TRICK PARTY

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distance night 3



「そうでス。もうあまり時間もなくナンバー123118様は処分されマス」

「処分って?」

「簡単に言えば殺されるのでス」

「なんで?なんでよ!」

「詳しい事情は私も知りマセン。ですが、これはもう決まったことデスカラ」

「そんなの許せない!おかしいわよ!」

「私たちにはどうしようもないこトデス」

「許せない!」

あたしは気付くと再び人形の肩をわしづかみにしていた。さっきよりもずっと強く。

「あたしとナストを会わせて!絶対に処分なんかさせない!」

「無理デス」

「じゃあせめてあんたの世界へ連れてって!あなたがこっちに来たルートで!」

「できまセン」

「これを持ってあっちの世界に帰るんでしょ?あたしも一緒に連れってってよ!」

「だからそれハ……」

「あたしはナストに会いたいのっ!」

カシャン。

テープレコーダーの裏返るような音がした。そして、人形はまたしゃべりだした……

『よう!よく言ったな!』

さっきとは全く違う

『久しぶり!』

あの日の青年の声で

『愛美!』

そう、まごうことなきナストの声だ。


「ナスト?ナストよね?聞こえてる?今どこなの??処……」

『あ、愛美のことだから先に言っとくけど、コレ録音だから。間違っても人形に話したりすんなよ~』

あたしはあわてて口をつぐんだ。

言われる前に先に人形に話かける、いやそれどころか叫んでいたとは。か、顔が熱い……。

『この録音はある一定条件下で流れることになってる。たぶんお前は今こっちに来ることを望んだはずだ。違うか?』

あたしはうなずいた。

「そ……」

『よっしゃ、来い!』

このあたしの言葉をさえぎるようなしゃべり方どうにかならないかな……。てか来いって??

と、その時、何かが切れるような音がした。

同時に夜のあたしの部屋に光が発生した。

「うわっ!」

まぶしさに目を覆う。

『あ、目はふさいどけよ?くらんでしばらく見えなくなるぞ』

言うの遅いって!

すぐに光は弱くなり、何とか手をどけられるようになった。

「……?」

『えーっと……?ちゃんと出たか?光、出たよな?』

「出たけど……」

あたしは前の物を見ながらつぶやいた。

「……なにこれ?」

『でてきたらそれがこっちに続く扉だ。飛び込んで来い!』

たしかにそれは扉のように見えなくもなかった。光っている四角い板のようなものが前にそそり立っていたからだ。

「ちょっと待ってよ!まだ決心が……」

と、空気を読んだかのように人形は沈黙を守っている。

待った待った。ちょっと話が早すぎやしませんか?そりゃあたしはそっちに行きたいって言ったけどさ、いざ行くとなると決心つけなきゃいけないし。それ以前にこれがほんとにそっちに行くための扉っていう保障がないわけだし……。ん?そうするとこれがほんとにナストからのメッセージだっていう保障もないわけよね?うーん、ややこしい……

「ううん、違う!」

そうよ、違うわよ。こんな動く人形なんてナスト以外の誰が送ってくるっていうのよ。てことはきっとこれもナストの世界に繋がっているに違いない。

第一あたしはさっき必死になって人形に迫っていたじゃないか。そっちの世界に行けるならなんでもすると言わんばかりに。

何のため?自分に聞くだけ無駄だってヤツよ。

「行くわよ。行きますとも。待ってなさい!ナスト!」

と、今まで口をつぐんで(?)いた人形がしゃべった。

『そうだそうだ!何か言い忘れたと思ってた!お前今パジャマだろ?防寒対策しとかないと死ぬぞ~だ。あー思い出せた~。スッキリした~!』

……空気が読めてるんだろうか?この人形は。

いや、違う。「中のナストは」だ。


しかし、明らかに空気の読めないこの言葉も、後になれば聞いておいてよかったと安堵するものだ。

それをあたしはすぐに体感することになる。


あたしはパジャマをベッドに投げ捨てると、普段の格好にオーバーコートを着て、さらにマフラーに手袋、毛糸の帽子を身につけて再び扉の前に立った。

「暑っ……!」

ま、当たり前か。

忘れ物はないかと部屋をぐるりと見回す。

「あ、忘れてた!」

一番大事なものを忘れていた。人形の横に転がってるそれを拾って、あたしは再び(パート2)扉の前に立つ。

「よし!完璧!」

完全寒冷対策用装備と、ナストの帽子&手袋を持って、あたしは深呼吸をした。

超がつくほど早い展開だけど、ナストが消されてしまうと聞いてしまったんだ。行かないわけには行かないよ。いや、むしろ助けに行けないといわれていたさっきからすれば、願ってもない展開だ。

……って、こんなことを考えてるあたしはまだ迷いがあるのかな?

「ああもう!女々しい!」

自分に言い聞かせるがごとく叫ぶと、あたしは光の中へ片足を踏み入れた。

と、同時に

「うわっ!!」

“引きずり込まれる”という言葉をこれほど体感したことはない。一瞬にして、あたしは扉の中の光に包まれていた。

洗濯機をいうよりは掃除機だ。それもすっごく強力な。きっと身長が2,3センチ伸びているに違いない。視界は安定しているものの、この奇妙な感覚が気持ち悪くてしょうがない。言葉が出ない。くらくらする。意識が他の所へ飛びそうだ。

もう限界……っ!

と、思いかけたときだ。

急に自分に重力がかかったのがわかった。

「うっ……」

腹部強打後、出た言葉はそれだけだった。

立ち上がろうとするも、足に力が入らない。

「冷たっ……」

うつぶせになってる状態で下を見れば、そこには白い雪があった。

「冷たい冷たい!」

限界の力を込めて、とりあえず顔だけを上げる。顔がしもやけになったらシャレになんない。

と、その視界に。

「……?」

足だけ映る、前に座っている人の姿。

見たことのある黒いブーツ……

数ヶ月に見た黒ブーツ……

あたしは限界の限界の力でさらに顔を上げていた。

「ナスト!?」

が、さっきも言ったばかりのこの言葉は、またもかなえられることがなかった。

壁のでっぱりに腰掛けて、あたしの前で座って本を読んでいる青年。

黒ブーツに、黒のカーディガン。

が、決定的にナストにはないはずのものをその人は持っていた。

あたしの手元にある、それ。

そう、その青年は黒い帽子と黒い手袋を身に着けていた。

とはいえ、誰かの手を借りないと起き上がることすらできない状況だ。目の前の青年の手を借りる以外に方法がない。

「あのー、すいませーん。助け……」

「おい、そこの娘」

青年は思いっきりあたしの言葉をさえぎり、それでいて本からは全く顔を上げずに言った。

あたしに言ってるのよね……?

周りにその「娘」らしき人がいないことを確認して、あたしは返事した。

「何?」

「クェス。『死人に口なし』。この言葉の論理的矛盾を説明せよ」

思考が停止した。

「……は?」

「聞こえなかったのか?」

「いや、聞こえたけど……」

「じゃあ、答えろ」

何なの?この人。目の前で人が動けないでいるってのにクイズごっこ?

「何よ、論理的矛盾って」

「それを聞いてんだ」

「知らないわよ、そんなの」

と、青年はさも呆れたようにため息をついた。

「これだから人間ってヤツは……。わからないとなると、すぐに考える事すらやめる。お前らの悪いところだ」

言い終わると同時に青年は本を閉じ、あたしの方へやって来る。そして、あたしの前でしゃがんだ。

そして、人さし指を立てて言った。

「アンス。死人にだって口は存在している。よってこの『口』という言葉を比喩的な『しゃべる機能』という観点ではなく、物理的な『食物摂取のための穴状器官』と定義すれば、死人にも口は存在することになる」

「なにそれ?そーゆーのって屁理屈って言わない?」

「わかりもしないし考えもしない奴に何を言われる筋合いもない」

なんなのよ、コイツ。何かかな~りムカつくんですけど。

そう思ったので、あたしは黙ってその男を睨んでいた。

「睨むな。これでも貴様にとっちゃあ重要人物なんだぞ、いろんな意味で」

あたしは黙り続ける。

男は再度ため息をついて、面倒くさそうにあたしに手を差し伸べた。

「……何?」

「何、じゃねえよ。立てねえんだろ?」

「まあね」

「そのままずっとへたばってるつもりか?」

そういうわけにもいかない。

が、この男に従うのは何かしら気に食わなかった。

「おい、さっさとつかまれって。ナンバー123118に会うんだろ?」

その名前を聞いたとき、あたしの体は自然と反応した。

ナンバー123118=つまりナスト。

「こんなとこで意地張ってる場合か」

あたしは素直に従った。と、ほぼ同タイミングで体が引き上げられる。

とりあえず座るとこまではなんとかなった。

ためしに足に力をいれてみる。

ひょい。

「あれ?」

意外と簡単に立てた。

「これだから人間ってヤツは……」

いちいち言わなきゃ気がすまないのかね?

「で、あんた誰よ?」

「初対面にしちゃあずいぶんな言葉じゃないか、いろんな意味で」

「そちらはどなた?」

ふんと鼻をならすと、面倒くさそうに、だが帽子をとって胸に片手を当てるという慇懃な態度で頭を下げた。

「この度あなた様をナンバー123118のもとへ案内するという役目を仰せつかった者です」

「ああ、そうなの?」

「以後よろしく。そして、ようこそ……」

男は手を広げて言った。

「……『銀世界』へ」



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