江戸東京ぶらり旅

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一葉記念館<竜泉>

一葉記念館新装オープン


 「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お齒ぐろ溝に燈火うつる三階の騷ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行來にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前と名は佛くさけれど、さりとは陽氣の町と住みたる人の申き、三嶋神社の角をまがりてより是れぞと見ゆる大厦もなく、かたぶく軒端の十軒長屋二十軒長や、商ひはかつふつ利かぬ處とて半さしたる雨戸の外に、あやしき形(なり)に紙を切りなして、胡粉ぬりくり彩色のある田樂みるやう、裏にはりたる串のさまもをかし・・・」

 おなじみ,樋口一葉の「たけくらべ」の冒頭部分です。舞台は龍泉寺町界隈と遊郭のある新吉原,いずれは女郎となる美登利と僧侶となる信如の淡い恋愛。季節ごとの行事をおりまぜながらの見事な作品。

 東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅で降りましょう。南に10分程度歩くと 一葉記念館 がありあります。こまかな位置がわからなければ,下町のちょっと古いお店のお年寄りに聞けば,だいたいの人は知っていて教えてくれますよ。新五千円札の肖像に一葉が使われると決まってから,この記念館を訪れる人が一気に増加したのですが,やがて工事のために閉館。この度,建替え工事が終了し 平成18年11月1日(水)午後1時 から新記念館としてオープン。地上2階の建物だったのですが,新しい記念館は地上3階,地下1階。嬉しいですね。細かなことは一葉記念館のHPをご覧ください。

P8150014.JPG


 記念館のある場所(東京都台東区竜泉3丁目18番4号)は,「たけくらべ」の舞台ともなった地,文中の「大音寺前」が現在の竜泉,吉原大門近くには何代目かの見返り柳はあるものの,お齒ぐろ溝(遊女が逃げられないように,遊郭の周囲を堀で囲ったのですよ)などその面影は最早ありません。記念館の向かい側には,一葉記念公園があり,「一葉女子かけくらべ記念碑」には佐佐木信綱が「紫の古りし光にたくへつべし君こ々に住みてそめし筆のあや」「そのかみの美登利信如らもこの園に來あそぶらむか月しろき夜を」の二首を記しています。

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樋口一葉のこと


 24歳の若さで肺結核のため短い生涯を閉じた樋口一葉,本名は樋口奈津,自筆の作品中には「夏子」や「夏」というのも見あたりますが・・・。彼女の生い立ちの概略です。

樋口一葉1.JPG

=国際通りに面する鷲(おおとり)神社で=



明治5年3月25日(太陽暦5月2日)
 東京の中流家庭に生まれました。父親は南町奉行所配下の同心,警察官といったところか。

明治19年14歳
 小石川安藤坂にあった中嶋歌子の歌塾「 萩の舎 」(はぎのや)へ弟子入り。和歌・書道・古典を学びました。安藤坂の途中に今も解説板が建っています。南から春日駅方面へ登るなら,坂の途中,右手にあります。

明治22年17歳
 父親死去。

明治23年18歳
 中嶋歌仔の家に住み込みながら,母や妹とともに針仕事・洗張などの内職をして生活します。母と妹を住まわせた本郷菊坂にあったとされる井戸の写真がガイドブックによく登場します。東京大学赤門の西側です。

明治24年19歳
 東京朝日新聞記者であり作家の 半井桃水 (なからいとうすい)により小説の手ほどきを受けます。ペンネーム「一葉」が使われはじめたのはこのころから。一葉のおかげで逆に知られるようになった半井桃水の墓は 養昌寺 にあります。

養昌寺:半井桃水墓1.JPG


明治25年20歳
 雑誌『武蔵野』に小説「闇桜」が,雑誌『都の花』に「うもれ木」が連載されました。これが一葉の出世作。

明治26年21歳
 生活苦を何とかしようと下谷龍泉寺町368番地へ転居。荒物雑貨,おもちゃ,菓子などを扱うお店を始めました。

明治27年22歳
 商売が芳しくなく店を閉じて,本郷区丸山福山町4番地へ転居。

そして・・・
 同年12月に「大つごもり」を『文學界』に発表してから,「たけくらべ」が完結する明治29年1月までのたった14ヶ月間に一葉は大ブレイクしました。普通の作家なら10年はかかりそうな傑作を,この短い期間に一葉はすべて書き上げ,燃焼し尽くしたのですね。

樋口一葉2.JPG

=鷲(おおとり)神社は一葉の旧居からすぐ=


 大ブレイクは次の通りです。
明治27年12月「大つごもり」を『文學界』に発表
明治28年 1月「たけくらべ」を『文學界』に連載開始
      4月「軒もる月」を『毎日新聞』に発表
      5月「ゆく雪」を雑誌『太陽』に発表
      8月「うつせみ」を『読売新聞』に発表
      9月 随筆「雨の夜」「月の夜」を『読売新聞』に発表
        「にごりえ」を『文藝倶樂部』に発表
     10月 随筆「雁がね」「虫の音」を『読売新聞』に発表
     12月「十三夜」を『文藝倶樂部』(「閨秀小説」)に発表
明治29年 1月「この子」を雑誌『日本乃家庭』に発表
        「わかれ道」を雑誌『国民の友』に発表
        『文學界』に連載した「たけくらべ」完結

 一葉が学んだ中島歌仔主宰の「萩の舎跡」(文京区1-9-27)は,春日交差点から安藤坂を南へ下る途中左側,看板が建っています。また一葉の墓(杉並区1-8)は京王井の頭線の明大前駅下車,築地本願寺和田堀廟所にあって,墓石に刻まれた戒名は「智相院釈妙葉信女」。

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