【毎日更新】怖い話・不思議な話まとめ帳

【毎日更新】怖い話・不思議な話まとめ帳

PR

プロフィール

夜語

夜語

カテゴリ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

2025.09.06
XML
カテゴリ: 不思議な話
俺が新宿の地下道で寝るようになって、もう五年になる。

冬は段ボールと毛布、夏は蚊に耐えるだけ。

施しの炊き出しは助かるが、いつも人が多くて、並んでも食えない日もある。



「もう俺たち、ここにいても先はないな」



そう思い始めたのは、一昨年の冬だった。

凍えながら眠っていた仲間のひとりが、朝には冷たくなっていた。

誰も泣きはしなかった。ただ、無言で警察を呼んだ。

“次は自分かもしれない”という思いが、骨の奥まで沁みた。



ある晩、缶酒を飲んでいたとき、偶然隣にいた老人が言った。





俺はその言葉を忘れられなかった。



都会じゃ俺たちは“居てはいけないもの”扱いだ。

警備員に追われ、行政に排除され、ただ転がっているだけの石ころだ。

けど山なら――俺たちの居場所が作れるかもしれない。



次の日から俺は仲間に声をかけた。


「一緒に来ないか? 山だ。屋根がある。畑もできる」


馬鹿にする奴もいた。


「そんなの無理だ、死ぬだけだ」って。


けど、目に光を宿す奴もいた。

酒に疲れた中年の哲夫、長年現場仕事で体を壊した三上、そして若い女の加奈。

最初は五人だった。





リュックには鍋、刃物、少しの食料。

バスを乗り継ぎ、最後は歩いた。

舗装の途切れた道を越えた先に、それはあった。



崩れかけた屋根の家々。

草に埋もれた石垣。



だが確かに、家は残っていた。


「ここが……俺たちの村だ」



最初の一週間は地獄だった。

水を引くのに苦労し、食料も底をつき、山菜や川魚でなんとかしのいだ。

夜は闇が濃く、都会の光に慣れた目には恐怖でしかなかった。



けど、不思議なもんだ。

朝日で目覚め、土を掘り、薪を割り、火を囲んで飯を食う。

そんな暮らしを続けるうちに、誰も「戻ろう」とは言わなくなった。



街では俺たちは“見えない存在”だった。

けどここでは、皆で作った畑から芽が出るたびに歓声があがる。

一匹の魚を分け合うだけで宴になる。

誰も俺たちを追い立てない。



時々、不安になる。

冬を越せるのか、病気になったらどうするのか。

けれど俺は思う。

「ここで死ぬなら、それでいい」と。



生まれて初めて、俺は“生きている”と思えた。

都会で凍え死ぬより、山で仲間と暮らし、土の上で果てるほうが、ずっとましだ。

👉​ 怖い話まとめサイト開設しました!





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2025.09.17 15:40:46
コメントを書く
[不思議な話] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: