中年よ、大志を抱け!

中年よ、大志を抱け!

将に将たる者


先日、ある会社の忘年会に呼ばれていきました。その会社は、輸入代行と品物の搬送を業務とする会社で、この不景気にもかかわらず、起業以来10年、ずっと業績を上げ続けていて、その忘年会も、今までの会社が狭くなったので、新しく広い場所に引越したお祝いをかねているというものでした。

その会社の社長は日系2世で、僕の先輩の友人。その関係から僕もブラジルに来てからというもの、何かと彼とお付き合いがあるわけで、今回の忘年会に限らず、娘さんの誕生日会とか、何やかやとプライベートな宴会に呼んでくださってるわけです。

で、その忘年会の時、社長の右腕だという人と初めて会ったわけです。

社長は、僕よりも一つ年下で、体型も顔つきも結構僕に似てるという感じなんですが、彼の右腕というその人は、日本語がぺらぺらの日系2世の46才。ダンディでカッコいいおじさんという感じでした。話を聞いて見るとその人は、日本語、ポルトガル語、スペイン語、英語がぺらぺらで、フランス語とドイツ語がまあまあ、というわけです。そして、今の仕事をする前は、自分で会社を持っていて、日本人が、ポルトガルの品物を個人輸入する場合の代行をしていたそうです。

彼が今の会社に来たのは今から8年くらい前。彼が来る前は、社長ともう一人の、たった二人の社員で、その頃は中国のおもちゃや服などを輸入している会社が主なお客さんだったので、もともとの品物が安いものですから、手数料も安く、そう儲けるという程ではなかったわけです。

ところが、彼が来てからというもの、その流暢な日本語(社長はほとんど日本語が話せません)と果敢な行動力によって、次々とブラジルの日系企業をお客さんにしていったわけです。たとえば、大きな日本製の製作機械を輸入するとなると、一台入れるだけでもものすごい手数料になるわけです。

こうして年々業績を上げつづけ、今では従業員30名以上、迅速さと確実さ、サービス内容の充実さでは、同業者に決して引けを取らないというまでになったわけでです。もちろん、その蔭には社長をはじめ社員達のすごい努力があるわけで、深夜であろうと、お客さんから連絡があった時にはさっと動くとか、必ず約束の時間を守るとか、当初はオプションとしてやっていた複雑な税金関係の計算を、今はサービスでやってあげ、しかもそのためのコンピュータのソフトを毎年新しくしているだとか、いくつも興味の尽きない話を聞かせてもらったわけです。

さて、そんな中、「今は、ブラジルでもいい収入を得るためには、パソコンが扱えるのはもちろん、母国語の他に、最低でもスペイン語と英語が必要で、その上に日本語、イタリア語、ドイツ語、フランス語が要求されていて、いろいろ勉強せんならん今の子供はなかなか大変だよなぁ」っていう話になり、社長が、自分はポルトガル語しか出来んもんなあ、と言った時でした。

その社長の右腕さんが、「そう、社長に今から英語を勉強して欲しいとは言わんけど、せめて今、片言で話せてる日本語を、きちんとしたものにして欲しいとは思ってるんですわ。・・・でも、何か国語もぺらぺらしゃべれるってことや、その分野での専門家であるって事が、必ずしも、成功する条件ってわけじゃないと思うんですよね。だって、上に立つ人は、外国語がぺらぺらの人や、その分野での専門家を雇ってうまく使えばいいんだから。早い話し、僕は彼よりは外国語が出来るし、輸入業の経験も長い。歳は上だしね。けれども、彼に出会い、雇ってもらったお蔭で、自分の会社の社長として仕事をしていた時よりも、自分の能力をフルに発揮出来てるし、その僕の仕事に対する彼の評価も、僕にとっては充分満足できるもので、いわば、彼は僕にエネルギーと、活動の場と、満足を与えてくれてるって訳なんです。いっしょに仕事していて楽しいしね。そして、そういう僕らを使って、彼は外国語は出来ないけれども、仕事で成功してるわけですもんね。」と言ったわけです。

すると社長が、「いや、僕もこの人や他の社員達のおかげでいい仕事させてもらってるんだ。本当に、みんなには感謝してるし、お客さんも頼りにしてくれるしね。いい人達が集まってくれて、本当に嬉しい。」と言うわけです。

僕は心の中で「『将に将たる者』って、この社長みたいな人のことなんだろうなぁ」と思ったわけです。彼らの、お互いに尊敬しあい、必要としあい、信頼しあっている雰囲気はなかなかいい感じでした。日本でもそうなのかもしれませんが、ブラジルでは雇用関係は結構ドライで、雇う方も雇われる方も、売る方も買うほうも、相手からどれだけたくさんのものをもらうかが勝負って言う感じなんですが、何を提供できるか、って言うことを基本にすると、案外いい仕事が出来るのかもしれないなと思いました。そして、人と人との関係ってのは面白いなって思ったわけです。


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