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8月31日。 この日になると、私は決まってあの部屋を思い出す。 駅から15分、坂道を登った先にある古いアパートの一室。 風通しのいい和室の窓際に、いつも君は座っていた。 風鈴が、ちりん、と鳴るたびに 君の笑い声もどこかで重なって聞こえるような気がして。 大学1年の夏。 同じサークルで出会った君とは、なぜか自然に打ち解けて 気がつけば、ほとんど毎日君の部屋に入り浸っていた。 特別な言葉はなかったけど、 あの時間が「特別」だったことは、きっとお互いわかっていたと思う。 でも、夏が終わる頃── 君は急に地元に戻ることを決めた。 「また来年、夏になったら帰ってくるよ」 そう言って、少し寂しそうに笑った。 それが、君の最後の言葉だった。 その後、私は毎年夏が来るたびに、君のことを思い出す。 あの部屋、あの風鈴、そして君の笑顔。 何気ない日常が、どうしてこんなにも大切に思えるのだろう。 何度も、君に会いたいと思った。 今日、久しぶりに君からの手紙が届いた。 「元気でやってる? 地元の風景、なかなかいいところだよ。」 「でも、やっぱり君の作る抹茶の味が恋しい。いつかまた、一緒に飲みたいな。」 手紙の最後には、君があの部屋の風鈴を見つけて、また一緒に鳴らしたいと言っていた。 ちりん── その音が、まるで「元気でね」と言ってくれているようで。 さよならは言わなかったけど。 きっと、またいつか。 風鈴が鳴る夏に、君に会える気がする。👉怖い話まとめサイト開設しました!
2025.08.31
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毎年8月の終わりが近づくと決まって心がざわつく。 蝉の鳴き声が少し遠くなって、夜風がどこか涼しくなる頃。 ふと、あの子のことを思い出してしまう。 高校2年の夏。 クラスで一番静かだった「君」とは、なぜか不思議と気が合って、毎日一緒に下校していた。 ある日、突然転校することになった「君」は、 「8月31日の夜、電話していい?」とだけ言って学校を去った。 そして迎えた、あの日の夜。 私はずっと電話の前で待っていたけど…… 結局、その電話が鳴ることはなかった。 ──翌日、君が交通事故で亡くなったと友達から聞かされた。 しばらく私は、電話のベル音を聞くたびに胸が締めつけられていた。 鳴らなかった電話。届かなかった言葉。 あの夜、何を話そうとしてたの? それから10年が過ぎた今年の夏。 実家の整理をしていた母が、昔の黒いコードレス電話を見つけてくれた。 なんとなく電源を入れてみた。 充電なんて切れてるはずなのに── 一瞬、画面が光って、留守番メッセージのアイコンが点滅した。 再生ボタンを押すと、 「……もしもし、○○ちゃん? 〇〇だよ。 今、電車の中。ちゃんと、8月31日、電話できたよ。 ちゃんと伝えたくて…ありがとう。 一緒にいた時間……ほんとに楽しかった。 いつかまた会えたらいいな──」 ノイズ混じりの懐かしい声だった。 録音された日付を見ると、 2013年8月31日 23:58 あの日、君はちゃんと電話してくれてたんだ。 なのに私は、受話器を握る手が震えて何も言えなかった。 涙で顔がぐちゃぐちゃになった。 ずっと探していた「さよなら」が、ようやく届いた気がした。 ──夏の終わりに、10年前の声が、私を救ってくれた。👉怖い話まとめサイト開設しました!
2025.08.31
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