妖精のいたずら

妖精のいたずら

つれづれ草・・・第十一章・・・



(何年ぶりなんだろうこんな風に出かけるのは?)それにしても、嬉しそうにはしゃいでいる小夜子を見るのは悪くない。
俺もつられて楽しくなっているようだ。
ウィンドショッピング・クレープ屋・腕を組んで手を握ってまるで恋人の時のように街を歩き回っていく。
楽しい時間なんて誰でも一緒だと思うが時の経つのはとにかく早い。
ま、出かけるのが遅かったから当たり前だけどな・・・。
「ねえ、港の近くのあのレストランにいこっ!」突然彼女が言い出した。
「え?」「ほらあそこよ夜景が綺麗だってあなたが酔っ払って騒いでたでしょ?」
「ああ、でも今からだと予約なしじゃ無理だろう?」
「いいの。行ってみたいの!」
またまた、引っ張られるようにして連れて行かれてしまった。
タクシーを拾って着いてみたが案の定予約でいっぱいだった。
「ん もうーせっかく来て上げたのに何よあの態度!あたまくるなー」
「おいおい、そんな事いっても仕方ないだろ。向こうだって都合があるんだから・・・」
「あら?随分物分りが良くなっているのね、昔はあなたが怒っていたんじゃないかしら?」
「それを言うなよ。 ま、気分治しにぶらぶらするか?」
「そうね。 でも、その言葉も私が言ってたみたいね。」
「そうだったけ? いくらか俺も丸くなったってことか。」
「だいぶ丸くなってるわよ・・・あなた。」
「もう勘弁しろよ!  それより飲むか?」缶ビールを差し出しながら苦い過去の話にピリオッドを打った。
あてもなく歩きだす。
なぜか、会話が無いまま歩く二人。
さりげなく俺の腕に絡ませながら「昔とあまり変わってないわね ここも」
何かを思い出したような寂しげな言い方に俺は現実へと引き戻されてしまった。
別れた夫婦が恋人同士のように振舞っているとは誰もきずかないだろう。
事実、俺さえ錯覚していたのだから・・・。
昨日からの小夜子は、何かを断ち切ろうとしてあんな行動に出たんだろう。こんなに迷って・悩んでいる小夜子を見るのは初めてだ。
こんなとき、俺から切り出してはいけない。それが二人のルールだった。
ただ、暗い海を見ながら時間だけが過ぎていった。
ほんの数分・いや、俺にはもっと長かったような気がしていた。
「・・・わたしね・・・」  「外国に行くかもしれない・・・・」
「勿論、子供も連れて・・・」
海を見ながらようやくそれだけ言うと、大きくため息を吐き出した。
(やっと言えた)そんな顔をして空を見上げた。
その顔に涙が溜まってみえたのは錯覚だろうか。
「プロポーズされたんだ・・・一緒について来てくれって・・・全て知っているし、子供もちゃんと面倒見るって言われた・・・。その人ね、うちの会社の人・・。 近々アメリカに転勤になるの・・・。」
ゆっくりと俺に語り聞かせるように話している。
ただ、遠くを見ながら小夜子の話を聞いていた俺は顔を見る事も、どう答えればいいのかも(いや、本当はわかっていたはずだし、彼女もまっているはずだ。)判らないまま空き缶を握りつぶした。
重苦しい雰囲気のまま時間だけが過ぎていく。
「わたしね、あなたが再婚するまでしないでいようと決めていたんだけど・・・なんだかね・・・もう・・・疲れちゃった。」そう言いながら俺を見ている小夜子の視線が痛い。
たまらなく目をつぶったまま無言を通していた。
やがて、ため息と共に、「そうねあなたにはもう関係ない事だものね。」
「・・・ごめんなさいね・・・一日付き合わせてしまって・・・」
「今度の仕事、頑張ってね! 向こうから応援してるから・・・。」
「・・・・・・・じゃ・・・・さようなら・・・ありがとう・・・」
立ち上がり歩き出す靴音・・。 やがて駆け足になっていく・・・。
目をつむったまま遠くなる靴音を聞きながら(またあの時と同じじゃねえか。 どうして一言がいえないんだ俺は・・・)
どうにもならない自分の不甲斐なさを感じながら、消えてしまった小夜子の面影を追いかけている。







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