ちょっといい女

ちょっといい女

ちょっといい女のお話4



 何度目のメールだったろう。修からの、逢って話したい事があるというメールで、麗子は逢いに行った。

カラオケボックスで、麗子の膝に軽く触れながら、何か言いたげな修の様子に、気付きはしたが、麗子は、敢えて、気付かない素振りをした。

 昔の事に、拘っていたわけじゃなかった。お互いに、その頃は、まだ子供だったんだと思う。麗子が恐れていたのは、一歩踏み出す事によって、二人の関係が、壊れてしまうのではないかということだった。

(実りのない恋愛なんて、辛いだけ・・・。)



 麗子には、結婚後、駆け落ちしようとまで考えた男性がいた。彼は八歳も年下で、若さによる情熱と純粋さに、引き摺られていくような感覚で、麗子は、自分を抑制できなかった。

彼から結婚しようと言われた時には、子供と恋愛の板挟みで、即答できない自分が、もどかしかった。彼の誠意に応えられない自分が、悲しかった。女として生きるのか、母親として生きるのか、簡単に、二者択一できるものではなかった。ずるずると、悩むばかりの自分の人生に、彼を巻き込んではいけない。麗子は常に、彼から逃げ腰だった。

そんな麗子を諦めたのか、愛想を尽かしたのか、三年ほど経って、彼には、若い恋人ができた。麗子は、その時初めて、彼の存在の大きさを感じた。彼の幸せを、見守らなければならないと思いつつ、泣きながら、電話する自分がいた。

「ずっと一緒にいようって、言ったじゃない。」



その傷は癒える事なく、今日まで、麗子は、恋愛を避けてきた。新しい出会いがあっても、職場でも、誘われる事はあっても、二度と辛い思いをしたくなかった麗子は、切なくなるような恋に、飛び込む勇気をなくしていた。

(永遠に続く恋愛なんて、有り得ない・・・。)

 そうとは知らない修もまた、一歩踏み出す事を躊躇した。冷え切った夫婦とは言え、修もまた、守るべき家庭がある。そうなれば、二つの家庭を壊す事になってしまうだろう。

屈託なく、よく笑う姿に、高校生だった頃の麗子が、そのまま、其処にいるようで、その笑顔を消す事にはならないか、拒みはしないか、という一抹の不安も覚えながら、切り出せずにいた。

 その日、二人は何事もなく、その後もメールでのやり取りを続けていた。



そしてこの頃、夫が、ギャンブルで多額の借金を作っていたことを、麗子は知る由も無かった。


・・・二度目の窮地

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