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恐竜境に果てぬ第1章第2節その2
『恐竜境に果てぬ』第1章『先史時代』第2節・白亜紀の光景その2「女性メンバーの登場」(2015年9月7日開始)
田所に強く押される思いのまま、結局私は、懐かしくもさびしい一人っきりの自宅の二階の机に向かっていた。ただし、パソコンはつけっ放しで、画面に田所が映っている。
私にはもちろん、田所の明晰な頭脳もなく、口下手でもあるから、パソコン画面を通してでも、直接彼の言い分に押され、折れるのもわかっていた。
だが、今度ばかりは、たとえ田所が、先刻逃げるようにバイクで去った早苗にメンバーに加わるようにとの、説得が可能だとしても、私は彼女に好意的とかあるいは懐疑的とかいうのではなく、妙な言い方だが、彼女の今の生活を乱さないでいてやりたい気持ちがあった。
画面の向こうの田所は、黙ったままだが、私に気遣いしたり、たまには私の機嫌をとろうとしたりなどという性格ではない。ただ黙っているだけである。
そこで、私はどう切り出したものか、正直見当もつかないまま、ともかく、早苗を仲間に引き入れることにだけは、まず反対しておこうと口をひらきかけた。
その刹那、私は口があいたかどうかもわからないまま、言葉を発することが出来なくなっていた。田所がいきなり話しかけたからだ。
田所「村松、試運転の頃から数年しか経っていないのに、何んだかもう10年ほど過ごしたみたいだ。お前はどうだ ? 」
答えの用意を全くしていない、予想外の問いだった。田所が続けた。
田所「試運転で田舎警察のパトカーを翻弄した時は、お前のご両親ともある程度お元気で、俺たちが帰還する時は、出発時刻ピタリにしたものだった。もちろんあの時から何年か過ぎたから、いつまでも同じ時に帰還というわけには行かなくなった。それでも、数年前ぐらいまでへの帰還ならば、不自然さはほとんどない」
ここで田所の考えが読めたと思った。晩年の母との再会の提案ではないか。だが、問いに答える言葉がみつからなかった。言われずとも私は亡き母に会いたい。さすがの私もタイムトラベル理論を利用すれば、最晩年の一歩手前の、母にいつでも会えると、気づいていた。
ただし、『さすがの私も』と書いた通り、根本のところで呑み込みの悪い私は、母と死別したあと、しばらくはこのことに考えが及ばなかった。
わたくしごとになるが、母との死別は田所の気遣いで時々現代に帰還する生活が習慣化した頃、急な衰えが始まったと思うまもなく、かかりつけの病院から救急搬送、そして、総合病院の一室で、バイタル・サインの機器をそばに置いたベッドの上で、およそ4日後に息を引き取った。時々帰還していたとは言え、ある意味でうかつであった。田所の計画に参加の当初、母の年齢は80代に達せず、70代の半ばくらいで、母はすこぶる元気とは言い難いまでも、それほど丈夫ではない身体で、よくぞ息災に歳月を重ねてくれたと、感謝のこもった安心感があった。その頃は、田所の行動が短期間に終了していたので、帰還は出発時期ピタリだった。そしていよいよ太古の時代へ時間旅行するようになるのに合わせて、帰還時期を変更、私はある時から、喜寿77歳の母のもとへ帰還した。そして田所は、慎重を期したのだろうが、帰還時期を、母の年齢に合わせるようにしていた。
仮に母に会うための帰還開始から終了までを3年とすると、田所は、一年の間に、白亜紀で過ごす私たちの年齢の積み重ねに合わせて、私を帰還させていた。帰還と帰還のスパンは必ずしも一定していなかったが、合計一年経つと、78になった母に会いに行くことになった。
母が丈夫でないというのは、例えば季節の変わり目の頃にほぼ必ず腰痛を起こして、ある期間苦しみ、それに耐えていた。私は時に母を病院に連れて行き、腰痛を鎮める薬をもらって、母に服用させていた。
この薬は初め効き目が弱かったので、母の腰痛は夜の睡眠を妨げ、更に昼間も、つまり一日中痛がるようになり、遂に救急車を呼んだことがあった。その時、地元の救急センターで、初めてやや強い薬、正しくは重さの大きい座薬を受けた。これも例えば、かよっていた病院の座薬が、胃への負担を配慮してくれたのか、25mgとすると、センターでいきなり75mgを一時的にという医師の忠告と共に受け取った。これがよく効いた。
あとは病院を変え、50mgを一日一回使う指示を受け、同時に胃を荒らさぬようにと、胃薬を受け取った。
母は幸い、胃をこわすことなく、腰痛が続く平均的期間である約2週間、毎日使った。そして、2週間よりやや長い日数を費やしたのち、ある朝起きると、腰痛がストンと落ちたように消えて、その時からまたしばらくは、再発がなかった。いっとき座薬も不要になる。これに安心し、かつ白亜紀へ戻る必要もあって、私は再三これを繰り返した。しかし、白亜紀に戻ってからの田所のパートナーとしての役目もおろそかには出来ないので、介護サービス等を受けたくとも、ほとんどの時期、おおむね元気な心身状態だった母は、これを受ける資格の範囲外にあり、仕方なく、やや出費を要する民間のサービス組織を頼るしかなかった。依頼内容は、食事と、母の行動範囲の部屋の掃除にとどめた。故に使わぬ部屋にはホコリが次第にたまった。母は、そのホコリを素手でつまんではゴミ箱に捨て、さらに二階の私の部屋のホコリまで拾ってくれた。
詳しくは省くが、私の道楽の一つであった単独バイク・ツーリングをむしろ勧めるほど、母は家事全般をこなす頼もしさと優しさとを以て私に接してくれて、おかげで私はツーリングと偽って、田所のパートナーとしての行動に踏み切ったのだった。それでも母は5 ,60代ごろの元気さは次第に衰え、これに充分配慮した田所の命令に近い勧めにより、自宅に帰還する私の新たな生活形態が生じ、言わば二つの時代をまたにかけた新生活が整っていった。
私がこの生活に入るようになる時、私のバイクは田所のログハウスに置きっ放しであり、当然バッテリーが放電をあっというまに終わり、バッテリー上がりとなった。ところがここでも田所の奇跡の明晰頭脳が発揮され、白亜紀からの遠隔操作によって充電し、更に充電不可能なほどにバッテリーすなわち蓄電池そのものが劣化して交換を要することになっても、またたくまに新品をバイク内に装着する操作を行なった。
このように私はある時までは、田所宅に一旦帰還ののち、自宅へ帰る形をとったが、これは走行の手間がかかり、のちに空っぽのバイクの車庫を閉じたまま、厳重ロックして、私はヘルメットとリュックを持っただけで、身一つで帰宅して、ほとんど家にいて穏やかに過ごす母に、「ただいま」と演技をして、何日かを過ごす次なる生活形態に変えていた。田所宅に放置のままのバイクのバッテリー上がりはこの頃からひんぱんとなった。
さて、先刻の田所の問いかけに、私としては珍しく、そしてようやく反論した。
私「田所よ、ありがたい勧めには感謝するけどよ、どうせ帰還するなら、俺は西暦でいう1979年ごろが一番いい。だがよ、お袋との年齢差はもちろん逆転して、20代の俺がいるところへ、年配となった俺が帰還することになるから、若い頃の俺が外出中の時間帯を狙っても、間違いなくお袋を驚かせ、怪しませるのは明らかだ。だから、お袋に会うのは無理だし、かといって、お袋に気づかれないようなところから、その姿を見るだけというのもつらい。つまり、いずれの時代へも帰る気がしなくなったよ」
田所は「そうか」とたちまち納得したようにひとこと返すと、何も言わなくなった。私は彼の機嫌を損ねたのではないかとも思ったが、ふと気づき直し、田所本来の提案の、『早苗をパートナーとして引き入れる』かなり意外な案件のことを思い出した。今度は彼がそのことをいつ言い出すかと、可能な限りの意見を頭に巡らせ始めた。唐突に田所の提案の言葉がぶつけられた。
田所「ところで早苗さんという女性に、新しくスタッフの一員に加わってもらう件についてだが、出来れば村松、今からでも動いてくれないか」
私は二回続けて彼に反論しなければならなかった。苦し紛れに「あいつはむいてないよ」とひとこと返した。
田所は「まあ待て」と、不敵な笑いを浮かべたような顔つきで、これまたひとこと返した。ややおいて、また短く問い返した。
田所「一面識ない俺が、お前より彼女の資質をほぼ知り尽くしていると言ったら、不愉快か・・ ? 」
私はもはやさらに返す言葉を失っていた。田所の言わば身上調査は微に入り細をうがって遺漏なかった。以前少し書いたが、まず運転免許証を調べた。そこから住所、氏名を調べ、これをもとに戸籍謄本を中心に、家族関係、親族との付き合いをつきとめ、さらに学校時代の交友関係を調べあげ、異性との交際の様子まで調べ尽くした。
私の目には早苗は美形に属して見えた。彼女を『娘』と表現したが、高校生のような、あるいは大学出たての小娘ではなかった。衣料品店で働く以上、例えばレジ打ちや、金銭計算は早く正確だった。彼氏、昔で言う恋人らしき交際相手がいて当然だった。
事実は、早苗は自然に男に執着することきわめて少ないか無きに等しい娘として、ある意味で男っぽい性質に変じていた。その表われの大なる一つが、『拳法』への傾倒と熱心な練習習慣である。
かつてケーキと呼んだスイーツの類いを年の合う友人知己と食べながら、雑談に興じたり、再び三たびスイーツにたどりつく付き合いの形に飽いて、次第に友達付き合いも足が遠のき、逆に友達からの誘いも連絡も、その機会が激減していた。
話がそれるが、まだ黒帯としては初段程度だった彼女に、私は早過ぎる特訓を授けたことがある。平均的に黒帯三段、これは体力と年齢を考慮すると、事実上の最高段位であるが、私は彼女の技量に配慮しながらも、この三段レベルの一つを選んで、並みの男を複数、転瞬に地に這わせる技を教えてみた。
簡単に表現すると、三人に囲まれた場合、かつ、三人が武器を持たぬうちに、1 ,2秒で相手全員をたたきのめす荒技である。技の名称は『回転回し蹴り』であり、己れの身体をほぼ一回転させるあいだに、三人を回し蹴りで蹴り倒す。だが三人との距離、タイミングを即座に見極めて攻撃しないと、技は奏効しない。
早苗は、「これ、あたしがマスター出来たら、一気に強くなれますね」と、まだ身の程知らずと言える期待と願望だけをむき出しにして、目を輝かせた。
私は言い出したからには、逆に彼女の身体に無理な負担をかけてもいけないと思い、それでも当時道場にいた男子門下生を三人呼び、彼らを傷つけまいと、キック・ミットという練習用具をそれぞれに持たせて、「俺に気遣いは無用だ。攻撃が始まったと思ったら、出来るだけ俺が失敗するように、俊敏に動くよう心掛けてくれ」と言って、攻撃をかわす指示を告げた。
「来い」との合図と共に、三人は身構え、間合いをじりじり詰めて来た。
次の瞬間、私は三人の持つキック・ミットを回転回し蹴りで蹴り終えていた。三人共、最初の構えを崩して、つまずきそうになっていた。
「ありがとう」と礼を言って、三人の弟子を去らせた。
三人共口々に「すげえ ! 師範代は達人だ。おお、おっかねぇ」などと言いながら、その場を離れて、キック・ミットをある者は持ったまま眺め、やがて用具入れにしまった。
さすがに早苗は、目の当たり見たばかりの高等技に、恐れをなしたか、表情が暗く見えた。
ただ、私が彼女に指導にあたる時は、必ず言葉づかいは優しく接することを自らに課し、練習中だけ動きの拙さを鋭く戒めて、再び言葉を穏やかにすることを習慣化していたので、自然に、彼女の信頼を得ることになっていった。
彼女は筋が良かった。私も、昇段試験に向けて彼女を鍛えることに、既にまだるさを覚えていた。彼女には女子が活躍する、飛んだりはねたりする映画に見られるような、派手な技の乱用は必要なければ避けるべしと、常に忠告していたし、彼女も、映画の、形ばかりの飛び蹴り技をリスクの多い危険な技とみていた。基本は両足か片足を地につけた動きと心得、練習に励んだ。
だが、彼女を特別扱いすることへの、周囲の批判の声もささやかれ始めた。しっとする者もいた。
この空気を感じ始めた私は、自ら師範代を辞することに決め、早苗とも道場での練習を通した付き合いに、訣別の終止符を打たざるを得ぬこととなった。これでも、場所柄をわきまえ、高等技そのものを、道場で早苗に時間外指導することは必ず慎んだが、他の門下生を相手にして、早苗に見せたり、様々な話題を提供し、雑談したりすることは少なくなかったので、これが不評につながったと思うしかない。
既に彼女は私に習えば強くなれるとの期待と確信を得ていたので、直接私の家を訪れ、「個人として授業料を払うから、村松さんに指導して欲しい」と懇願した。
この頃、私は田所と友人ではなかったものの、パートナーとして彼からの申し出を受けて、タイムトラベルに踏み切る決心をしていた。
私は「ある知人の研究を手伝うことになったので、お前は道場で技を磨いて精進してくれ」としか、訣別の言葉を告げることが出来なかった。
彼女は「あたしもお手伝いしたい。それで村松師範代の稽古を続けたい」と食い下がったが、まさか「恐竜時代で冒険するんだぞ」とは口が裂けても言えなかったので、彼女のかなり落胆した顔つきを見ながら、拳法を通じた浅い縁を切らざるを得なかった。
それが今、田所自ら、早苗を最良の新パートナーとして迎えたいと提案して来たから、何んとも皮肉な再会の念と共に、早苗には現状の生活スタイルのままでいさせてやりたい気持ちが強く脳中に占めていた。
さて、私が早苗にほんの束の間教えかかった回転回し蹴りのことを書いておく。
ただし、これは私が師範代を辞してのちのことだ。自宅庭のサンドバッグ用の鉄柱近くで、物置から出して来たキック・ミットを使い、二人とも普通の服を着て、靴をはいたまま行なった。
三人相手の練習はかなりキツいので、私は両手にキック・ミットを持ち、「いいか、決して無理するな。初めは形ばかりでいい。俺が両手に持ったキック・ミットを初めゆっくり連続して蹴るようにやってみろ」と言って、彼女に蹴らせてみるところから始めた。
案の定、片手のミットはきれいに蹴ったが、そこで力の配分が思うに任せず、二個目のミットを蹴る時には、せいぜい軽くかするにとどまった。彼女はあっさり「まだ、あたしには早過ぎます」と、あきらめる態度になった。
それでも私はほめた。しかも「ブーツでは中足(ちゅうそく)も背足(はいそく)も形をとりにくいだろう。例え回し蹴りでも、裸足でやる時でさえ、基本は中足(ちゅうそく)だ。よく形を守ろうとしたな。それと、軸足の位置がずれていないのも見事だぞ」と、努力を認めることを忘れなかった。
なお、余談ながら、空手や拳法でいう足さきの形のうち、中足(ちゅうそく)とは、足の裏の指と土踏まずとのあいだを指し、上足底(じょうそくてい)ともいう。蹴り技の場合、普通の前蹴りはもちろん、回し蹴りでも、指をしっかり足の甲の側へ曲げて、この部分で蹴る。指をしっかり曲げないでいい加減に蹴ると、当然突き指をする。もう一つの背足(はいそく)とは、足の甲の部分を言い、迅速と蹴りやすさを要する組手や試合などでは、ほとんど背足(はいそく)で蹴る。
ついでに、ほめるのは私の学習塾時代の十八番だった。
生徒が次の説明に進めずに、さらに詳しい説明を求める時、既に私は「さぞかし、じれったいかも知れませんが、ここでつかえることが、君(または女子にはあなた)が、いずれ理解する途中段階である証左と言えます。耐えて下さい」と言って、遂に一問理解した暁には、徹底的に賞賛した。
「よく理解しましたね。たった今、目が輝きましたよ。もう、類題が攻めて来ても、自力でじっくり臨めば大丈夫。大きく前進しました」と、生徒の忍耐と学習意欲を言葉で賞賛することを必ず怠らなかった。現に「類題をお願いします」と、早くも自力正解への意欲を見せる生徒がいたから、私は酷似した別問題を提供し、ほとんどが類題正解を達成した。言い換えれば私の小規模の学習塾の絶好調の時期だったと言える。
早苗に対する個人指導は、彼女にはすまないと思ったが、田所のパートナーとしての役割も興味本位の働きではすませられないところまで、協力活動が本格化しつつあったから、何回か説得を試みるうちに、彼女も偶然の再会までは、あきらめかかっていた。
さて、田所の提案は、彼の性質からして、伊達や酔狂でないことはわかっていた。
私は頭の巡りが悪いほうなので、早苗の拳法をすっぽかした後ろめたさに、田所の真剣な提案の話が重なって、頭の混乱の中で、早苗の男顔負けの格闘技の強さがダブって、彼女の恐竜時代冒険、すなわち田所評価の提案は、あながち非現実的でもないかも知れないと、いくらか考えに変化が出始めていた。
それでも彼女の参加のメリットが納得出来なかったので、田所に問うてみた。
答えはすぐに返って来た。
田所「彼女は友達付き合いをほとんどしなくなった代わりに、初めワープロ、そして今はパソコンのキーボードをブラインド・タッチで、俺もかなわぬスピードで、打ち込む技術をマスターしているし、その他、複雑な画像ソフト機能の操作技術も独学で身につけている。まとめて言えば、情報処理能力が並みのものではない。彼女に量子論の知識がなくとも、俺のコンピューターの習得は確実に身につくと予想出来た。そのぶん、俺の作業が減るし、チェック程度に楽になる」
ここで彼はややためらいの表情を見せたように顔を少し下げ、やがて追加した。
田所「何より彼女は、忙しい生活の中で、自炊して食事する食習慣だ。家政婦扱いのようで、失礼かも知れないが、俺たち全員の今後の食事も、現代の彼女の料理技術を頼って、ガラリと豊かな内容に変わる。もちろん、ここまで無理に頼むことは、場合によっては控えても構わないし、第一、毎日の食事の支度は不可能と言えるから、あいだをおくが、そのあたりは、ぜひ村松の力も頼りたい。・・・どうだ、今少しそちらの世界にいて、彼女に接触してはもらえまいか・・」
早苗に私への少なくとも好意の念があるとまでうぬぼれる気持ちも自信もないが、拳法指導を一つの交換条件に、依頼を持ちかけて承諾を得られる可能性をいささか感じた。一つ田所に問うた。
私「あいつの今の仕事はやめさせることになるのかよ・・」
田所「いや、探検車居住区の都合や、女性であることにも配慮して、かつての村松のように、白亜紀と現代世界との往復を承諾してもらえたら、仕事は帰還しているあいだに、従来通り続けてもらう予定だ」
私は「そうか・・」といささか気のない返事をしながらも、どういうわけか、早苗に再び会って、話を持ちかけてみても悪くない気持ちも生じていた。
そうなると、先を余り考えないタチの私は、田所の提案に報いたいとさえ思うようになっていた。これが早苗への淡い想いの始まりということにまでは、まだ気づいていない鈍さだが、これまた不思議なことに、まず彼女に会いたい思いがふつふつと湧いて来つつあった。彼女が拳法指導の中止で、愛想尽かししていないことは、先刻の来意で驚くと共に、懐かしいうれしさも感じていた。
私「田所、何んだかお前の熱心さに根負けした感じだ」
田所「初めはその程度で構わぬ。ともかく承知してくれてありがたく思うよ」
私「じゃあさ、早速あいつにまた会ってみるよ。ただし、何か道具が欲しい。お前の家に置いてあるバイクに乗らせてくれないか・・」
田所「わかった。お前を転送して、・・・いや、お前の自宅車庫に充電完了のパイクを転送しておく。行動が早くなる。で、いつ動けるのだ ? 」
私「今からでもあいつを捕まえられる。俺の気持ちが変わらねえうちに、バイクの手配を頼む。ただしよぉ、俺は口下手だから、話がスムーズに進むかどうかには自信がねえぞ」
田所「俺も最大限の協力をする。要は彼女に興味を持たせることだから、それを考えながら、お前の交渉の助力をする」
早苗の働く衣料品店は、夜暗くなるまで営業していた。私は試しにヘルメットなどを用意して、バイクの車庫に行ってみた。厳重ロックとは言っても、鍵そのものは貧弱で、一応二種類の鍵を使って、とりあえず二重ロックしてあるだけだった。
やや懐かしい大型バイクが既に暗い車庫の中に、サイド・スタンドをかけたまま、置かれているのを見て、改めて田所の図り知れぬ頭脳と技術に驚いた。
早速車庫から出して、タンク・キャップに満タンにしてあることにも驚いた。
エンジンも一発でかかり、私は普段着のまま発進した。自宅から早苗の働く店までは、数キロしかなく、すぐに着いた。ただし、薄暮の迫る時刻となっていた。バイクを停める特別なスペースはないので、あいたところへテキトーに停め、店内に入った。
ここでしまったと思った。彼女は休みの日だと言っていたのを思い出した。
田所に連絡しようと思ったが、何んとなく廉価な肌着でも買って帰ろうと、店内をうろつき始めた。背中に声がかかった。
振り返ると、何んと早苗だった。
私「あれぇ、お前、きょうは休みって言っただろ・・」
早苗「それがね、一人病欠の店員が出て、急に呼び出されたの。こういう時、従業員への待遇はいいほうで、途中からの出勤でも、どこかで代休が丸一日とれるの」
これを幸運と呼ぶべきかどうかはわからないが、ともかく彼女に会えた。
早苗「村松さん、買い物の用が出来たの ? それなら、あたしが見て上げる」
私「へえー、お前、さっきの今にしては優しいな。やっぱり彼氏とのデートの約束でもあるのかよ」
早苗「バカねぇ。そんなんじゃないわよ。それに村松さんはここで何か買う以上、お客でしょ。これでもきちんと仕事してるんだから・・。で、何を買うの ? 」
裏切るようで気が引けたが、「買い物は特にない。お前がいなければ肌着でも買おうと思ってたぐらいだ。でも会えたから中止だ」
早苗の顔がやや輝いた。軽く笑顔を浮かべたのもそのせいか。
早苗「今度は村松さんから、あたしに用があって来たのよね」
私「そうだ。俺にはお前が必要になった」
にわかに早苗が怪訝な顔つきになった。
私「あ、誤解しないでくれ。お前に気があって来たんじゃねえんだ」
また、失言だと気づいた。どうも女子の扱いはダメだ。
早苗「失礼ね。わざわざ断わることじゃないでしょ。あたしだって、村松さんに告白されたいなんて、少しも期待なんかしてないわよ。で、何んであたしに会いに来たの ? 」
私「まだ仕事だろ。俺、閉店ごろにまた来るから、チョイと付き合ってくれないか・・」
早苗「あれぇ、やっぱり、ちょっとしたデートの誘いみたい。ねえ、そうなの ? 」
答えに窮して私は、テキトーに返した。
私「仕事上がったら、夕飯おごるからさ、話はその時、詳しくするよ」
早苗「ごめん。今夜の夕飯の支度してから臨時で店に来たから、あした代休とれるの。あした、改めて店の近くで待ち合わせて、お昼ご飯おごってくれるってことで来てくれない ? 」
仕方ないと思って承知の言葉を返した。帰ろうとしかかったところへ、呼び止められた。
早苗「ねえ、よかったら、あと2時間くらいで終わるから、もう少し店の中でぶらついててくれない ? 」
私「まあ、お前の都合知らないでいきなり来たから、今夜ヒマだし、かまわねえけど・・、うーん。時間つぶし出来るかなぁ」
早苗「買うつもりなくていいのよ。その代わりあたしが客の相手をするフリをして、付き合ってあげるっての、どお ? 」
結局、彼女の言葉に従い、店内にとどまることにした。田所曰くの彼女の性質・人物分析を思い出した。久しぶりに訪ねて来た私に、しばらく店にいて欲しいのだと思った。うぬぼれるわけではないが、彼女もさびしいのである。時々レジ・カウンターに呼び出され、再び三たび彼女は私のところへ足早に戻って来た。そのたびに雑談した。
ようやく閉店時間となり、彼女は自由の身となった。だが、私は彼女の押しの強さに誘導されて、まんまと薄手のジャンバー一着を買わされた。
店内を出ると、あたりは暗くなっていた。彼女は、バイク置き場に着くまでのあいだにも、既に疑いの言葉を私に投げかけた。先刻のロケットのことなどだ。
私はロケットでアメリカへ拉致するなどというのは、即興の作り話だと答え、やがて、お互いのバイクに乗ってこの夜は別れた。
翌日、早苗の言葉に従って、正午近くにバイクで自宅を出発、店の駐車場へ行くと、彼女はいくらか先に来ていた。それぞれバイク2台にまたがり、テキトーに食堂を目指した。
さほど混んでいない一軒の食堂に入ると、早苗は軽く笑顔を浮かべて口をひらいた。
早苗「夕べは閉店時間まで無理に付き合わせちゃって、ごめんね。でも、うれしかった。それに二日続きで会ってくれて、ありがとう」
「うむ」とひとこと返したあと、私は早苗のリードに負けて、昨夜同様のよもやまの前置き話が長くなってもマズいと思い、あえて真面目な態度になり、「今から話すことは、必ず他言無用と心得てくれ」と切り出した。彼女は意外に素直な態度になることがある。やや真剣な顔つきになって、軽くうなずいた。
さらに本題に入り、一通り話すと、ロケットの作り話以上に、彼女は信じようとしなかった。私は前日の昼間の静電気が身体にねばつく感覚を与えた話を繰り返した。そして、私は既に何回も経験済みで、現にここにこうして元気でいるとも告げた。
早苗の顔に迷いが浮かんだ。とにかく私は口下手だった。田所に連絡してみた。
田所「早苗さん、きのう、コンピューターの画面でお目にかかった者です」
早苗の顔に驚嘆の色が浮かんだ。彼女は声だけの田所の姿をさがそうと、店内をキョロキョロ見まわしたりした。
田所「どうしてもと強要するものではありませんが、あなたのコンピューター技術の助けが得られたら、私たちの仕事が大幅に能率アップします。なお、私の声はあなたと村松にしか聞こえないようにしてあります。周りの人には、村松と雑談しているとしか、聞こえません。おっと、私の出番は早過ぎましたか。村松に再びバトン・タッチします」
食事のあいだ、田所は数回、早苗に話しかけた。初め怪しみ、次に不安を見せていた早苗だったが、女の身で拳法の上達に血道を上げる点で、好奇心旺盛な彼女は、次第に未知の世界にも興味を見せ始めていた。これが田所の先見の明であった。
早苗「本物の恐竜がいるの ? 」
私「ああそうだよ。映画のCGじゃなくて、絶滅以前の生身の恐竜が時々現われる」
早苗「現代の猛獣世界より、はるかに危険そうだと思うけど、肉食恐竜に襲われて、何んとか逃げたりしたの ? 」
私「パソコンの画面で顔を見せた田所という奴は世界一の物理学者だ。理論物理学と実験物理学を兼ねた仮説能力と実践能力を持っている。身体の大小を問わず、恐竜により死傷することがない方法も開発に成功しているから、全く心配ないよ。事実ティラノサウルスに襲われたけど、戦車みたいな探検車で余裕さえ感じながら、逃げ切った。これはな、仮に探検車から出たところでつかまってもある方法で俺たちはケガ一つしない」
食事が終わる頃には、早苗は興味津々の顔つきになって承諾した。詳しい話はひとまず私の家に帰ってすることにした。
そのあと彼女には自分の家に帰宅してもらい、とりあえず必要なものをそろえるよう告げることにした。実に予想外の円滑な交渉結果で話がまとまった。
改めて彼女の姓名を記しておく。本名『北沢早苗(きたざわ・さなえ)』、とりあえず20代。
事実上、この時、女性パートナー誕生である。
─第1章「先史時代」第2節その2了、
第2節その3
へつづく─(2015 年11 月 16 日更新)
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