Wild Bliss

「修羅の世界」


教えていただきました。

今月から、少しづつ、落ち着くという意見も、あるようですね。

私自身も、身体に、いろいろ変化が、起こったので、身体のメンテナンスに、専
念しました。

ようやく、昨日、歯の治療が、終わり、とりあえず、全ての身体の調子を、整え
ました。

歯医者さんから、

「トーマさん、あなたの歯と歯茎は、ボロボロですよ。どうして、こんなに、酷
いんですか? ここまで、酷いのは、初めて診ましたよ」

と最初に、言われました。

そこで、15年間、パワーリフティングという競技の選手だったので、歯を、食
いしばったせいだろうと、伝えると、

「やはり、そうでしたか。スポーツの選手を、長期間やっていたのですね。それ
で、納得が、いきました。それにしても、ずいぶん、歯を、食いしばって、がん
ばってきたのですね…」

と、しみじみと、言われました。

20歳から35歳まで、選手として、がんばっていましたが、こうやって、あら
ためて、言われると、

「自分は、本当に、がんばっていたんだな…」

と思いました。



歯医者で、思い出したのですが、以前にも、エッセイで、書きましたが、199
2年から1996年くらいまで、4年間、「腕相撲」の道場に、通ってたことが
、ありました。

2002年に、102歳で、お亡くなりに、なったのですが、山本先生という師
匠に、いろいろと、稽古を、つけてもらっていました。

その山本先生も、歯医者さんでも、あったのです。

1992年に、当時、腕相撲の名人がいるという噂を、聞いていたので、そこへ
、訪ねていきました。

現在は、その場所には、ありませんが、当時は、都内の田園調布の近くでした。

毎週土曜日の夜7時から、稽古だというので、その時間に行くと、たくさんの人
が、練習していました。空手や柔道のように、段位などもあり、皆、緑や茶色、
黒帯などを、締めてやっていました。

試しに、緑帯を、締めている高校生ぐらいの人と、対戦してみました。

まだ、黒帯(初段)もとっていなくて、4級ぐらいだと、言っていました。体も
痩せていて、腕も細かったのですが、当時、パワーリフティングで、鍛えていた
、私の怪力が、全く歯がたたないのです。びっくり仰天しました。

「餅は、餅屋に、まかせておけ」

とよく言いますが、やはり、その道の専門家というものは、凄いのだと、改めて
再認識させられました。

その後も、黒帯の有段者たちとも、やりましたが、もう、話になりませんでした
。まったく、別次元の強さを、思い知らされました。子供扱いに、されてしまっ
たのです。

あまりのショックに、私が、下をうつむいて座っていると、一人の小柄な老人が
、道場に、入ってきました。

道場生全員が、挨拶したのですが、明らかに、尊敬されている人物だということ
がわかりました。どうやら、道場主らしいのです。

しばらく見ていると、3段や4段クラスの人たちが、なんと、その老人に、稽古
をつけてもらっているではないですか。

さらに驚くことに、この老人が、簡単に、彼らに勝つのです。ビックリしてしま
いました。そのうち、私が、呼ばれました。そして、

「君は、初めて見る顔だね。ちょっと君の腕力を、みてみたいから、私とやって
みようか?」

と言ってきました。

身長、153センチぐらい、体重47キロぐらいでした。一方の私は、当時、身
長170センチ、体重97キロぐらいでした。私の方が、2倍ぐらいの体の大き
さでした。

「この爺さん、どうせ、何かインチキでも、しているんだろう。かわいそうだが
、ここは、勝たせてもらうぞ。腕の骨が、折れても知らないぞー!」

こう思いながら、腕を組んで、力を、入れたですが、ビクともしません。

そのうち、もの凄い圧力を感じて、簡単に、負けてしまいました。

それまでも、ショックを、受けていたのに、まさか、こんな老人に、完敗するな
んて思ってもいなかったので、しばらく、口がきけなくなり、呆然としていると


「君は、なかなか、みどころがあるな。私が、いろいろ教えてあげるから、来週
から、遊びにきなさい」

こう言われました。

これは、周りの弟子に、言わせると、

「弟子入りを、許可する」

という意味だそうで、その瞬間から、弟子入りが、決まりました。

私が、驚いて、

「どうして、そんなに強いのですか?」

と聞き返すと、ニコニコ笑って、

「私は、1900年生まれだから、今年で、92歳に、なるんだよ。92年も、
トレーニングしていれば、誰でも強くなるよ。ワッ、ハッハッ、ハッ、ハッハハ


と豪快に、笑いました。

これが、山本先生との出会いでした。

山本先生は、日本での腕相撲という競技を、最初に、はじめた方でした。

経歴を聞いて、さらに、驚きました。

空手の大山倍達、プロレスの力道山、アントニオ猪木など、ほとんどの日本の格
闘界や武道界の有名な方々は、この山本先生の弟子だったそうです。

また、合気道5段、講道館柔道4段など、武道の達人でもあるですが、歯医者で
もあり、歯科大学の教授でもあり、さまざまなトレーニング関係の本も、書いて
いる方でした。

日本のスポーツ科学の第一人者でも、あったのです。

発明家でもあり、歯の矯正器具など、私たちが、身のまわりで、目にするものも
、たくさん発明し、特許を、とっていました。

太平洋戦争の頃は、潜水艦や魚雷の設計も、やっていたそうです。

私が会った頃は、「天文学」、「生物学」、「物理学」、「仏教」の本も、執筆
中でした。

まさに、「天才」でした。



その道場には、約4年間、通いましたが、月謝が、なんと、千円でした。

昔ながらの稽古法で、新弟子は、雑巾がけ、皿洗いなどから始めるという方針で
した。礼儀作法にも、とても厳しく、私など、よく怒鳴られました。

稽古の合間に、よく先生が、話をしてくれました。たとえば、

「諸君、食事というものはな、どう食べればいいのか、自然が、教えてくれるん
じゃ。歯を、見てみなさい。穀物や野菜の為の歯が、28本あるじゃろう。肉の
為の歯は、4本じゃ。これはな、自然界が、人間の体にとって、一番いい、穀物
や野菜、そして、肉のバランスが、4対28、つまり、1対7だと、教えてくれ
ているんじゃ。この比率で、食事はしなさい」

とか、長い人生経験から、導き出した、深い知恵を授けてくれました。他にも、

「昔、怒りや嫉妬、悪口、陰口など、ネガティブな感情ばかりもっている人間を
、集めて、血液を採取し、その血液を、舐めてみたことがあるが、その人たちの
血液が、たいへん酸っぱかったのを、覚えているよ。あの酸っぱい味は、一生忘
れられないよ。その後、その人たちは、全員、白血病などの癌で、15年以内に
、死んだよ。ネガティブな感情というのは、体に、とっても、悪いもんだよ…」

などと、話してくれました。



先生は、若い頃、夜中、枕元に、「不動明王」と名乗る霊体が、現れたそうです


「あなたに、特別に、力を授けよう。あなたが、この力を正しいことに使えば、
その力は、永久に、なくならないだろう。しかし、もし、間違ったことに、使え
ば、たちどころに、その力は、なくなるだろう。ゆめゆめ、疑うことなかれ…」

こう言われたそうです。

それから、特別な力を、持つようになったと、言っていました。

ある時、天に向かって、

「本当に、不動明王なら、その証拠を、もう一度、見せてみろ!」

こう怒鳴ったら、いきなり、目の前の川原に、雷が落ちてきて、一つの石に、直
撃したそうです。

そして、その石を持ち上げて、見てみたら、その石の裏側に、彫刻刀で、彫った
ように、ご自分の名前が、書かれていたそうです。

「日本のスポーツ界の本当の開祖は、不動明王なんじゃよ…」

とも、言っていました。(笑)



一番、印象に、残っている話が、「修羅の世界」の話でした。

いわゆる、「六道輪廻」の話でした。

いろいろな解釈がありますが、簡単に、言うと、仏教の考え方の中に、世界を、
六段階で、捉える思想が、あるそうなのです。

下の段階から、下記の六つの世界に、階層分けされているという考え方です。

地獄道 罪を、償うための世界。

餓鬼道 飢えと渇きに、悩まされる鬼の世界。

畜生道 動物の世界。本能だけで生きているので、仏の世界は、理解できない。

修羅道 皆が、エゴ丸出しで、戦いと苦しみに、満ちた世界。

人間道 人間が、住む世界。苦しんだり、楽しんだりして、学ぶ世界。

天界道 天人という神様のような存在が、住む世界。

ほとんどの仏教学者たちは、私たちの世界を、この中の「人間道」、つまり、「
人間の世界」であると、考えるのだそうです。

しかし、山本先生の解釈は、ユニークでした。

この世界は、そもそも、「修羅道」、つまり、「修羅の世界」だと、考えること
を、私たちに、提案したのです。

自分も含めて、この世界の世界の住人は、そもそも、エゴ丸出しで、戦うという
性質をもった、「修羅」であるという認識で、考えてみなさいということです。

なぜなのか?

それは、この世界を、「人間の世界」と考えると、

「あの人に、裏切られた。あの人からも、こんな酷い言葉で、傷つけられた」

「また、酷い事件が、起こった。どうして、この社会は、こんな犯罪が、起こる
んだろう? 神も仏も、いないのか?」

「どうして、いつまでも、世界から、戦争が、なくならないんだろう? どうな
っているんだろう?」

というような「不平不満」や「疑問」などが、生まれやすくなるからなのだそう
です。

この世界を、「修羅の世界」と考えると、

「人に、裏切られて、当たり前だ。そもそも、この世界は、そういう世界だ。酷
い言葉で、傷つけられても、それも、当然だ。そういう人たちが、住んでいる世
界だ」

「酷い事件が、起こって、当たり前だ。この社会は、そういう犯罪が、起こる世
界だ。神や仏は、そもそも、この世界を、そういう学びの場として、創ってくだ
さったのだ」

「この世界は、戦争が、ある世界である。それによって、学ぶことも、多い世界
である」

というように、視点が、変わるのです。

つまり、ほとんどの仏教では、この世界を、下から、5番目の「人間の世界」だ
と捉え、なんとか、6番目の最高の「天人の世界」に、近づくように、努力しよ
うという、考え方みたいのですが、山本先生は、

「そういう世界観は、苦しみを、生みやすい。不平不満や疑問が、出てくるのは
、そういう世界観だからだ」

と言っていました。

この世界が、「人間の世界」だという世界観は、

「ハードルを、高く設定し、そのハードルを、どうすれば、飛び越えられるか?


という考え方を、生むのです。そして、ずっと、苦しむのです。

そうではなく、山本先生の提案は、この世界を、下から、4番目の「修羅の世界
」だと、一段落として、捉え、なんとか、5番目の「人間の世界」に、近づくよ
うに、努力しようという、世界観であり、考え方なのです。

「ハードルそのものを、低く設定する。ハードル自体が、地下に、埋まっていて
、何もしないで、地面に、立っているだけで、すでに、ハードルを、飛び越えた
ことに、してしまいましょう」

という世界観なのです。これは、目から鱗でした。



もっと、簡単に、言いましょう。

この世界を、「人間の世界」だと、考えると、ちょっと、裏切られたり、傷つけ
れたりすると、ガッカリして、怒りがわいてきて、その相手が、酷い「悪魔」に
、見えてきます。

また、犯罪や戦争について、考えると、この世の中が、とても、「残酷な世界」
に、見えてくるのです。

ところが、この世界を、もともと、「修羅の世界」だと、考えると、裏切られた
り、傷つけられても、その相手は、普通の「人間」に、見えてくるのです。

犯罪や戦争について、考えても、それが、「日常の世界」に、見えてきます。

その結果、さらに、どうなるか?

「修羅の世界」だという認識で、この世界を、捉えると、裏切らない人や傷つけ
てこない人が、「天人」つまり、「天使」や「神様」に、見えてきたりするので
す。

それまで、「普通の人」だった人たちが、一気に、レベルアップして、見えてく
るのです。

「普通の地域」や「普通の国」だった、自分の「近所」や「国」も、一気に、レ
ベルアップして、「天国」に、見えてきたりもするのです。

読者の皆さんも、ためしに、ちょとだけ、認識を、変えてみてください。いつも
と違って、世の中が、見えてくるかもしれませんよ。

この「修羅の世界」という世界観がいいのは、なんでもない日常に、「感謝」を
、感じやすくなるということです。

普通に生きているだけで、「感謝」の心が、わいてきて、幸せな気分に、なりや
くなるのです。



山本先生のこの世界観は、いろいろな人に、話してみたことが、ありますが、や
はり、ある程度の年齢を、重ねた人たちは、わかるみたいです。

ただ、若い人は、いまひとつ、ピンとこない人も、多いみたいですね。

山本先生は、1900年~2002年という激動の時代を、生き抜いてきた人物
でした。だから、こういう世界観を、もっていたのかもしれません。この時代に
は、こういう世界観が、必要だったのでしょう。また、

「この世界自体を、もともと、酷い世界である修羅の世界だと、認識する」

これは、真理でもないし、万能の考え方でも、ないかもしれません。

でも、現在でも、私たちが、人生に、行き詰ったり、苦しくなった時に、ちょっ
と、使ってみる価値のある「人生の裏技」に、なるかもしれませんよ。



山本先生が、生前、こう言っていました。

「この世界は、修羅の世界じゃ。私たちは、こういう厳しい世界に、修行に来る
ことができるほど、強くて、素晴らしい存在なんじゃ。私は、朝、起きるとき、
よし! 今日も、修羅の世界で、戦うぞ! なにくそ、負けるか! と気合を入
れて、起きるんじゃ。諸君も、ぜひ、負けないで、がんばってください!」

「修羅の世界」という「人生の裏技」、ぜひ、試してみてくださいね。

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