デラシネの日録

デラシネの日録

ル・ジタンを観た


 一番、印象に残った場面は、ヤンという仲間のところに一晩かくまわれたジタンが、夜明け前に出ていくところである。ジタンが待っているエレベーターに、ヤンを逮捕しにきた刑事たちが、のっている。あわや、鉢合わせというときに、刑事たちは、緊張をほぐすために、軽口をたたいて、哄笑する。その声が、ジタンに聞こえる。とっさにジタンは柱のかげにかくれる。刑事の一人を人質にし、車を奪って、ジタンは逃げおおせる。刑事に向かって、銃口をつきつけるが、ジタンは撃たない。ジタンは刑務所で、自分を侮辱した看守を探し出して射殺している。が、刑事は撃たない。
 国家権力側の人間と何の背景もなく、身一つで自分自身をまもりぬかなければならないジタンの緊張感。自分のプライドを傷つけた人間に対する復讐。同じジプシーの子どもには「いつか学校に行ける日がくる」と、希望を語る。自分の人生にはなんの希望も光も救いもない。にもかかわらず、希望を口にする。
 哀切なジプシー音楽のボーカルも、いい。

 余談だが、ヤンという魅力的なボス風の男が、私のお茶の先生にそっくりで、かっこよかったー。


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