お待ちしております。
予選で頑張ってください。準優勝、優勝、優秀賞を3名。

日:12月1日(火)祝日

時:9時30分~4時45分(予定)

所:千津木体育館(詳しい交通機関については「http://www.co.jp/tiduki-koutu/koko/」まで。)

相手についてなどはまた後ほど手紙を送ります。
       草々 格闘競技会会長 山本隆志




「きゃっwすごいじゃないv雫!」
「ね、世界にも来た?」
「あぁ」
同じ文が書いてある封筒をヒラヒラと雫に見せた。
「これって珠璃が行くって言ってたやつ?」
「あぁ、多分そーだろうな。良かったな雫!」
久しぶりに良い笑顔で世界が雫を祝福する。
「あ・・・////あんがと・・・っ」
雫は慌てて世界から目を逸らす。
「あんたこそ・・・おめでとっ・・・////」
「サンキュー」

目玉焼きを一かじりすると雫は
「着替えてくんねーっ」
と、階段を登っていってしまった。

「ねぇねぇん、世界君、これなぁーに?」
雫が居なくなりケロリと猫なで声で世界に話しかける菜由多。
「ん?あ、あぁ、これ?毎年格闘会があってそれはこの手紙がこないと行けないんだ。」
「世界君にも来たんだぁv」
「おう。」

「ひ~」
薄い水色のブレザーを着ながら階段を雫が駆け下りてきた。
「遅刻する・・・っ!」
「やべやべ・・・!」
世界も大急ぎで朝ごはんを口に運んでいる。
「・・・」
「――・・・!」
菜由多はそれをぽかんと見ていた。
京子はこんなのいつものこと、とでも言うように平然としている。

「あ、そうだ、言い忘れてたけど」
京子が突然口を開いた。
「「んぁ??」」
世界と雫が同時に反応した。まったく双子のようである。姿勢からなにまでまるで一緒だ。
「この時計。10分遅れてるんだった。」
時計を指差して京子が言った。
「はぁ~~~~っ!!??」

世界も雫も残りの食パンを口に銜え、ばたばたと走り出し、かばんを掴んで二人とも同時に
「「いってきマース!!」」
と叫び二人とも全力疾走で走った。二人は日頃格闘稽古をやっているせいか、走りも速い。
同じくらいの速さで二人とも学校に突っ込んで行った。

さすがに走り終わった後には雫の息がものすごく荒くなっていて、世界は多少息を乱れさせていた、しかし余裕の世界である。


「おはよう!雫」
「美里・・・おはよ・・・」
「なんかすごい疲れてる?」
「あはぁ・・・(泣)」

「――XにH=2を代入し――・・・・!」

雫はシャーペンを口に銜えながら窓の外を見ていた。
今朝とどいた手紙の中に小包が混ざっていたのが・・・
それが気になっていたのだ。
世界も同じことを考えている顔でノートを取っている。

「あ・・・・・・・・っ!!」
世界が急に声を発した。
「どうした、桜風。」
「先生!俺、早退します・・・!!!」

消えるようなスピードで教室を出て行ってしまった。教師の返事も聞かずに。
「お・・・おい!桜風!」
優等生の世界が急に早退とは何事だとみんなざわつき始めた。
「桜風!」
教師の最後の呼びかけにボーっとしていた雫も我に返り、銜えていたペンをかばんの中に詰め込み・・・
「市村先生!あたしも早退!!」
「雫!」
美里が立ち上がった。
「おい!二人して何なんだ!月影!!」
そう言う間もなく雫は
「世界~~~~~~~~~っ!!!!」
走り去ってしまっていた。

「はぁはぁ・・・!ねぇ世界!」
やっとの事で世界に追いついた雫が黙々と走り続ける世界に問いかけた。
「あの・・・はぁ、小包・・・っのこと・・・?はあ」
「あぁ、そうだ!早く帰るぞ!」
「う・・・うん!!」

―帰宅―

「ちょっと!午後の授業は!?」
京子が急いで息をきらしながら帰ってきた二人に最初に訊いた質問はこれだった。
「え・・・とその~~」
もごもごと言い訳を考える雫をよそに世界は京子の隣をすっ、と素通りし、テーブルの上においてある茶色い小包を持った。
「・・・やっぱりな」
「何?」
京子が眉間にしわを寄せながら世界に近づいた。
「ほら。」
世界が京子に包みを渡した。
「え?・・・あ」
「何々??」
雫も駆け寄り包みの送り先を覗いた。





80




〒132-4431 東京都日向区舘堂3-14-5桜風道場
琴川グループ琴川道場代表 琴川剛






「剛!?」
「あぁ、あいつからの素敵な贈り物らしいな。」
「開けてみて・・・」
京子が世界に言った。

無言のまま世界が包みの封を破っていく。
沈黙の中、びりびりという紙が破れる音だけが響いていた。

ピリッ・・・完全に口が開いた。
中からヒラリとメモ用紙が落ちた。
「にゃ。」
奇声を上げて雫がそれを拾い上げ呼んだ。

「 雫元気かい?もうビデオを先に見ちゃったかな、まぁどうでもいい。それには優しい僕からの君への贈り物。
大事な友達、弥神莉里の状況がよくわかる。
」

「莉里!!!」
雫が叫んだ。
「とにかく見てみる価値はありそうね、莉里ちゃんのことは私も心配だし」
「うん・・・」
ビデオデッキにそのテープを入れ、再生を押した。

途端に莉里の辛そうな顔が現れた。

『雫ちゃん!だめよ!戦わないで。琴川君は雫ちゃんが勝っても負けても雫ちゃんを自分のものにする気なの!
私のタメに雫ちゃんが怪我したりするの絶対いやなの!だから琴川君と戦っちゃだめ!!おねがい!』

そう訴える莉里の体には傷が多数付いてる。
手荒に扱われている証拠だ。

『ね、琴川君から聞いたわ、雫ちゃん、大会出場おめでとう・・・!』

こんな状況にもなって莉里は雫をかまってくれる。
「莉里・・・・」
雫が呟く。

『でも稽古は無理しないで。女の子なんだから、無理は絶対ダメよ。・・・それにこの大会は琴川君のグループが主催してるのよ。だから
もしかしたら大会で勝たないと・・・また無理な条件で雫ちゃんを無理や・・・ きゃあっ!! 」

莉里の鮮やかな赤紫の髪が突如何者かに引っ張られた。

『痛い・・・!痛い、放して!!』
『おいおい、髪は女の子の命なんだ。あんまり手荒に扱うなよ。』

聞きなれた声が聞こえる。

『この小娘め!よけいな言葉を言うんじゃない!』

莉里が画面上から消え、それと引き換えに男が現れた。
剛だ。

『やぁ、雫。久しぶりだね』

「くそったれ!」
雫が言った。

『今見たとおり弥神莉里ちゃんは他の者と正当な扱いを受けている。』

「何処がだよ」
世界がつっ込んだ。

『まぁとりあえず彼女の言葉は僕の連絡のおまけなんだけど。僕と雫が戦う日延期だ、格闘大会があるからね、でわお姫様御機嫌よう。』


“だめよ!雫ちゃん、琴川君と戦わないで!!”
莉里の必死の声が雫の頭を駆け巡っていた。

「そ・・・なの莉里(アンタ)の状況見て・・・できるわけないじゃない」
知らず雫の瞳から零れ落ちた涙が床に落ちる。
「少しは・・・自分の子と心配しなさいよ・・・いつもあたしのことばっかで・・・“雫ちゃんは女の子なんだから”って・・・」

「雫・・・!」
世界が京子と顔を見合わせる。
が、次の瞬間―――・・・

「あんたも女でしょうがーーーーーぁっ!!」

すごい声量で雫が絶叫した。

「うるせー、雫~~~~~っ!鼓膜破れるだろ馬鹿野郎!」

「いーもん、このビデオのせいで余計あんたのこと助けたくなっちゃった。」
ニッと笑って雫が世界に
「ということなので稽古の相手よろしく。」
と一言言って、京子に向き直った。
「おばさん、菜由多は?」
「え?あ・・・はい、菜由多ちゃんは家に大事なもの置いてきちゃったから取りに行くって。」
雫の意味不明な行動に呆気にとられながら京子が答えた。
「そっか・・・」

とその時・・・

ガラリ、扉が開く音がした。菜由多が帰ってきたのだ。

「あら、大事なものあった?菜由多ちゃん」
「え?あ、はい。お蔭様で・・・」
スッと包み布の中から現れたのは2種類の弓と大量の矢だった。
「弓矢・・・」
雫が覗きながら言った。
「うちは代々昔から弓矢を家宝とし、また弓矢を最大の武器として戦っていたそうで、我が木久佐家では
皆弓矢を完璧に使いこなさなければいけなくて・・・、私はみんなに才能があるといわれてたんですけど
自分ではどうも実感湧かなくて・・・、でもまぁ狙ったところには撃てるようになりました。」
「へぇ~、すごいじゃない」
京子が感心した。
「弓矢・・・か、カッコいいな、なんか。」
世界が雫の隣で言った。
「え?うん、弓矢使ってみたいな・・・ん゛?」

世界の手が雫の太股の辺りを撫でている。

「(ピキッ・・・)」
「ふ~む、相変わらずいい手触・・・うがッ・・・・!」

雫がグーパンチで世界を殴っていた。

「もう、世界ったらまーた雫の体に触ったの?」
「~~~~~~~~~っ//////」
顔を真っ赤にしながら雫が世界を殴っている。
「ギブギブ~、悪かったって~~~~~~~っ!」
本当はもっと強いのだろうが世界が降参した。
「まったく・・・、人の尻触って何が面白いんだか・・・」
雫が飽きれて言った。

「ねぇ、なんで2種類あるの?」
京子が興味深そうに弓に触ろうとし・・・
「あ、触っても大丈夫な宝かしら?」
と、菜由多に訊いた。
「もちろんですよ、実際に使ってみてもいいです。」
「ありがとう、ふーん・・・、小さいのと大きいのがあるのね。」
「はい、小さいほうの弓は近距離に撃つ時に向いていると思います。距離はそんなに飛べないけど
スピードの方は抜群です。狙いを定めるときちょっと難しいんですけど。
大きいほうは主に弓道などで使われている形ですね、スピードは小さいのよりも早くないけれど
方向転換が上手くできます。そして遠距離の場合にかなり優れているかと。
空に撃てばものすごく遠くに行くと思いますよ。」

「「「へぇ~へぇ~」」」(○リビア?)
3人同時に関心している、そして・・・

「ねぇ、菜由多。あたし使ってみたい・・・」
「え?」
「いい??」
「・・・はいっvもちろん良いですよ。」
「ありがとう」

道場に向かい、菜由多が持っていた的を外や道場内に付けて、2種類の弓矢の違いを比べてみる。

「じゃあ、小さいのから・・・」
雫の頭からお腹のあたりまである弓を道場内の的に当ててみることにした。
ギシ・・・、構えて弓が鳴く。
矢をキッと狙いに向けた。

「ほわぁ・・・・」
菜由多が感心している。素人にしては上手いらしい。

パッと離す。ビュン・・・!一瞬の出来事だったので世界も京子も矢を見失った。
的にはもう矢が刺さっていた。中心辺りに。

「すごいです!雫さん!今日はじめてやったとは思えないくらい筋が良いですよ!いいなぁ、すごいなぁ・・・
弓道に挑戦してみてはどうですか?」
「本当!?・・・はは照れるなぁ、でも楽しいかもv」
「大きいほうはやっと雫が持てるくらいだなぁ。」
世界が繁々と弓矢を眺めながら言う。
そうして10分ほど弓矢を見学した雫たちであった。


「そーいえば、お父さんのお見舞い・・・いいの?」
ふと雫が菜由多に問う。
「あ・・・いえ、いいんです。父は・・・大丈夫です」
「そう?じゃあお夕飯にしましょー」
割り込んできた京子がお皿を両手いっぱいに、しかしながら器用に持ってきた。
「ひゅー、さすが元・ウェイトレスアイドル~」
世界が冷やかす。
「もう、馬鹿いってんじゃないの☆」
京子がテーブルに皿を乗せながら、
「雫、郵便受け見てきて。」
「ほーい」
雫は玄関へと歩いていった。

「ぬょ、菜由多宛て・・・誰か見張ってるのかな・・・・!!?」
数通の手紙を持ち、雫は不安げに言った。
「ほい。菜由多。あんた宛てだにょ」
「え?」
「なんで、此処に菜由多ちゃんが居るってわかったのかしら・・・」
京子が訝しげに言う。
「開けたら?」
世界が菜由多に言った。
「はい――・・・」

パラ、手紙を取り出し菜由多は手紙を目で読む。
「・・・っ!!?」
菜由多の顔が引き攣る。
「菜・・・由多?」
雫が心配して、声をかける。
ハッ。と我に返った菜由多の瞳から一粒涙が零れる。
「どっ・・・どうしたの!?」
京子が吃驚して聞く。
「・・・っ・・・父が――父の様態が急変したって・・・病院から・・・!!」
「えっ!!?」
「行きなさい!菜由多ちゃん!」
「はい・・・」
ボーっとして歩く事も間々ならないようだ。
しかし・・・
「 早く!!! 」
京子が一喝する。
「はっ・・・はい!!」
菜由多は上着を取り出すと、玄関を飛び出していった。

シーン、とした部屋に雫の「あ」という声が響く。
「あたしにも手紙だ・・・格闘競技会から?」
「どれどれ・・・」
世界が首を伸ばす。
しかし雫は宛先をちゃんと見たか見てないうちにバッ!と封筒を胸に押さえつけ隠す。
「誰からだよ。」
世界が言う。
「なななな・・・っなんでもない・・・っ!!」

パタパタと雫は走り去った。

「そんな事言われても・・・ね。」
京子が世界に目配せする。
「お前のあの態度見たらなぁ――」
世界も溜め息をついた。

世界は何度も雫の部屋に行こうとしていたが、あと一歩が出せず何度も立ち座りを繰り返した。

数分後、菜由多が帰ってきた。
「で!?お父さんは??」
京子がすぐさま駆け寄り訊いた。
「えぇ、大丈夫でした。ちょっとした・・・発・・・作でし・・・た」
菜由多が泣いていた。拭いても拭いても光る涙。
「あ・・・違っ・・・すいません・・・」
京子が頭を撫でた。
「不安でしょうね。不安よね。でも、頑張って。お父さんを支えられるのはあなただけよ。」
「はい・・・」

「・・・はぁ、どうして・・・っ急に―――」
雫はドアを背に怒りの声を上げる。
「 どうして今更あんたから手紙貰わなきゃいけないのよ!!? 」

あまりに大きな怒鳴り声だったので世界たちが階段を駆け上って来た。
「どーした?あんまでかい声出すなよ、家壊れるだろ?」
「そんなに古くありません・・・(--#」
京子が付け足した。

「っ・・・むかつく。」
「え?」
「一体誰からなの・・・見せなさいな」
京子が雫から手紙を取る。
「・・・・・・ごめん、雫。これは貴方に返すわ」
京子が声のトーンを低くして言った。雫に封筒を渡す。
「母さん・・・?」
世界が心配気な声で京子を覗き込む。
「雫・・・一人で平気?」
京子が訊いた。
「―――うん」
「そう。じゃあお休み――・・・」
「お、おい・・・母さん」
「アンタには関係ない筈の事。寝るわよ」
京子が世界の肩を掴む。
「ゃ。俺まだ風呂入ってねーし」
その手を世界が拒む。
無論、理由は「風呂に入っていない」などではなく、手紙の送り主が気になるからだ。
世界は時として節介焼きになるのだ。

「知らない・・・こんなの――・・・!!」
愛憎渦巻く声で雫が呟いた。

送り主の名は――「月影 美咲」。

「どうして・・・あんたがまだ、「月影」って名乗ってんの?調子良すぎる――!!」

カチャ・・・。扉が開く。

「やっぱ世界か、おばさんに怒られるよ?」
「・・・・誰?」
「はっ・・・」
雫が笑う。
「あんたに関係ないじゃない?・・・もう放っといて!!」
「放っとけないから来てんだろ!!?悩んでんだったら俺に教えろ!!」
「なんでよ!あたしの勝手じゃない!!」
「・・・・っ、でも・・・!!」

「世界く~ぅん、どうしたの?そんな大声出して。」
菜由多だ。
「木久佐・・・悪いけど今はずしてくれる?」
「え~?やぁよ。雫さんと世界君の話が終わるまで此処で待つわ」
「・・・っ!木久佐!!」

「いい加減にしてよ」

誰よりも小さな声で・・・それでいて誰よりも響く声で雫が口早に言った。

「あたしは一人にしてほしいの!!二人ともこの部屋から出てってよ!!」
世界をぐっと押しながら扉をバタンと閉めて鍵をかけた。

「雫!!」
扉越しに世界の声が聞こえる。
「うるさい!一人にしてよ!お風呂入ってさっさと寝ろ!!」
「・・・あーそうかよ。判ったよ。その代わりあとで泣き喚くなよ」
「誰が!」
「誰にも助け求めんなよ!お前は居候だ!!」
「・・・!!・・・ぅッ・・・・誰があんたなんかに頼むもんですか!いいわ!あたし、明日になったら出てくわよ!!」

雫はドアを思い切り蹴飛ばし、部屋のおくに座った。

「あ・・・!」
勢いで言ってしまった後に世界は後悔する。
そう、雫に「お前は居候だ」なんて禁句なのだ。
世界は頭を抱えて階段を降りる。
「世界君v待ってー!」
嬉しそうな菜由多の声は雫の胸に刺を増やした。

「チイ・・・あたし・・・生まれてこない方が良かったのかな」
目が虚ろ。あの明るい光は目にはもう存在しない。何処を見ているかも判らない。
「くぅん??」
チイに言葉は判らない。ただ、世界と喧嘩した事、雫が明らかに落胆していることは判るようだ。

「はぁ・・・美咲―――あなたは「石川」の筈なのに・・・雫を苦しめてる。「月影」なんて名乗っちゃ駄目よ」
京子が独り言を言いながらため息をつく。
「雫のオフクロか・・・」
「!? 世界!!」
はぁ。ため息を付きながら世界がリビングに入ってきた。
「寝てなかったのね・・・」
「ったりめーだ」
むすっとして世界が答えた。髪はまだ濡れていて時折タオルで拭いている。
「・・・ほーんとっ、お節介焼きはあの人そっくり・・・」
微笑みながら京子が言った。
「え・・・親父?」
「・・・・・」
哀しそうな瞳で口元だけ笑わせながら京子は黙っていた。
「雫のオフクロからの手紙だったんだろ?・・・差出人は「月影美咲」だろ?」
「えぇ・・・。あのね、世界。本当はね、あまり二人が望んだ離婚じゃなかったんだと思う。」
「は?」
「みっちゃん覚えてるでしょ?」
「美咲のおばさんだろ?覚えてるけど。」
「あと・・・憲くんね・・・」
「雫の親父?」
「うん、・・・憲くん死んで二人は離婚したの。・・・ちょっとうまくいえないんだけど――憲くんが死にそうな前から離婚しようって話は出てたんだけど・・・
みっちゃんが・・・・・・・・美咲が、ね――」
「嫌がってたの?」
「うん。相談されたわ。『確かに自分は、遊んでたように見えたかも知れない。けど本当は――』」
ガタッ。
「「!?」」
「あ、お邪魔しちゃいました?」
菜由多が部屋に入ってきた。
「お水・・・飲みに来たんです・・・」
「そう?水分補給は大事よ」

「・・・っ、ちッ。」
「世界・・・!?」
京子は世界には教えなくても良い事なので平然としていたが世界には邪魔が入ったことで続きが聞けなくて無念なのだ。
「やすみー・・・」
世界は欠伸をかましながら、部屋を出て行った。
「じゃ、おばさん。おやすみなさい。」
菜由多は笑顔で客室用の部屋に戻っていった。

「御免ね。世界――」
京子は何故か謝った。

『ねぇ・・・雫――やっぱり怒ってるかしら・・・』
『さぁな。お前こそ雫に変に思われたくないならこんな夜中に来ないで昼間ちゃんと来ればいいじゃないか・・・はぁ・・・っぅ』
『あ・・・あなた!そっ・・・そんな言い方・・・!わかったわ。本当のこと言うわ。あなたも雫も誤解してるようだから・・・!』
『・・・・っぅ・・・っ』
『私が今まで夜出かけていたのは・・・!』
『はぁあ・・・っ!!』
『あ・・・!あなた!?』

ピーピー

ナースコールが鳴り響く。私の頭の中で響く。痛い。頭が割れるくらいに絶望的に響く・・・

『や・・・!憲ーーーーーーーーーーっ!!!』

「はっ・・・!!!」
女性が夜中夢に魘され起きていた。
「はぁ・・・!は・・・あ・・・!夢・・・?・・・手紙・・・破られちゃったかな――・・・!」
女性はため息をついた。


ちゅんちゅん・・・
如何にも朝らしい朝がやって来た。

「ん・・・!」
桜風世界は目を覚ます。そして、昨日のことを思い出し、少女の部屋に走る。
「雫!!おい!!雫っ!!?」
ドンドンとドアを乱暴に叩く。
「・・・は、入るぞ――?」
恐る恐る入った先に人影はなかった。
「おい!!雫!?・・・雫ーーーーーーーーーっ!!!」

叫び声が木霊した。

「何!?」
京子が急いでやってきた。
「か・・・母さん・・・」
「どうしたの?真っ青じゃない!」
「俺の・・・所為だ――・・・」
「何が?」
「俺の・・・!」
「世界!!」
「あのぉぅ~私ぃ見てましたぁ~~v」
「な・・・菜由多ちゃん・・・!」
「世界さんはぁ雫さんが嫌いでぇ、雫さんも図々しく居候してるしぃ?世界さんはちゃんとぉ、雫さんにわからせてあげただけですぅv」
「なっ・・・!!?」
「ほ・・・本当なの世界・・・!」
「ざけんな!木久佐!てめー昨日から調子のってんじゃねーよ!!」
「世界!そんな言い方・・・!!」

「・・・ぁ・・・」

菜由多の目から涙がこぼれた。不思議と表情は普通で、目が少し驚いている。
本人の意思に背いて、涙が零れた。
「あ・・・やだ・・・私っ・・・サイ・・・ッ・・・テぇぇ・・・!!」
菜由多は部屋に走っていってしまった。
そのあと、菜由多の部屋にある大きな窓から出て行くような音が聞えた。
「菜・・・菜由多ちゃん!!」
京子がおろおろする。
これで桜風家に京子と世界だけになる。
莉里もおらず、雫も出て行き、菜由多も自分から逃げた。

どんっ・・・

世界は拳で力いっぱい壁を叩いた。
「何なんだよ・・・チクショー・・・!!」

京子は雫探しと菜由多探しどっちが優先か迷っていたが
「世界!雫探しなさい!!」
「え・・・!」
「母さんは菜由多探すから!!」
「・・・ぉ。おうっ!!」

「・・・出てきちゃったよ・・・」
雫はチイを抱きながら呟いた。
「キャワンッ!ワンッ♪」
チイは上機嫌だ。
「やだーこっちが悩んでる時にー」
くすっと雫が笑う。
と、その時・・・!
「あ・・・れ・・・」
目の前が反転する。そして、体にしみこむ冷たさ。どさっという音と共に伴った多少の痛み。

雫はその場に倒れていた。

あたりがざわつき始める。
「くーん!キャンッ!!キャワンッ!!」
チイが吼え捲くる。
「どうしたの!?」
女性の一人が声をあげた――・・・。

「・・・ぇ」
雫は意識が戻る。温かい布団。手首につけられた器具。着ていた服と違う服。
「あ!!」
がばっと目を覚ました雫。
「オンッ♪アンッ♪」
チイが嬉々として雫の鞄の中から鳴く。隠されているようだ。一体誰が――?
「ここ・・・病院だ・・・・!」
やっと自分の状況を理解する。自分は気を失って倒れたのだ。貧血だろう。寝不足の所為だ。
「ぃた・・・っ!」
まだ少し頭痛がするが、雫は鞄から服を取り出し着替えた。
「チイ。良い子で待ってるんだよ。」
雫は部屋を後にした。

「あ!看護婦さん!!」
「あら?」
「私、貧血でこの病院に運び込まれてきたみたいなんですけど!」
「あぁ、アノ子ね。もう大丈夫みたいね、服はこっちよ。いらっしゃい。」
「はい!」

「はい。確かにお返ししたわよ。安静にね。・・・保護者の方は?お父さんとか・・・」
「え・・・!私・・・」
「まさか・・・!」
「(ギクッ)・・・・」
「一人旅!?」
「(コケッ・・・)・・・あは。まぁそんなとこ・・・です。」
「そう。気をつけてね~。もうかえっていいわよ。」
「お騒がせしました。」
いつの間にか隣に医師がいて、手首の器具を外してくれていた。

「よし!チイ!一人旅の続きだ!!」
荷物をまとめて部屋から出ようとしたその時・・・
「お譲ちゃん。りんご買ってきてあげたわよ」
女性が入ってきた。
「あ・・・!あなたが助けてくれたんですか?」
「・・・っえ・・・、えぇ。そう。よかったわね。」
「ありがとうござ・・・っ!!」
雫は目を疑った。
目の前にいるのは・・・!!

ダッ・・・!
雫は走った。貧血の後にあれだが一応格闘家だ。
「待って!!」
女性はそれを追いかける。
「や!ついてこないで・・・っ!!」
町に出て、雫はまだ走っていた。女性は驚くべき事にまだ付いてきている。
「待ってったら・・・っ!!」
ぱしっ・・・!手首を掴まれた。
「お茶しましょうよ、会えたのも何かの縁だわ」
「・・・・ッ!!!・・・はい・・・」
雫はその女性の目を見れなかった。

「大丈夫だった?」
コーヒーを口にして女性が言った。
「・・・はい・・・」
雫は呟いた。
雫の前にはレモンティーが置かれているが一口も飲んでいない様子だった。
「・・・・っ///!!!」
雫は目のやり場に困った。
「・・・・・・!あの・・・し・・・」
「!!」
ぴくっ。雫が反応する。
「雫・・・ちゃん・・・」
次の瞬間雫は椅子を引っくり返して逃げていた。
走っても走っても息は切れない。後ろから女性は追っかけてきている。
「くるなっ!!」
雫は思いっきり空高く飛ぶと、屋根の上にのって、更に遠くに逃げようとしていた。
「・・・!!」
女性は走りながら一瞬迷ったが同じように飛んでやねの上から追う。
「!!?」
雫は驚愕した。
「何者なのよ!あなた・・・っ!!」
女性は黙っている。
「やっぱり・・・!!あんたなの――?」
雫はヒラりと地上に足を付けると、再び走り出す。町の皆が二人に注目していた。
「(教えてもない私の名前を知ってる・・・そして・・・格闘家なみの運動能力・・・短いくせ毛・・・!!)」

それって・・・それ・・・って・・・・!!!


ぱしっ!!
「あぁっ!!?」
雫はとうとう手首を掴まれてしまった。
「やだっ!離してよっ!やめてっ!!ばかっ!やめてーーーっ!!」
絶叫した声が町の目を引く。ざわつき始めた町の変化に世界は原因を探しに走った。
「や・・・っ!お願い!手を離して!!」
雫は泣いていた。無意識に。ボロボロとどまる事を知らない涙。手を離さなければ泣き止まない。
泣きながら叫んだ。いやだ、と。
「いやっ!!はなして!!あんたなんか、知らないったら!!」
雫はいやいやと体を振る。
女性は憂いに満ちた目で雫を掴む手を徐々に緩める。

「雫!?」
世界がやってきた。
その瞬間に女性は手首を離し、下を向いた。
「ごめんなさい・・・人違いだったみたいね。痛かったわよね・・・!」
「・・・っ!!」

「おい!雫っ!!」

「・・・!!?せ・・・世界・・・っ!」
今も直泣き続けている雫は世界を振り返る。
「・・・っ!世界・・・世界・・・っ!!」
うわ言のように呟く。やっと手の甲で涙を少量ふき取る。それでも涙は一層大粒になる。もっともっと限りなく、涙が枯れそうなほど雫は泣き出した。
「・・・!!あなたは・・・!」
世界が女性の方を向いた。
「!!・・・・・・っ!!せ・・・!!」
思わず言いそうになる言葉を自分で遮り、「ごめんなさい」と言って女性は去っていった。

青い空が綺麗に広がっていた。

「雫・・・さっきの人は・・・!」
「世界っ!!」
雫は途端に世界に寄りかかり、世界の服を掴んで泣いた。世界のシャツにどんどん涙が染み込む。
「・・・!!」
一瞬驚いていた世界も、さっきの女性を思い出してか理解したように雫の背中を軽く抱きしめた。
「・・・!!」
「雫・・・泣けるだけ泣け・・・!」
「うっ・・・うあーんっ・・・!!」
雫は気持ちを消し去るように泣き続けた。

「落ち着いた?」
「っ・・・っっ・・・うん」
まだ、すこしヒクヒクしゃくりあげているが、もう涙は出ないらしい。
「枯れちまったかな。」
ニシシと世界が笑う。
「うん――・・・!」
「雫・・・?」
「世界はわかったのね・・・!?」
「覚えてたから・・・!」
「そう・・・」
「雫?」
「っ・・・・!ぅ・・・っぃっ・・・~~~っ!!」
「ど・・・どうしたんだよ!!」
「いや・・・!」
「え?」
「いや・・・いやよ・・・ いやーーーっ!! 」
「お、おい!雫!?」
「や・・・っ!」
雫はまたもや気を失った。

「雫!!」
世界は雫を背負うと急いで走っていった。


「・・・・――・・・・」
「雫!目ぇ覚めたな!!」
「・・・あれ・・・どこ・・・ここ・・・」
「家だよ。あれからお前倒れてさ、びっくりさせんなよ・・・」
「そーゆーこと訊いてんじゃないの。何市の何丁目とかそーゆーこと訊いてんの!」
「は?何言ってんだよ、雫・・・」
「雫って誰よ」
「は?」
「誰って訊いてんの!大体あんたも誰よ・・・!」
「お、おい!!雫!?」
「・・・電話貸してよ!!」
「はぁ?誰に掛けんだよ・・・!」
「お父さん!」
「は?お前・・・気ィおかしくなったんだろ」
「何言ってるのよ!お父さんにお迎えに来てもらうのッ!誘拐されたみたいぃ~~っ><」
「ばか!違うだろ!?お前は此処の居候で――・・・・!」
「居候だぁ?そんな身分狭くなるようなことし・ま・せ・んっ!!」
「お、おい・・・雫本当にどうしちまったんだよ。お前――・・・・!」
「世界ー、さっきからうるさいわよ~菜由多ちゃん見つかったんだから謝ってきたら?」
「母さん!雫が変になったーー!」
「元々変でしょ?なんてね。意識戻ってよかったわね。雫・・・!」
「だからさー誰よ雫って。まさかあたしの名前~?」
「し・・・雫!?」
京子が驚いている。
「母さん・・・あのさ・・・!」
「何?」
「その・・・」
世界が雫に目をやる。雫は爪を弄っていた。
「此処じゃ駄目ならした行きましょうか。」
京子が言った。
「ごゆっくりね」
雫に言った。

「実は・・・今日さ―――・・・!」

「えっ・・・みっちゃん!?」
「多分・・・あのくせ雫そっくりだったし・・・声とか・・・!俺の記憶が変になってなければ多分・・・!」
「そんな・・・!」
「なんのショックか知らないけど、雫は多分・・・記憶を・・・なくしたんじゃ・・・!」
「そっ・・・そんなことって本当にあるわけ!?漫画じゃあるまいし!?」
「でも・・・!頭痛そうだったからな~・・・!」
「記憶喪失・・・?あの・・・雫が!?」

「くすっ・・・聞いちゃったーv」
こっそりと話を盗み聞きした少女は笑った。

こんこん。
「はい?」
「しーずくさんっv」
「誰?」
「やーだなぁ~もう菜由多じゃないですかぁv忘れるなんてひどいぞv親友なのに」
「やっぱりあたしは雫なのね・・・で、あんたと親友?」
「そうですよぉ」
「どー考えてもあんたみたいなやつあたしが好むはずないんだけど・・・!」
「(むかっ)・・・!そーですかぁ~?(ヒクッ^^#」
「まぁ・・・あたしもなんだかさっきから寂しいのよ。女の人とあの男見てると・・・!喪失感って言うか失くした感じ・・・何かを」
「(へーマジで記憶ないんだ~v)じゃー私協力しますっv」
「え・・・!でもね・・・なんだか思い出すと嫌な事がありそうで・・・!立ち向かっていく勇気がないような・・・変な感じ。でも
ありがとね」
笑顔。
「(っ・・・///!はっ、絆されちゃだめっ!!)」
「じゃー、まず私が知ってる事から教えますね。あの女の人は京子さん、男の子は世界くん。京子さんの息子です」
「ふむ・・・」
「で、・・・///ついでにいっちゃうとぉv世界君は私の彼氏なんです~///」
「うそ・・・」
何故か心が痛み、本能が拒否している。違う、と。
「嘘じゃないですvラブラブなんですよ~。きゃっv恥ずかしいv」
「・・・へ、へーそうなんだ」
「くすっ・・・!」
「そう・・・なんだ・・・」
「あはv私、やりたいことあるので部屋戻りまーすっ☆」
「うん、サンキュー・・・!」

『私と世界君はぁ付き合っちゃってるんですよぉv』

「なんでだろ・・・胸の奥が・・・変な感じだ・・・」
雫はベットに寝そべった。

「ね・・・ねぇ、世界・・・」
「何?」
「雫・・・記憶なくしたんじゃ格闘競技会にも・・・り・・・莉里ちゃんも助けられないんじゃ――・・・!」
世界がもっていたプラスチック製のマグカップを落とした。

「「ヤバイ・・・!!」」

======続き~============

うんが~っ。恋に勝て~メンドイです。。。(ぇ
雫記憶喪失になっちゃうなんて話がイッツザドリーム化してます・・・(汗
お母さん格闘技持ってんですね・・・!(げふげふ。
うー、自分でも今後の展開がわからない~、莉里が出てこない~(ぉぃ


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