1985オメガのHP

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破裂 久坂部羊


久坂部 羊
幻冬舎 1800円 

僕が久坂部羊氏の文章を初めて読んだのは、とある雑誌のエッセーであった。はっきりいって表紙にも名前がないくらいの扱いではあったが、「日本人の死に時」というテーマのエッセーはなかなか強烈であった。ずばり、死にたくても死ねない老人の問題をとりあげていた。エッセーの最初のほうで、現在、在宅医療専門のクリニックに勤務し、寝たきり老人やがんの末期患者の診察(往診)をしている、と自己紹介してあり、彼の実際の仕事での体験からの文章である。彼に興味を持った。
そして、破裂という本を手にした。
帯には「医者は、三人殺して初めて、一人前になる」という挑発的な文章がいきなり飛び出す。「現役医師が、大学病院に蠢く医師たちと、患者を置き去りにした医療現場の恐るべき実態を克明に描いた、本年度最高のミステリー、書き下ろし1143枚」「これぞ平成版白い巨塔」などなどの推薦文。
で、一気に読み終えた。なるほど、前半部から非常に面白いテンポでストーリーが展開していった。
テーマはずばり、ふたつ
医療訴訟問題、そして、超高齢化社会を迎える日本と行政の対応
それ以外のおまけとして、大学病院の有り様などが描かれる。
彼が本当に書きたかったテーマは、ふたつめの、超高齢化社会への行政の対応であると私は思った。それはたまたま読んだ彼のエッセーとも非常に通じるところがある。
しかしながら、まずは苦言を呈するところからはじめよう。
人物の描き方は、初心者っぽい。
正直、何故この登場人物がこの行動をとるのか?そう思った登場人物がひとりやふたりではない。整合性がないとまではいかないが、モチベーションが見えてこないのだ。
そして、心の描写、たとえば男と女の微妙な動きに関しては、正直マイナス。
まあ辻仁成や江国香織と比較しても仕方ないのだが。。
あと、どの登場人物にも感情移入できなかった。それはわざとそうしているとも思える。
彼が見せたいのは、ストーリーの流れなのだろうから。
それはさておき、私はこの本は、オススメの一冊と思っているのでである。
医療訴訟のストーリー。
なかなか面白かった。とりあつかったテーマも、たしかに読んだこともドラマでみたこともない。最後にどんでんがえしもあった。楽しめることうけあい。
しかし、結末に関しては、(真実に関しては)まるみえすぎではあったが。それはたまたま僕がそういう現場をよく知っているからに過ぎない。
山崎豊子、白い巨塔は私も昔読んだ。特に医療訴訟に関しての部分は、まさに面白さでは匹敵するものがあるといっていいだろう。
そして、超高齢者社会を迎える日本への提言、彼の迷いが、登場人物をわざと暴走させてみるという試みに繋がっていると思う。そして、国民に、その問題を突きつけているのだ。
これからこの本を読もうと思ってもらおうとこの文章を書いているので、何を書いているのかわからんと思うかもしれないが、まずは読んでから、語り合おう。





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