Uncivilized Ground (未開の地)

Uncivilized Ground (未開の地)

第二部


あれから数十分。彼女は今だ制服で樹の下へやってきた。
「待たせちゃった?」
「いや…帰るって言ったから、まさか来るとは思ってなかった」
「私はちゃんと、今日時間ある?って聞いたはずだけど。あ、一度帰るとは言ってなかったかな?」
用があるのではなかったのか、と康宏は思った。
それが顔に書いてあったのか紘子は「用って、そんな大した事じゃないよ?」と付け加えた。
「じゃあ吉住クン、キミのおすすめの場所に連れてって欲しいの。
まだここに来て間もないからここら辺の事、よく知らないの」
「おすすめ?難しい事言うな…」
紘子は、どこでもいいから、と言うと
康宏の手を引っ張った。
柔らかい手のひらの感覚に戸惑いながらも、しっかり康宏は紘子に連行された。
康宏は時間があるだけ、紘子に自分の知っている場所に連れていった。
紘子は「クラスメイトとの話題には参加できそう」と喜んでいたので、彼の行動はムダに終わることはなさそうだ。

「そ。私の家、学校に近いの」
帰り際に康宏は「家は近いのか」と問う。その答えがこうだった。
「だから用を済ませても比較的早く戻れたのか」
康宏の納得したような表情と言葉に紘子は笑顔を浮かべて頷いた。
「そういうこと。あ、そろそろ帰宅時間だ」
紘子は時計を見て言った。
「今日は吉住クンに多大な感謝。付き合ってもらっちゃって、本当ありがとう。じゃあ、また明日学校で。というよりどちらかというと樹の下でかな?」
微笑みを崩さぬまま、紘子は去っていった。
康宏も帰るべく、愛用の自転車を走らせた。
その日を境に、二人は親密になっていった。
まるで、長年一緒にいる親友のように。
「ヤス!」
ヤスとは、康宏の愛称。
声の主は、同じ中学の親しい友達だった。
「大声出すなよ」
「へっへ~実はさ、お前の事で面白い話聞いてさ」
「聞き捨てならないな。なんだ?その話って言うのは?場合によっては…」
康宏はいつものごとく、首を締める真似をした。
「あ~、変なことじゃないって!ヤスがある女子と仲良くしてるのを見た奴がいて」
紘子の事だろう。康宏はそれ以外検討がつかなかった。
「しっかし、驚いたよ。あのヤスが、特定の女子と仲がいいとはな」
友人は康宏の顔を見てそう、呟いた。
「あのとき、以来か…あ、ゴメン」
心が少し揺れた。友は申し訳なさそうな顔をした。
「なぁ、ヤスさん?大きなお世話かもしれないが…」
「それ以上言うなよ?言いたいことはよく判るが…とにかく、彼女に対してそんな気はないよ」
康宏はキッパリと否定した。
…が、心の中は困惑していた。本当に、そうなのか?
「そろそろ行くよ。引き留めて悪かったな、ヤス。ま、ウワサにならん程度にしとけよ?じゃな。」
友人が去った後も、鐘が授業開始を知らせ、席に着いても、康宏の脳内は葛藤していた。
(俺は、一体…)
比較的よく悩む彼だが、こんな事を考え込むのは久しぶりだった。
いや、実際初めてに等しいかもしれない。
「吉住~?なにボーッとしてんだ?次、お前が答える番だぞ?」
教壇に立つ教師の言葉で、康宏の思考は一時止まることになった。



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