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玲子8~接近~


隣同士なのにこっそりメール交換なんて、それだけで悪いことをしているようで
いい気分だ。
『久賀さん
金曜日はお疲れ様。
久賀さんの色っぽい目つきについ、自分を抑えられなくなってしまいました。
やっぱりキミは、魅力的な人だね。
キミのことをもっと知りたくなったんだけど、だめかな。       瀬川』

へえ、そうやっていつも口説きメールを送ってるのね。奥さんだけじゃなく、彼女までいるのにそれでもまだ欲しがるなんて、まったく女好きね。
早速昼休みを早めに切り上げて、だれもいないオフィスでメールの返事を打った。
『瀬川さま
メールありがとうございます。金曜日はご馳走様でした。
私の何を知りたいのですか?
瀬川さんも私に何か、教えてくれるのかしら。            久賀』


慎司にこの前の仕返しをするチャンスがやってきた。
土曜日のイベント会場に、休日出勤で品物を届けることになったのだ。
もしかしたら、慎司の策略かもしれなかった。
「派遣なのに、付き合ってもらっちゃって申し訳ないね。久賀さんは烏山だったかな。
オレは調布だから車で迎えに行くよ。」そう言って前日に打ち合わせた。

当日はまるでドライブデートのようだった。
真っ赤なアウディで、慎司は定時に待ち合わせの駅前に迎えに来た。
スーツ姿しか見たことのない慎司だが、今日は白のポロシャツの襟を立てて
紺のチノパンを穿いている。いつもより表情もソフトに見えた。
「いい車に乗っているのね」
「ああ、これ?これは奥さんの車だよ。うちのやつ、見かけに似合わず派手好きなんだ。
結婚前に親に買ってもらったものらしいよ。オレのは国産車。今車検に出してるんで
借りてきたんだ。」
「見かけに似合わずって、奥様、地味なの?」私は笑いながら聞いた。
「う~ん、そうだね。玲子ちゃんみたいな華はない女だな」
「そういう女を自分の色に染めるのが好きなんじゃない?」私が悪戯っぽく訊ねる。
「どうかな。やっぱり色っぽい子がいいよ。男だからね。」あはは、と笑いながら慎司が答える。
「奥様に押し切られちゃったの?」
「まあ、そんなところかな。あいつはオレがいないとダメらしい。あ、のろけちゃった?」
そうやって冗談めいているけど、そういうことなのかも、と思った。
奥さんにしておくには、都合がいいのかもね。マジメな、お嬢さん系?

車は甲州街道を抜けて、首都高へ入る。
「で、彼女は色っぽいタイプなのかしら。時々電話してくる取引先の、福田さん・・・」
「え?なんで知ってるの?北山が話した?」慎司はあっさりと認めた。
「職場の子、みんな知ってますよ。知られてないと思ってるのはご本人だけかも」
私は噴き出して笑った。
「あはは、そっかぁ。バレてるのかぁ。」
なんだか、嬉しそうね。『オレのことを女が放っとかないんだよ』って、自慢?
「それなのに・・・ダメですよぉ。私にあんな意味深なメール送ったりしちゃ」
「そう?ダメなの?」ちらっと、こちらを見る。
「オレじゃ、ダメかぁ」
「そういうんじゃなくって、欲張りねってこと」
「欲張りかぁ。誰でもいいわけじゃないよ。・・・玲子ちゃんだからさ、オレ・・・」
言いかけて、慎司は黙った。
会場が見えてきた。


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