ちょっといい女

ちょっといい女

ちょっといい女のお話5



それまでも、夫の忠男は、麗子が仕事に行っている間に、麗子の金を盗んだり、麗子から金を奪おうと、何度も責め、挙句に、暴力をふるう事も多かった。そして、忠男は、とうとう、借金までしてパチンコに入れ込み、返済もできず、もうこれ以上借金をする事ができなくなり、初めて麗子に告げたのだった。そして、舅と夫に頼まれ、麗子は、また新たに、三百万円を貸す事になったのだった。

「コイツ、全然、事の重大さがわかってない!離婚しろよ。」

と息子にまで言われた。

 実際、そうだった。麗子が、黙って貸してくれればいいと、夫の忠男は、こんな事態でも、まだ考えていたのだから。麗子は、真剣に離婚を考えなければならない時が来たと、思った。



麗子の状況を、修は、いたく心配し、メールなんかで、励ます事しかできない自分に、もどかしさを感じていた。そして、そんな気持ちの一方で、修は、麗子への思いを、伝えずにいられなかった。

そして修は、メールを打った。

「逢いたい。」



二人は、待ち合わせの後、修に促されるままホテルに入っていった。

 気持ちをごまかす為にしていた会話が途切れ、修の唇でふさがれた時、麗子は、あれから、一九歳だったあの日から、この日を、ずっと待ち望んでいたのかも知れないということに、ようやく気付いた。偶然の再会が、過去の関係に再点火し、思い出から大人の恋へと再燃させたその瞬間だった。修は雄々しくて、それでいて優しくて、麗子は、女であることの悦びを噛み締めていた。

それが、たとえ束の間の幸せであったとしても、その幸せに身を委ねたいと思うのが、麗子の偽らざる気持ちだった。修と二人、どんどん堕ちていく自分を、狂おしいほどの欲望を、いつしか、淫らに変わっていく自分さえも、止めることができなかった。

二人の間には、何の保証もないし、これから先の進展性も望めない。そんな関係がどのくらい続くのかなんて、わかるはずもなかったが、その時の麗子にとって、この恋がなければ、生きるのが辛かった。たとえ、それが、どんな結果になろうとも、今はただ、こうしていたいと。



数年前に、もう二度と恋焦がれる事もないと思っていた麗子だったが、修に彼の姿を探していたのかも知れない。麗子の身体に、鮮烈に、その刻印を残した彼の姿を。身体に残っている彼の記憶が、あまりにも切な過ぎて、火照った身体を抑える術を、他に知らなかったから。



そんな麗子の気持ちに徐々に変化が顕われた。修の独り善がりな言動に、麗子は嫌悪感を覚え始めた。麗子は、最初からこうなることを、或いは知っていたのかも知れない。

愛情だと錯覚していたのは、実は自己本位な欲望に突き動かされていただけと気がついた時、情熱だと思い込んでいたのは、自尊心ばかり強い、傲慢な独占欲だけだとわかった時、そして、包容力だと勘違いしていたのは、ルーズで無責任なだけだと感じた時、麗子は別れた。

麗子が求めていたのは、決して彼ではなかったと。あまりにも自然に、あまりにも冷静に、その時はやってきた。

二人が再会して、二年の月日が過ぎていた。


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