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うりぼうず
歴史系
近代日本史を見ていると、弱肉強食の帝国主義の時代にあって、「欧米列強と、張り合わなければ生き残れなかった」ということが、前提になってモノが語られるケースが多い。日本の歩んだ道は必然的なものだったと。
歴史でイフを語ることは、一種のタブーかもしれないが、この本では、そうでない道を模索する考えも日本にあったことを教えてくれる。確かに、岩倉使節団が欧米を訪問した時代も、欧州にもさまざまな小国があった。スウェーデンのように、かつては北欧の大国として君臨しながら、その時代には、小国として生きていた国もあった。在野の思想家の中にも、大国的発想に異を唱えたものも結構いたことに気づかされた。
そういえば、陸軍の編成にしても、(以下、記憶があやふやなので、間違いが多いと思いますが)川上操六らと谷干城らが対立した師団編成とすることで外征も可能にする一派と、鎮台を中心として、防御的な編成を目指す一派との対立があった。結果として外征的な軍隊となって行ったわけだが。
石橋湛山の植民地放棄論も、冷静に考えれば、経済的に合理的なものであったわけだが、当時は現実的でないとして葬り去られている。しかし、戦後の路線は、その主張をかなりの部分なぞったものになっているのだから(その方向転換は、本当にあれだけの犠牲を払わなければなしえなかったものか)。
●「雑学 大江戸庶民事情」(石川英輔、講談社文庫)
NHKのお江戸でござるの後番組道中でござるのコメンテーター?をやっている著者。江戸時代のリサイクル問題なども良く書いていたが。江戸時代のイメージは、やはり時代劇に毒されすぎているのかな。また、司馬遼太郎が、明治や維新の志士を持ち上げすぎたのも害毒という気がする。
この本は、ちょっと江戸を持ち上げすぎのような気もするが、バランスをとるためには、このくらい持ち上げてもいいのでは。
この本でも、江戸の庶民の家族について、細かく書かれているが、当時の庶民は、多くが核家族だった。ここ何十年も、なにか家族問題などについて書かれたもので、問題があると「核家族化が進み」という表現があるが、それは多くは根拠のないものでは。
日本の家族は、必ずしも伝統的に大家族ではなかったはず。そうでなかったからこそ、あの白川郷の合掌造り住宅が、特異なものとして浮かび上がってくる。また、子どもの数が多かった時代は、長男夫婦のところを除けば、核家族しか成立しえなかったはず(だって、親は基本的に一組しかいないんだから)。
まあ、本の内容からは離れてしまったが、少しヒマな時間があれば、さっと読めてしま。学校でも、こういった分野の歴史を学べれば面白いんだけどな。
ただ、苦言を言えば、章ごとにダブリが多すぎる。それぞれ初出が違うのだろうが、編集段階でなんとかしなさい。
●武田信玄(笹本正治、中公新書)
もう、二十年前ぐらいか。歴史教育の改革として、人物を軸に歴史を教えることの是非が問われたことがあった。
武田信玄の事跡といわれていること(信玄堤、棒道、金山開発など)が、いかにあやふやな根拠に基づくものか。人物を軸にすると、どうしても、その人物を賞賛するような調子で展開されてしまうことが多い。当時の戦が、実は奴隷狩りの側面を持っていたことなど、タイトルは「雑兵たちの戦国時代」だったか?)に詳しく書かれていたが、歴史の教え方は、実に難しい。少なくとも、NHKの大河ドラマで歴史を学べると考えると、落とし穴に墜ちる。子どもに見せたくないワースト番組とはいかないが、あくまで娯楽としてみなければいけませんね。
●開かれた鎖国(片桐一男、講談社現代新書)
本筋とは関係ないが、寛政年間にオランダ船が難破したときに、引き上げにあたった村井喜右衛門さん。要するに、巨大な網元で、今で言えば大洋漁業か。配下に舟147艘、網子9000人。とんでもない数だ。
引き上げに功があったとして、お上から彼に送られた褒章の肩書きに、百姓とある。
網野善彦氏が、ずっと言い続けていた「百姓イコール農民ではない」ということの証明の一つとも言うべきか。多分、彼の配下の網子も、百姓に分類されたのだろう。
関係ないが、伊能忠敬も、百姓だが、要するに北総一帯の流通を取り仕切っていた商社のような存在。たしかに、昔、歴史で習った「9割が農民」というのは、とんでもない間違いだったのだろう。
●「黄門さまと犬公方」(山室恭子、文芸春秋)
抱腹絶倒とは違うが、山室恭子の本は、エキサイティングである(黄金太閤も同じ)。なぜ、水戸黄門はヒーローになり、徳川綱吉はコケにされる存在になったか。黄門本人、あるいはその周辺によって作り上げられた虚像の陰に、どんなドラマが隠されていたのか、多分、ものすごい量の史料と格闘して、これらの推理が生まれてきたのだろう。もちろん、豊かな想像力がないと、同じ史料と格闘しても、こういった結論は導き出されないのだろうが。また、現代の視点からでは、導き出せない、綱吉の国民教化政策の意図、上からの教化といっても、温和な日本人と過激な日本人のうち、温和な日本人を作り上げる上で、大きな功績があったのかもしれない。
それにしても、若いころの光圀が、一種の仲間内の肝試し的な感覚で「非人を切り捨てていた」と思われる一節には、まさに戦国とは、どんな時代だったか、それを綱吉がどう憂慮したのか、普通の歴史では学べないものだった。
●「絵画史料で歴史を読む」(黒田日出男、筑摩書房)
文字以上に豊かに時代を伝えてくれる絵画史料の面白さを語ってくれている。まず、我々の世代では、常識とされている神護寺が所蔵する源頼朝や平重盛の肖像が実は他人のものであったという説は、以前にも新聞で読んだことはあるが、それを再確認させられた。このほかにも、足利尊氏が、ザンバラ髪で馬に乗っている肖像も、他人であるとの説が強いなど、歴史は大きく変わっている。一度、学校で歴史を学んだものに、これらの事実が伝えられる機会は、この手の本を読むしかないのか。多分、ほとんどの人は、まだ神護寺の肖像が頼朝だと思っているんだろうな。
昨年だったか、ベルリンから日本に里帰りしていた(江戸博で展示されていた)、江戸時代の日本橋付近の賑わいを描いた(名前は忘れた)ものも、当時の雰囲気を知る上で、これ以上のものはないと思われる見事なものだった。
●「黒船異変~ペリーの挑戦」(加藤祐三、岩波新書)
黒船が来航してからの、幕府の対米交渉は、「決断が遅く、無能、無責任」といった評がつきまとっていたような気がするが、この本を読むと、与えられた条件の中で、当時の幕府首脳は、かなり健闘したというのが、事実に近いのだろう。徳川斉昭など、ガチガチの攘夷論者(斉昭も、必ずしも一面では現実を見ていたと思うが)などがかまびすしいなか、老中阿部正弘など、かなり的確な判断を下していたとおもう。また、庶民の好奇心の強さにも、驚くべきものがある。
阿部に限らず、応接掛となったその他の高官たちも、儒学などで鍛えた論理的な思考を駆使して、ペリーとも対等に渡り合ったというべきか。また、アメリカとのパーティーにおいては、それなりにユーモアのあるところも見せているのには、ほほえましさすら感じられた。この時代、対露交渉にあたった川路聖アキラ(変換できない)など、その後の明治の官僚などよりも、むしろ有能で清潔であるとの印象を受ける(吉村昭の落日の宴などの読後感)。
ところで、現代の経済感覚からいえば、対外輸出が増えることは、むしろ歓迎すべきこと(日本は別かもしれないが)。しかし、歴史の本などによると、開国により諸物価が高騰し混乱したとされるが、対外貿易がはじまってしばらくは、日本側の黒字が続いたはずであり、関税自主権がなかったとはいっても、メリットも多かったのではと思うが、どうなのだろう(その辺は、この本の範疇の外だが)。
●「信長と十字架~天下布武の真実を追う」(立花京子、集英社新書)
信長についての新見解を打ち出している立花氏。だけど、ちょっと強引では。確かに、南欧の勢力やその意を通じての大友宗麟による、信長への働きかけはあっただろうが。信長がそれに踊らされているだけという構図は。また、莫大な資金援助というが南欧勢力に、それだけの財政力があったか。当時日本は世界有数の産銀国だったはず(石見銀山など)。また、一般に南欧勢力の他国進出のやり方をみると、ゴア、マカオのように拠点を一箇所自分たちの武力で確保し、そこで貿易を展開する形をとっているのに、なぜここではそのような手段をとらなかったか(それだけ、当時の戦国大名が強力だったのか?)。最後に信長を見限ったのも、宗教的に相容れなくなったのもわかるが、でもそれだけでは証拠として薄弱な感が残る。さらにいえば、そこまで強力に日本に浸透していた南欧勢力が、なぜ秀吉の代になって弾圧されることになったのか(そのころ、無敵艦隊がイギリスに撃破されたからなのか)。
それでも、南欧勢力がこれまで考えられていたよりも、ずっと朝廷周辺などに浸透していたであろうことは、納得できるような気もしたが。
★「地形で読み解く合戦史」(谷口研語、PHP新書)
合戦の名前は、ほとんどが地名に由来している(例外は、保元、平治の乱などがあるが)。大部隊の衝突の場として選ばれた、原(関が原、三方が原など)、防衛線としての利用した川(宇治川の合戦、富士川の合戦、姉川の合戦など)、などこういった分類は今まであまりなく、面白いもの(多分、軍事史の分野ではよくやられているのかも知れないが)。四条畷の畷の意味も初めて知りました。ただ、合戦の分析そのものは、あまり新機軸がみられないのが残念。
●名君と賢臣ー江戸の政治改革ー(百瀬明治、講談社現代新書)
●縄文学への道(小山修三、NHKブックス)
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