UNFINISHED

第5話 鈴の音



眼



喘息発作で入院すると拡張剤の点滴を入れる。そのせいか、どうしても寝付くことが出来ない。
今回の入院でも同じ状況である。心臓がドキドキして、眼を瞑るとまるで何者かがベッドを揺すっているような感じがしてならない。21時に消灯すると、起床の6時まではかなりの時間であり、眠れないととにかく辛い時間を過ごすことになる。

入院初日の真夜中2時半。寝付けずボーっとしていると、どこからか・・・
「チリン、チリン、チリン・・・」
と鈴の音が聞こえてきた。
(ん?誰か財布に鈴を付けているのかな?)
あまり気にもせず、眠れない夜を過ごした。

2日目の真夜中2時半。また鈴の音が聞こえてきた。
「チリン、チリン、チリン・・・」
昨晩聞いた鈴の音と全く同じ音。そして、時間も全く同じ。
そういえば昨日もそうだったが、足音はしない。
起き上がって廊下に出て音の正体を確かめようとも思ったが、恐怖で勇気がない・・・

3日目の真夜中2時半。またもや鈴の音が。
「チリン、チリン。」
(え?今夜は自分の病室の前でその音が止まった。)
恐怖で布団に潜り込むことしかできなかった。
どれだけの空白時間があったのだろうか?また鈴の音がし出し、やがて音が遠くなっていった。

朝、看護士に眠れないことを話し、主治医から強めの眠剤を処方してもらうことにした。

昼過ぎに顔見知りの日勤の看護士がやってきたので、不思議な音の話をした。
「実は夜な夜な不思議な物音がするんです。」
「えー!何?心霊現象とかじゃないですよね?」
「それが・・・心霊現象なんです。」
「チョットォ!やめてよ!そういう話は聞きたくないよぉ!」
「でも・・・実はさ、夜中の2時半になると決まって鈴の音が聞こえるんですよ。」
「はぁ?」
「はぁ?じゃないよ!」
「あはは・・・」
急に看護士が笑い出した。
「それはね、向かいの病室の人だよ。勝手に病棟を抜け出さないよう夜だけ足に鈴を付けてるのよ。丁度2時半頃にトイレに起きるみたいなの。」
「えっ?でも足音は聞こえないんだよ。」
「あの人、スリッパあるのに裸足で歩いちゃうんだよね。」

恐怖に怯えた3日間はなんだったのだろうか?
今夜から、真夜中はヘッドフォンをして、バン・ヘイレンやゲーリー・ムーアなどのヘビメタをボリューム上げて聴くことにした。

日勤だった看護士が夜勤も担当し、起床の検温に回ってきた。そして言われた。
「Sallyさん、熟睡してたよ(笑)。ヘッドフォンはズレ落ちてるし、音楽ガンガンかかってたから、電源切っちゃったよ。」
どうやら眠剤が効き過ぎて熟睡してしまったようだ(凹











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