新宿、歌舞伎町に思うこと




「新宿、歌舞伎町に思うこと」


夜、歌舞伎町や池袋などの繁華街を歩いていると、不意に何かざわついたきもちになり、落ち着かなくなる。
恐いとも淋しいとも言い切れない何か。


さかんにしゃべっている三人組の女の子。手をつなぐカップル。うつむき加減に足早に通り過ぎるサラリーマン。
目の前の一つの空間に散在する一人一人が、何を考えどこにむかっているんだろうというつきない考えが内心を襲う。
みんな何が楽しくて、何が悲しくてそんな顔をして歩いているの。 


何を食べても何をしても、人間て骨と皮でできた個体なのだ。
名古屋で起きた爆発みたいに、小さなうらみつらみにかられた凶器にいとも容易く貫かれてしまうはかないものなのだ。あのニュースを見て感じたのは、人間てすごく簡単に死んでしまうんだということだった。 

 先程食べた豪華な料理も喉を焦がしたお酒も、私という個体を循環しいずれ淘汰されるにすぎない。衣服も鞄も、一旦手放してしまえば全く鼓動をなさない無機物である。 そして、そんなこんなに単純でこんなに悲しい人間という個体があまりに無防備に、定型をなさない感じに夕闇に在ることが、私を無性にざわつかせるのかもしれない。錯乱にも似た気持ちだ。静かな錯乱。早く抜け出したい。いつも目をつむるように駆け抜ける。  


 懸命に生きようと思う私は何に懸命に生きるんだろう。魂のためかもしれない、と脳天がつぶやく。人間という個体も、死の前には無力な心も、懸命の対象にできない。けれど魂に嘘はつけないし、魂と決別する事はどうしたってできないのだ。 そうだ、私はそれに気付いているから、懸命に生きるんだろう。私だけじゃない、どうせ死んでしまうのに適当に生きれないのは、魂がそうさせるんだろう。誰の為でもなく自分のために。




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