いくつになってもテレビっ子

いくつになってもテレビっ子

蛍火の杜へ


著者名:緑川ゆき
出版社:白泉社

感想:
 「あかく咲く声」からずっと、好きで読み続けているのですが、標題作「蛍火の杜へ」は、やられました。ララデラに載っていたのを立ち読みしたのですが、不覚にも店先で泣きそうになりぐっとこらえる羽目になりました。コミックス読んでいても、読むたびにクライマックスシーンでぐわっときてしまいます。この「ぐわっと」感は、桑田乃梨子「男の華園」のあとがきまんがのラストシーンにも匹敵します。
絵が取り立ててうまい訳じゃないし、ストーリーだってある意味月並み。恋愛漫画と言うほど恋愛色は濃くない。かといってファンタジーとも言い難い。主人公にすごく思い入れを感じることもないし、かわいいとも思えない。台詞回しも少々きてれつだ。こんな風に話はすすまんだろ、と思うことすらある。(お姫様の出てくる「緋色の椅子」なんか、華々しさが何一つないという、「カルバニア物語」以上に色気のない絵)
と、ここまでマイナスポイントを挙げてもなおも私が好きだ、と思えるのはひとえにこの人の描く作品群に共通する空気感。透明というか、重さがないというか、醒めているというか、よく分からないのだが主人公以外誰もいないのではと思わせるような作品中の空疎な感じ。まったく、密な感じがない。その虚無感がなんとも言えない哀切なものを強調してしまう。それゆえ、「蛍火の杜」はむちゃくちゃ寂しく、哀しいけど惹かれる空気があるのかな。
今後この人がどんな作品を書くのか分からないが、少なくとも今の空気感をもったままであれば私は読み続けると思うよ。作風が変わるのはままあることなので、ずっとなどと言うことはできないが。

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