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毎年8月の終わりが近づくと決まって心がざわつく。
蝉の鳴き声が少し遠くなって、夜風がどこか涼しくなる頃。
ふと、あの子のことを思い出してしまう。
高校2年の夏。
クラスで一番静かだった「君」とは、なぜか不思議と気が合って、毎日一緒に下校していた。
ある日、突然転校することになった「君」は、
「8月31日の夜、電話していい?」とだけ言って学校を去った。
そして迎えた、あの日の夜。
私はずっと電話の前で待っていたけど……
結局、その電話が鳴ることはなかった。
──翌日、君が交通事故で亡くなったと友達から聞かされた。
しばらく私は、電話のベル音を聞くたびに胸が締めつけられていた。
鳴らなかった電話。届かなかった言葉。
あの夜、何を話そうとしてたの?
それから10年が過ぎた今年の夏。
実家の整理をしていた母が、昔の黒いコードレス電話を見つけてくれた。
なんとなく電源を入れてみた。
充電なんて切れてるはずなのに──
一瞬、画面が光って、留守番メッセージのアイコンが点滅した。
再生ボタンを押すと、
「……もしもし、○○ちゃん? 〇〇だよ。
今、電車の中。ちゃんと、8月31日、電話できたよ。
ちゃんと伝えたくて…ありがとう。
一緒にいた時間……ほんとに楽しかった。
いつかまた会えたらいいな──」
ノイズ混じりの懐かしい声だった。
録音された日付を見ると、
2013年8月31日 23:58
あの日、君はちゃんと電話してくれてたんだ。
なのに私は、受話器を握る手が震えて何も言えなかった。
涙で顔がぐちゃぐちゃになった。
ずっと探していた「さよなら」が、ようやく届いた気がした。
──夏の終わりに、10年前の声が、私を救ってくれた。
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