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玲子32~求愛~
お互いの名前を呼び合う以外には言葉もない、シンプルなセックス。
「玲子、玲子・・・」私の名を呼びながら、慎司は果てた。
頬を寄せ合って、私のベッドで余韻に浸っていると、慎司は上着のポケットから
携帯電話を取り出して操作し、私に画面を見せた。
そこには、ベッドに横たわる女の素足だけが映っていた。
「前にラブホテルで撮った写真だよ」
「脚だけしか写してなかったの?」
「ああ。やっぱり、悪い気がして・・・」慎司は笑った。
「安心した?」私の顔を覗き込む。
「そうね」そう悪い男でもなかったみたいね。私はクスッと笑った。
「これも削除するよ。パソコンの方も。だから・・・」慎司が私を見つめる。
「だからもう、玲子は自由だ」優しく、そしてちょっと寂しげに、慎司は微笑んだ。
「ごめんね」慎司が謝る。
「いいのよ、もう」そう、いいの。写真なんて、どうでもよかったの。
私が、慎司を欲しかっただけ。
そう言いかけたけど、言わなかった。言う必要はないと思った。
「玲子さん、」北山に呼ばれて、はっと我に返った。
「どうしたの?今日はなんだか、上の空だね」
「ごめんなさい。」
北山との食事中に、慎司のことを考えていた。
おいしい串焼きを食べに行こうと誘われて、目黒の店に来ていた。
「なにかあった?もしかして、前に言ってたヤツが何か?」心配そうに聞く北山。
「いいえ、大丈夫よ。あれからメールも来なくなったし。諦めてくれたのかしら」
「そうか、それはよかった!」北山は素直に喜んだ。
そう・・・あれから慎司からメールは来ない。普段通りに職場では振舞っているけれど。
「玲子さん、突然だけど」北山が改まってこちらに身体を向ける。
「こうして何度も玲子さんを誘って食事して、玲子さんと話して、玲子さんが隣で笑って。
おれ、すごく楽しいし、すごく嬉しいんだ」
私は黙って聞いていた。
「これからも会ってほしい。おれのこと、もっと知ってほしい。玲子さんのことも知りたい。だめかな?」
私が何も答えないので、北山ははっきりと言った。
「きちんと付き合いたいんだ、玲子さんと。これからのことも踏まえて」
アナタには、アタシのことなんて、多分一生わからないわ。
アタシもアナタのこと、知りたいなんて、これっぽっちも思わない。
アタシが上っ面の笑顔で、上辺の話で、ここに座っていることに
どうして気付きもしないのかしら。まったく、呆れちゃうわ。
それでもアタシは、優しい笑顔を作って答える。
「少し、考えさせてほしいの。」
北山は前向きに捉えた。
「考えてくれるんだね、よかった。この場で断られるかと思った」
そう言って、嬉しそうに笑った。
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