玲子40～意思～
息を切らせながら。
「ごめん、待った？」
「ううん。こちらこそ、急にごめんなさい」
「いや、うれしかったよ、電話してくれて。おなか空いてない？」
「少し」
「遅くまでやってる、旨いラーメン屋知ってるんだ。行こうよ」
東急百貨店の脇道を入ったところに店はあった。
こんな時間にラーメンを食べるなんて、何年ぶりだろう。
小ぎれいな店のカウンターに、並んで座った。
「いろいろメニューあるけど、普通のラーメンが一番旨いよ」そう言って、
私の答えを待たずに北山は「ラーメン２つね」と、さっさとオーダーする。
シンプルを絵に描いたようなラーメンを一口食べた。スープも麺も私好みだった。
「おいしい・・・」小さく口に出してみた。
「旨い？よかったぁ！アッサリしてて、飲んだ後に、もたれなくていいんだよね～。」
子供のように得意げな北山の顔を見て、なんだかおかしくなって噴き出した。
「なに？オレ、なんかおかしいこと言ったかなぁ」そう笑ってまた、
ずるずるとラーメンをすすった。
北山は、本当になんでもおいしそうに食べる才能があると思う。
「すごくおいしいんだけど、もうおなか一杯。残しちゃってごめんなさい」
私たちは店を出た後、急に手持ちぶさたになった。
頬にあたる風は、もう秋を告げている。
「どうしようか。１２時過ぎてるね・・・送ろうか？・・・それとも・・・」
一呼吸置いて、北山が言った。
「どこかに泊まっていく？」
北山に手を引かれて歩いた。北山は何も話さない。どんどん歩いて行く。
お互いに無言だった。
ビジネスホテルの入り口を入ると、「ここで待ってて」と告げて、
北山はフロントに歩いて行く。
チェックインを済ませ、部屋のキーをさげて私の元へ戻ってきた北山は、
私の手をしっかりとつないで、エレベーターまで歩いていった。
いつもの北山とは違う、強い意思、のようなものが、無言のままの北山から感じ取れた。
エレベーターを上がって、部屋に入る。
たいして広くはないツインルームだった。
ビジネスホテルのツインルーム、という選択に、北山の「誠意」が伺えた。
「誠意」なんて、いつものアタシにとっては、どうでもいいもの。
でも今夜は、そんな余計なものが欲しいような気もする。
この胸のむかつきを、北山の誠意とやらで、浄化することができるかどうかは別として。
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