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玲子39~追想~


食あたりでも起こしたような、胸のむかつきを覚える。
きっと尚子と会ったせいだろう。アタシは、ああいう女が大嫌いだ。
自分で選んだくせに、まるで悲劇のヒロイン気取りで、他人のせいにする。
そして自分の苦しみを、人にも背負わせようとする。
それでいて自分から何も変えようとはしない。
依存心が強くて、プライドが高く、人の気持ちに鈍感だ。
ああまったく!気を遣って、こんな時間まで。腕の時計は11時を回ろうとしていた。

慎司は今頃どこで何をしているのだろう・・・ふと、頭をよぎった。
「自惚れるなよ」慎司の言葉を思い出す。
自惚れてなんかいないわよ。アタシは、今だって慎司に電話できないでいるんだから。
いつだって慎司からのコンタクトを待っている。自分からは求められないでいる。
慎司に求められたいのに。こんなにも、欲しいのに・・・。

携帯電話の相手先番号リストを覗く。
慎司の番号で、目が留まる。でも・・・
そのままボタンを押し続けて「北山」の電話番号で指を止めた。
アタシは無造作に発信ボタンを押す。
6回目のコールで、北山が出た。
「もしもし・・・玲子さん?」
「ごめんなさい、私です・・・」
「なにかあったの?どうした??」心配そうな北山の声。
「ううん・・・急に声が聞きたくなって」男に媚びるような声を出してみる。
「今どこ?外なの?」
「ええ。吉祥寺・・・北山さん、今から会えないかしら。遅すぎる?」
「いや、かまわないよ。今、新宿なんだ。これからすぐ行く。待ってて」

依存する女は嫌い。
それなのに、アタシも北山に依存する?違う。これは依存じゃない、利用だ。
なぜならアタシは、北山に自分を委ねたりなんかしないから。

慎司と結婚した尚子と、尚子に慎司を取られた企画部の遠山と、いったいどちらが不幸なのか。
アタシは北山を待ちながら、そんなことを考えていた。
本当のところはどうか分らないが、周りの噂では今でも遠山は慎司を忘れられずにいるという。
でも、一緒に暮らしているのに、そばにいるのに、孤独だなんて・・・
慎司に選ばれたばっかりに、尚子は慎司によって一生苦しめられるのだ。
その方が不幸というものではないのか。

尚子と、父とが、シンクロする。自分を裏切った相手なのに、憎いはずなのに、愛しているという。
慎司と、母が、重なる。自分の欲求のままに生きることによって、相手を傷つけ、
置き去りにすることも厭わない。

どちらもアタシにとって、軽蔑すべき存在だ。

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