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SENPAI 20


当時はまだ、「売り手市場」だった。
丸の内界隈を颯爽と歩く自分の姿を想像し、希望に満ちて就職した。
花形と呼ばれる秘書課配属で有頂天になっていたが、
連日行われる研修、秘書課といえども通らなければならない外務員試験、
自分の無知さ、常識のなさを思い知らされる毎日だった。

いまだに、あれほど好きになれる人は現れない。
いつかきっと出会えるよ。
そう自分に言い聞かせて、今は焦らずに毎日を吸収していこう、
そう思っていた。

ゴールデンウィークを過ぎた頃、カナコから久々に連絡があった。
彼女は大手旅行代理店に勤務していた。
久しぶりにサークルの同期会があるという。
「行こうよ!みんなに会えるよ。楽しみだねぇ~」はしゃぐカナコに、私も嬉しくなった。

新宿の居酒屋で、同期たちがぞくぞくと集まった。
懐かしい面々。夏合宿で、テーブルの下で手を握ったMも来ている。
金曜の夜、それぞれちょっとオトナ顔で、お酒を飲んで近況を報告しあう。
まだ社会に出て、数ヶ月なのにね。そしていつしか思い出話。

「そうそう、秋田のケイ、覚えてる?今日誘ったんだけど、仕事でこれないんだって。」
カナコが、「あたりめ」を咥えながら話す。
「ああ、ケイね。懐かしいなぁ。」秋田。先輩を思い出そうとしたけど・・・
もう遠い記憶のようだ。
「でね、ケイがゴールデンウィークに秋田に帰ったときに、
ばったり街でK先輩に会ったんだって。
先輩、秋田に帰ってからすぐにこっちで就職しなおして、
今は横浜のメーカーに勤めてるらしいよ!
でね、ケイが『うさぎに連絡した?東京で会えばいいのに』って言ったらね、
先輩なんていったと思う?
『そんなに簡単にできるなら、あの時別れたりなんかしない』って言ったんだって!
なんか、かっこよくない?(笑)
・・・・ちょっと、うさぎ、泣いてるの?」

ああ、私は、見捨てられたんじゃなかったんだ。
私のこと、想っていてくれたんだ。最後まで、きっと。
そのとき、私は確信した。
あなたなりに、精一杯、大切に想ってくれたこと。
あなたのすべてで受けとめようとしてくれたこと。
ほんとうに、ありがとう。
あなたにばかり、求めていた。
あなたにもっと、与えてあげられていたら。
ごめんね。
あなたを忘れない。
あなたがここに、胸の奥に、ずっと、いるから。


うさぎ、うさぎ・・・

先輩の声が、きこえる。


ー了ー

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