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玲子3~誘い~



新企画が目白押しの春、慎司は多数案件を抱えて、ここのところ忙しいようだ。
的確に迅速に仕事を進める彼は、なかなか敏腕らしい。
私は仕事ができる男が好きだ。
時折、慎司の横顔を覗き見る。真剣なまなざしが、私を掻き立てる。

いったいどんな表情で、女を抱くのだろう・・・   

「久賀さん、」急にこちらを向いて、慎司が呼びかける。
私は、一瞬で我に返る。
この前もそう・・・私の心を読まれているのだろうか。それとも、偶然?
「悪いけど、今日残業してもらえないかな。急で申し訳ないけど・・・」
「はい、大丈夫です」
「じゃ、早速このデータ、チェックしてここへメールしておいて。」
そう言って、てきぱきと指示をする慎司。
また、あの「匂い」が強くなる。

アタシの本能を刺激する、この男の匂い。

19時を回って、オフィスからひとり、そしてまたひとりと退社していく。
そうしていつしか、私と慎司だけが残った。
「う~んっ」慎司がイスの上で両手をあげて、大きく伸びをする。
「あとちょっとだ。久賀さんのおかげだよ。」
「私でも少しは、お役にたってます?」
「もちろん!ほんと助かる。なにかご馳走しなきゃな」
「ほんとに?うれしい!」私は計算した笑顔と声のトーンで、甘える。
「久賀さん、お酒はいけるの?」にこにこしながら慎司が聞いてくる。
「そんなに強くないですけど、お酒は好きですよ。ちょっと酔った時の気分が好きなの」
「へぇ」慎司が私の顔を見つめる。
「久賀さんの酔ったところ、見たいな。なんか色っぽそうだな」
「どうかしら。」私は、いたずらっぽく微笑む。
「じゃあ・・・」言いかけて、慎司は机に向き直り、パソコン操作を再開する。
私は慎司の次の言葉を、待つ。

ハヤク、誘ッテキテ・・・

「うまい酒と肴をご馳走するよ。久賀さんの都合のいい日を、俺宛にメールしておいて」
慎司はパソコンに顔を向けたまま、感情を控えた口調で告げた。

慎司の瞳の奥の「なにか」を、アタシは確認することができなかった。



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