Uncivilized Ground (未開の地)

Uncivilized Ground (未開の地)

第六部


紘子は母から頼まれた買い物の帰り、康宏を見かけた。見知らぬ少女と楽しそうに話す康宏を。
康宏を疑うつもりは全くなかったのだが、不安だけは消えてくれなかったのだ。
そして康宏の過去を知った今、紘子は判ってしまった。
康宏の気持ちを…
「はぁ…はぁ…」
走ったため、息が荒い。
涙が意識に反して頬を伝い、地面に染みをつくる。
「私のバカぁ…なんで逃げちゃうのぉ…?」
好きなのに、こんなに好きなのに。
なんで自分はこんなにはやく諦めているのだろう…?
「康宏くん…」
紘子は好きな人の名前をため息、いや、涙混じりに呟く。
自分が大きな誤解をしていることにも気づかず…
「こんちは」
不意に背後からした声に、紘子は心臓が止まる思いをした。
「あなたは…」
声の主は、ニコッと唇を上げた。
「初めまして。篠原瀞です」
あまりに突然の事だった。まさか自分の目の前に、好きな人の初恋相手がいるなんて。
「ゴメン、びっくりさせちゃった、かな?」
瀞は少し苦笑いを浮かべてそう謝った。
「い、いえ…そんな、謝らなくても…少し人と接するのが苦手なので…」
「そっか。あなたのこと康宏から聞いてるよ。高場紘子さんだよね?」
「康宏くんから…?」
涙がまた溢れてきそうになった。
紘子は必死に泣くのを耐える。
「たぶんあなたも、私のことをあいつから聞いてると思うの」
「…はい、聞きました」
「やっぱ?あいつへンなこと言ってないよね?」
一向に話の本題が見えてこないのに不安を覚えながらも、紘子はできるだけの笑顔でこくん、と頷いた。
「ねぇ、紘子ちゃん。私あなたに一つ謝りたいことがあるんだ。」
「え?」
「紘子ちゃんに余計な心配させちゃったこと」
話が見えない。
何を言ってるのかさっぱりだった。
「確かに私は康宏のことが好きだった。でもそれは昔の話。
それに、あなたの存在を知っていながら私は康宏と会ってた。…ゴメンなさい、紘子ちゃん」
「そんな、そんなの篠原さんは全然悪くない!それに康宏くんはあなたを選んだんです。だから――――」
そう言いかけたとき、瀞はなぜかぷっ、と吹き出したのだ。
「な、なんで笑うんですか?!」
「あははは!ホントごめん!でも面白くって…だって紘子ちゃん、一つ大きな誤解をしてるんだもん。
ま、それは本人から聞くのがイチバンだよ?」
無責任に笑った瀞はそう言って、後ろを見た。
「康宏くん…?」
「紘子!って、なんで篠原までいるんだよ?」
「さぁね?さ、なにか言いたいコトあるんでしょ?」
瀞は微笑みながら言った。康宏は紘子に体を向ける。
「紘子…ひとつだけいいか?俺は…キミのことが好きなんだ。もしまだ俺を好きでいてくれるなら…」
「えっ?そんな、だって」
「ね?康宏はあなたが好きってこと。」
紘子はぽろぽろと涙を流すと康宏に抱きついた。
「康宏くん!ごめんなさい私…」
康宏はその小さな身体をぎゅ、と抱き締めた。
「あ~あ、ラヴラヴだね~全く、私の存在忘れてない?」
瀞は静かにそう言うと、ゆっくりと歩き出した。
「じゃーね、康宏、紘子ちゃん」


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