南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

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2006/05/28
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この作品のDVDは、前回の急なアンカラ行きで、私が唯一自分への手土産にしたものである。ごく最近ようやくDVD化されたばかりというのに、アンタルヤの小さなDVDショップでは簡単に見つからなかったからである。

2004年冬、新聞で紹介された この映画の存在が心に留まり、アンタルヤでの公開を楽しみにしていた私は、年が明けると毎週新聞の地中海版に載る映画館上映情報に眼を凝らしていた。
しかし、マイナー作品のなかなかやってこないアンタルヤで公開されることはなく、いつかDVDせめてVCDになるのをひたすら心待ちにしていたのである。

アンカラから帰った翌日、早速夫と一緒に観てみることにした。
このような作品は、原則独りきりで鑑賞するのを旨としている私だが、夫が帰宅中ゆえ、「あなたは観ない方がいい」とも言えない。「黒海地方のルムをテーマとしているらしいよ」「暗いと思うけど」とあらかじめ夫に釘を刺しておいてからVCDをセットした。
およそ芸術作品とか映像美とかに関心のない夫。好きな映画はアクションものやマフィアもの。一番のお気に入りが『ババ(ゴッドファーザー)』という夫にとって、この手の小作品が気に入るとは間違っても思えなかった。

夫の反応ばかり始終気にかかり、映像に没頭できない私。
「暗い」「面白くない」「政治的な作品だよ、これは」そんな言葉が夫の口から漏れる度に、身がすくむ。さらに途中で知人から電話がかかってきたために、映画の後半をほとんど見逃してしまったのだった。
終わった後で夫に感想を訊くと、案の定、肯定的な言葉は聞けなかった。

「トルコは毎日暗くて、ギリシャに行くと青空だっていうのが、トルコの印象を悪くしている」
「なにか政治的な意図があるんじゃないか」

夫に遠慮しながらでは作品に没頭もできず、弱い印象しか残らなかった初めての鑑賞後、ほぼ3週間の間、再びこのディスクをセットすることはなかった。
ところが、ギリシャにお住まいのchottocafeさんのブログで、 「黒海地方に住むギリシャ人の末裔 (※ルムのことと思われる) 」に関する記事 を拝見したことで、俄然この作品をもう一度じっくり鑑賞してみる気になったのである。
すると、夫と一緒に、横で色々言われながら観たときとはまるきり異なり、2度目にして、私の心は激しく揺さぶられた。会話が少なく、シンボリックな表現を得意とする彼女の作品は、私に多くの意味を与え、何事かを感じる余地を与えるのである。
しかし、2度の鑑賞では、まだ不十分だった。ルム語、ギリシャ語が分からなければ、主人公アイシェの苦渋の理由すら掴めない。
私は英語の字幕を選択し、3度目の鑑賞を試みた。

****

イェシム・ウスタオール監督は、トルコ人青年のクルドの青年との交流や心の軌跡、自身のキムリック(アイデンティティ)を探し求める内面的=外面的旅路を描いた前作 『太陽への旅路(GUNESE YOLCULUK)』 (日本では『遥かなるクルディスタン』という題名で公開)
しかし、彼女は、なぜ繰り返しマイノリティに照明を当てようとするのだろうか?

ここからは、あくまで私の推論であるが、それは、彼女自身がトルコにおけるマイノリティに他ならないからではないだろうか?
トルコ国籍とトルコ人の名前を持っている彼女だが、容貌からスラブ系に見ることもできる。両親、祖父母の時代に、トルコへ移民(あるいは難民、亡命者)としてやってきたスラブ系家族の生まれなのではないだろうか?
あるいは鼻梁の張った高い鼻を持つ横顔から、ラズ人と見ることもできる。
メガホンを握る彼女の、常に寂しげで苦労の跡を滲ませるような、しかし断固とした表情を見るたびに、そう思えて仕方ないのだ。



●監督:イェシム・ウスタオール(Yesim Ustaoglu) YESIM USTAOGLU

1960年11月18日、カルス県サルカムシュ(sarkamis)市生まれ。
小中高校時代をトラブゾンで過ごし、同じくトランブゾンにあるカラデニズ工科大学建築学科を卒業。その後、イスタンブール・ユルドゥス工科大学修復学科で修士課程を修了。この間、通信社の特派員を務める。

最初に撮った短編作品『一瞬を捕まえる(Bir Ani Yakalamak)』によって、1984年にIFSAK短編映画コンテストで賞を獲得したウスタオールは、2本目の短編作品『マグナファンターニャ(Magnafantagna)』を携えて、オーバーハウゼン映画祭およびシカゴ映画祭に参加した。
『二重奏(Duet)』は1991年にユヌス・ナーディ短編映画コンテストにおいて1位を獲得。1992年には『ホテル(Otel)』という名の短編映画を脚本・監督した。『ホテル』は第14回地中海モンペリエ映画祭で大賞を受賞し、脚光を浴びた。

1994年に製作した初めての長編映画『軌跡(Iz)』は同年、第4回ケルン・トルコ映画祭で最優秀作品賞。翌95年に第14回国際イスタンブール映画祭で最優秀作品賞を受賞。
1999年には『太陽への旅路(Gunese Yolculuk)』で、第18回イスタンブール映画祭最優秀トルコ人監督賞と、第11回アンカラ映画祭最優秀監督賞および最優秀脚本家賞を受賞。



2003年製作の本作品『雲を待つとき(Bulutlari Beklerken)』は、黒海地方出身で1930年にギリシャへの移民を余儀なくされたルムの家庭に生まれたヨルゴ・アンドレアディス(Yorgo Andreadis)の著作『タママ(Tamama)』を題材に脚本を起こしたものである。
この脚本はサンダンス映画祭で最優秀脚本賞を受賞し、早々に放映権を獲得したNHKはじめ様々な団体の資金提供により製作が実現。
2004年、第23回イスタンブール映画祭で特別審査員賞を受賞した。



****

なおこの作品は、つい先日(5月14日)日本でも、NHKBS映画劇場サンダンス映画祭特集上映作品として、『雲が出るまで』というタイトルで放映されたという。
日本でご覧になられた方もいらっしゃるのではないだろうか。








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最終更新日  2006/05/29 06:25:34 AM
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